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砂の花  作者: 高千穂ゆずる
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色とりどりの 第10話

「あの連続殺人事件と同一犯、なんていうことはいくらなんでも……ないよな」

 そんな声が捜査班の中から聞こえてくる。

「このビルにいつ遺棄されたのかわからないが、あきらかに時期が違うだろう」

「じゃあ偶然?」

「同じような殺害方法をとる殺人犯が何人もいてたまるか」

 捜査班がざわつき始めた。

「そこまでだ。この遺体からはまだなにもわかっていないんだ。勝手な憶測でブレたりするなよ」

 上司の大声で刑事たちはしんと静まった。やがてそれぞれの持場へと移動していく。残ったのはルイスとローラン、そして刑事部長の三人だった。

「同一犯だと決まったわけじゃないから、とりあえずおまえはこっちを担当してくれ。ガイスラーの報告を待って、あがってきたら連絡をよこせ」

 上司の指示を受けたルイスは待つのはいやだと言わんばかりに部屋を飛び出した。その後姿を目で追いながら、

「この被害者が今の事件と絡んでいたら、アイツは外すんだよな」

 上司に確認する。

「そういうことになるな。なんだ。やっぱりルイスも班に加えろって?」

「いいや……。アイツはまだ感情のコントロールがうまくできない。自分の身内が事件に絡んでいたら、冷静に対処できるとは思えないから同一犯だとわかった時点で外すべきだね」

 ルイスからホワイトボードの白骨死体の写真へ視線を戻したローランは、淡々とそう言い放った。


「ねぇルイス」

 ベッドの中で本を広げ寛いでいるルイスの横へ潜り込みながら、神妙な声でレナが声をかける。

「ローランと話していたとき途中様子がおかしかったけど、なにを考えていたの。あたしの目は節穴じゃないのよ」

 ルイスの鼻の頭をぴしりと指で弾いてやる。鋭い痛みに顔を仰け反らせたルイスの、乾いたばかりの金髪が大げさに跳ねた。

「めざといな」

 痛む鼻の頭を擦りながらルイスが呟く。

「言ってみなさいよ。聞くから」

「……」

 レナがしているように、ルイスも膝を抱えた。シーツの上に浮かんだ長いドレープに、影が沿うように縁取る。

「まさか疑ってるわけじゃないよね」

 じっとりとした視線を向けた。

「それはない。あのとき考えていたのは犯人像だ」

 パジャマの袖の折返しを指で弄びながらルイスは続ける。

「犯人がレナのことを観察していて、親しい人間を狙っているならどうして俺は生きてるんだろうな。犯人が男なのか女なのかもわかっていないが、少なくとも今までのどの被害者よりも俺はレナに近い人間だ。恋人の俺を狙わないっていうのは不可解だ」

「そうよね。公言してなくても観察しているなら気づくはず」

「むしろ、そんなに重要じゃない人間を狙っているとしか考えられない」

 ルイスの言葉にレナが眉根を寄せる。

「みんないい人だし、あたしには重要で大切な友人ばっかりだから」

「すまない」

 失言だったことはわかっていたようだ。ルイスは肩を竦めて謝った。

「そういう素直なところが好きよ」

 こつん、と額をぶつけるとルイスの手が頬にあてがわれた。

 シャワーから出たばかりの義弟の手は熱いくらいだった。大きな手のひらに促されながら、レナはゆっくりと上を向いた。金色が散らばる空色の虹彩が見下ろしてくる。長い睫毛が落ち着きなく何度も瞬いた。

「どうしたの」

「レナを失ったら俺は正気でいられない。俺は刑事なのに、もしも犯人がレナになにかしたら逮捕じゃなく確実に殺す」

「……物騒なことを言わない」

 レナはルイスの頭をぽんぽんと軽く叩く。

「あたしは大丈夫よ。アンタもいるしローランだっているもの」

 それに――とレナは姿勢を正した。

「守られてばっかりっていうのは性分じゃないの。狙いがあたしだっていうんならこっちだって好都合よ。犯人のヤツ、ぜったいに後悔させてやるから」

 ローランが念を押したことが裏目に出ていた。数時間前までは、友人が殺されたのは自分のせいだと落ち込んでいたのに。

 いや自分のせいだ、責任だという気持ちは抱えている。ただ、狙いが自分だとわかれば話は別だ。身を守る術は知っている。嫌というほど。

「無茶はしないでくれ。今、言っただろ? レナを失ったら俺は」

「失わないから安心して。そんなことになったらルイスがどうなるかなんて、もう、すぐ想像できるもの」

 浮浪者のような風体を想像したレナが憐れむような目をした。

「どんな姿を想像してるのか、聞かないほうがいいな」

 憐れみの目を向ける恋人に、ルイスは苦笑を浮かべるしかなかった。


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