第六話 ・・・母は強し
保健室の扉で仁王立ちしている学園長母とその後ろからピョコっと顔を出すクーリエ母。2人は騎士団長である学園長の父でも勝てない強者だった。
「まあまあ。今回の騒動のきっかけはウチの娘だったみたいだから。今プレセスは27歳でしょ?三十路までに新たな勇者が現れなかったら魔王討伐に行くみたいなんだからあと3年の我慢よ」
「それより本当に申し訳ないわ。このタイミングで旦那がいないなんて。彼なら根性から叩き直すなんて赤子の手をひねるよりも簡単だと思ったのに・・・」
学園長はタラリと汗が吹き出すのを感じた。
(父上の修行は死ぬ!マジで死ぬ!ヤバい!いなくて良かった・・・)
ドンガラガッシャーン!ベッドからクーリエが落ちる。打った頭を撫でながらクーリエは母達を見て顔を引き攣らせた。
「痛だだ・・・。ゲッ!お、お母様?叔母様まで・・・」
「クーリエちゃーん!久しぶりー!元気にしてた?暴走したって聞いたけど大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?うちの愚息にいじめられてない?生徒会大変でしょ?応援してるわ!まだ料理してるの?食べたいわ〜。今度うちに泊まりにこない?プレセスの子ども頃の写真いっぱいあるわよ!美味しいお菓子もあるの!なんでも外国の限定菓子らしいのよ!クーリエちゃんに食べてもらいたくて残してあるから!ね?ね?」
学園長母はクーリエに気づくなり抱きしめる。クーリエは諦めているのかなされるがまま。それをクーリエ母は呆れながら学園長と養護教諭、デレゲに目を向け、
「今回はなにがトリガーになったの。何故うちの娘が暴走したの。どんな影響が出たの。被害報告を後でまとめて頂戴。あ、あと貴方が次の勇者候補ね。頑張って」
質問攻めにした。デレゲは褒められ少し照れている。反射的に正座をしていた学園長は立ち上がって出口を示した。
「私も原因究明に努めます。ですから叔母上、母上とクーリエを連れて一旦お帰りになられては・・・」
学園長は恐れていた。クーリエが学園長母に「学園長にクッキー取られた」というのではないかと。母は般若のような形相で説教するに違いない。
(とりあえず叔母上に母上をお持ち帰りしてもらえれば学園長としての威厳は保つことができる・・・ハズ)
「原因がわからない限りそれは無理ね。今は大丈夫みたいだけど、何度も暴走状態にするのは危険なの。原因だけでも知らないと」
クーリエ母が首を横に振る。そしてギロリと学園長を睨む。
「クーリエにあの事は言ったの?」
途端に学園長が慌て始める。あのこと、つまり聖女のことはできるだけ話したくなかったのだ。
「い、いえ。まだちょっと・・・」
「学園長、「あの事」とは一体何なのだ。この僕にも教えろ」
デレゲが学園長を見上げる。学園長はため息をつく。
「君は生徒会室にでも帰るといい。話せる時が来たら話そう」
デレゲが勢いよく立ち上がる。そのまま学園長の胸ぐらをつかむ。
「ちょっと!安静に・・・!」
「僕は生徒会長であり!次期勇者なのだ!何故僕が知ってはならないのだ!」
クーリエ母があっけにとられてデレゲを見つめる。学園長はデレゲの目をしっかり捕らえて答える。
「命に関わるからだ。重圧に耐えきれず死ぬかもしれない。嫉妬にかられた人物に殺されるかもしれない。殺すまでいかなくてもいじめられ、耐えきれず自殺するかもしれない。そうなったとき君は責任をとれるのか?」
デレゲが口をパクパクさせ閉じる。クーリエがこちらに近づいてきた。
「学園長。これは一体どういう状況なんですか?」
「ひっ!」
クーリエが話しかけるとデレゲがビクリと身を引く。クーリエが少し傷ついたようだった。クーリエ母がクーリエの肩に手を置く。クーリエが母を見上げる。
「気にしないで」
学園長は胸ぐらを掴むデレゲの手首を掴む。デレゲが思わず手を離す。手首に手形の火傷痕ができていた。
「私も忙しいからね。頼むから大人しくしていてくれ。母上、叔母上、クーリエを連れてお帰りください。あの話は別にまだ先でもいいでしょう」
そう言って学園長は保健室から出ていった。その後を学園長母が追う。直後廊下から悲鳴が聞こえた。
「ぎゃぁぁああ!痛い、痛い!母上痛いって!」
クーリエとクーリエ母が外へ出てみると学園長が学園長母に頭の両側から拳でグリグリされていた。通りかかった生徒たちが驚きの視線を送っている。デレゲは安静に!と養護教諭にベッドに放り込まれた。
「さっさとあの話を終わらせたほうがアナタも楽でしょう!ほら!お父様のお説教とはなして楽になるのどっちがいいの?!」
「わかった!話すから!父上のお説教だけは勘弁してぇぇ!」
やっと離してもらい頭をさする学園長。クーリエとクーリエ母に気がついてイイ笑顔で「学園長室に行きましょう」と言う学園長母にクーリエは鳥肌が立つのを感じた・・・。
次回、「・・・じゅるり」今日の20時に投稿です!




