第八話 桜餅
「そう。なんだか変な目的に向かってる気がしないわけでもないけれど、あなたがそう選択するなら頑張りなさい」
「はい!」
クーリエ母は少しビミョーな顔になりながらも微笑み、こうしてクーリエは聖女候補となったのだった。
***
聖女候補になると決めたクーリエは翌朝から侍女をつけられることとなった。明るい桃色の髪に大きな黄緑の瞳。
「メルです!よろしくお願いします!」
無邪気で可愛らしい少女である。そして主となったクーリエはというと・・・
「な、なんだか桜餅のような配色・・・」
「?クーリエ様?何かありましたか?」
「え?あ、大丈夫ですよ。はい。ええと。メル・・・さん?ちゃん?はなんで私なんかの侍女に?」
珍しく緊張していた!・・・しているのか?
「メルとお呼びください!私は、貧しい村で暮らしてたんですけど、弟や妹達のために売られちゃって・・・。そこでミテーナ様に拾っていただいたのです!」
ミテーナ・サンクタ。騎士団長の妹であり、文官棟の聖女と呼ばれる才女。そして・・・
「お母様が人を買った・・・?!」
クーリエ・サンクタの母。
「はい!ガラの悪い男に売られてしまったんですけど、それを目撃したミテーナ様が私を買って、家族にたくさんのお金を渡してくれて!本当に死んでも感謝しきれません!」
胸の前で指を組みうっとりとするメルになんとも言えない危機感を覚えるクーリエ。
(お母様が連れてきた子達ってなんかみんなこんなふうになってない?私からしたら普通に怖いお母様なんだけど・・・)
「そ、そうですか。では今日からよろしくお願いします、メル」
「お任せください!クーリエ様!では早速今日の予定をお伝えします!今日は王都の正教会で面接があるそうです。その後、加護の検査が行われ、その場で聖女かどうかが決定されるとのことです!」
クーリエが目を瞬いた。
「私、昨日初めて聖女になると決めたのですが。そんなに早く聖女かどうか決めるのですか?」
「なんでも面接と加護の検査だけで適性がわかるそうですよ!適性があれば後日、聖女の加護が与えられるそうです!」
「でも私、今日1日料理に予定なのですが・・・」
「え、ええ・・・。そんな。私、クーリエ様が聖女になられるところを見るのをとても楽しみにしていたのに・・・」
クーリエの願いはメルのあどけない上目遣いにより一瞬で砕けてしまった。
「わ、わかりました、王都に行けばいいんでしょう!ついでに食材買い込む!」
クーリエの王都行きの目的が聖女の面接から食材の買い出しに置き換わった。
「ではクーリエ様を思いっきり綺麗にして見せます!」
「ええ?いや、そんなことしなくても・・・」
「さあ!ここに座ってください!行きますよぉぉ!伊達にお姉ちゃんをやってきたわけじゃありません!」
クーリエは腕捲りをしたメルによって髪を梳られるのだった。
***
・・・約30分後。腰まである青紫の髪が綺麗に編み込みにされハーフアップに。服装はいつもの制服ではなく薄い空色と柔らかな黄色のワンピース。少しの化粧だけで女神のようになったクーリエが鏡の前に立っていた。しかし・・・その中身が女神のようになったのかというとそうではない。
「おやつが食べたい・・・」
「もう!クーリエ様、おやつばっかり食べてるとお肌が荒れちゃいますよ?こんなにすべすべで綺麗なお肌なんですからもっと大事にしましょう!」
げっそりとしてクーリエに力説するメルの言葉は果たして届いているのだろうか。
「髪の毛、こんなに複雑にする必要あった?」
「クーリエ様が普段ガサツすぎるだけです!せめて!せめて髪の毛は毎日ときましょう!」
クーリエの敬語はこの30分でどこかへ消え去り、メルはかなり辛辣な物言いとなっていた。
「ふう。それじゃあ、行こうか。王都まで天馬の神獣で行くけどメルは乗れる?」
「・・・多分乗れます」
「そっか。念のため私と一緒に乗ろう。叔父様《騎士団長》に乗馬はある程度刷り込まれてるから」
そうして2人は王都へ向かった。純白の天馬に乗って軽やかに。クーリエは知らない。魔物に対して圧倒的な強さを誇る神の使い、神獣を使役することができるという意味を。
***
王城にて。王子はベッドに寝転びつぶやいた。
「まったく・・・。我がハトコは全員興味深いことをする・・・。!待て、あの少女・・・」
その目に映っているのはベッドの天蓋ではない。今まさに王都へ向かうクーリエとメルだった。
次回「王子、口説く」明日20時投稿です!




