第5話 氷が・・・燃える?
クーリエをかかえた学園長。リブロは机に話座って本を読んでいてデレゲとフェノラは立って、他の生徒会役員はソファーに座っていた。
「この僕に勇者の素質がない、だと?!調子に乗るな!お前ごときこの僕からしたらゴミのようだ!」
「その強さの自信は何処から来ている?たしかに君は強い。剣術も目に見張るものがある、というかあった。ただ、最近訓練を怠っているそうだな」
デレゲが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「決闘だ!この僕にお前が勝てたのなら認めよう、この僕に勇者の素質がないと」
学園長が目を瞬かせた。一瞬何を言われたのか理解できない顔だった。間をおいてから理解して嫌そうな顔でため息を付きながら了承する。
「・・・まあ、いいけど。死んでも知らないぞ。とにかく、クーリエを保健室に届けてからだ。校舎の裏でやるからそこで準備運動でもしとけ」
学園長は生徒会室をでて保健室へ向かう。もちろん、クーリエを抱えたまま。学園長が生徒を抱えている、ということで周りの注目の的だ。
「な、なんであの「伝令」が学園長に?」
「気絶してるみたいだぞ。なんだ、何があったんだ」
「学園長が「伝令」ごときに懸想してるとか?」
「それだけはないな。そんなことしたらあの世でフレールに殺される。私にも妻はいるし」
コソコソと話し声が無駄に良い耳で聞き取れてしまう学園長が疲れたようにツッコむ。ん?妻がいる?
***
保健室につくと養護教諭が怯える生徒たちを必死になだめていた。
「せ、先生!またあれがおこったらどうしよう!夜しか眠れなくなる!」
「それはそれで健康だから大丈夫ね。それにきっとあの学園長が対策を打つはずだから、ね?」
「先生、先生も怖いですよね、僕がいてあげますよ」
「ありがとう、でもちょっと迷惑かもしれないわ。旦那もいるし」
学園長が保健室へ入っていくとピタリと会話が止む。
「え?あの、学園長?クーリエちゃん、どうしたの?」
「暴走した。今は眠ってるからここに置いてくれ。叔母上には私から連絡しておくから」
学園長はベッドにクーリエを寝かせた。養護教諭が気遣わしげにクーリエを見つめる。学園長はクーリエを寝かせたらさっさと退出しようと扉をくぐった。しかし養護教諭に腕を掴まれてそのまま引き戻される。
「ちょっと、あなた!寝かせてもいいけどついておいてあげなさいよ!大事な従妹でしょ!私の従妹でもあるのよ!義理だけど!こんなかわいい子ほっとくなんて最低!」
ん?あなた?
「いや、だって私もデレゲ君に決闘を申し込まれてるし。クーリエには君がついてくれたら大丈夫だろ」
恥ずかしさで真っ赤になった学園長がしどろもどろに言い訳する。後ろの生徒たちの視線が生暖かい。
(そっかぁ。この二人・・・)
「そう言う問題じゃないの!さっさと勝って戻ってきなさい!変に生徒に怪我させたら許さないわよ!」
「・・・はい」
やっと腕を離してもらえてすごすごと学園長は保健室を出ていった。
「せんせ、ラブラブ〜」
「これは僕が入る余地もないな〜」
「え?いや!そういうことじゃ・・・もおぉぉー!」
勢いに任せて思わず自分の言ったことを思い返して養護教諭は真っ赤になったのであった。
***
森が開けただだっ広い野原の中心にある池。そのそばに自分のロングソードを持ったデレゲがいた。周りに他の役員はいない。学園長が息を切らせて到着する。
「ふん、戦う前から息を切らせていてこの僕に勝てるのかな」
「まあ、私のことは気にせずに。それより準備運動はできたかい?一発で決着がつけられないから長くなるけど。怪我をさせたら怒られるし」
デレゲの挑発も簡単に流しつつ学園長は内心冷や汗をかいていた。
(怪我をさせるなって言われても。最近戦ってないからうまく手加減できるか・・・)
デレゲが馬鹿にした表情でロングソードを構える。
「はっ!武器も持たずして学年一の魔法剣士であるこの僕に挑むのか!」
「私は魔法使いだからね。武器は必要な・・・!」
デレゲが学園長が言い終わるのをまたずにいきなり切りつけた。学園長の肩に当たる直前に炎をまとわせる。やった。デレゲはそう思った。
「いきなり斬りつけるなんて酷いな。ただ、私を傷つけたいならもう少し早くしないと」
学園長は無傷だった。肩からボロボロと土が崩れてキラキラと光りながら落ちて消える。
「なっ!・・・まあいい。!カルケル・グラキアリス (氷の牢獄)!」
氷が学園長の周りを取り囲み檻を作る。
「おお、氷の属性加護を使って牢獄を作ったのか。学園の氷室も同じ原理だ。流石だね、デレゲ君」
「これだけで終わるとでも?」
檻の上部から氷柱が形成されていく。
「なるほどね。これで人を突き抜こうって。恐ろしいこと考える。でもね・・・」
学園長が檻の側面に触れる。触れた場所がジュッ!と音を立てて燃える。そのまま檻全体に炎が燃え広がり燃え尽きた。デレゲはあっけにとられて立ち尽くす。
「そんな馬鹿な!氷が燃えた?この僕が作り出した氷なんだぞ?!クソっ!本気を見せてやろう!」
学園長は欠伸をしていた。デレゲの剣の切っ先は学園長の目の前。学園長は片目を開けて慌てて避ける。頬と髪が少し切れた。学園長は風でデレゲを5メートルほど吹き飛ばす。もちろん、落下地点には風のクッション付きで。
「へぇ。思ったよりやるね。流石、実力だけで勇者になった生徒会長なだけある。久しぶりだよ、傷をつけられたのは」
学園長が一歩一歩ゆっくりとデレゲに近づく。デレゲは後ずさる。足元から茎がニョキニョキと生えてデレゲの足首を掴む。驚いたデレゲがロングソードを落とした。その剣先がデレゲのふくらはぎを切り裂いた。
「があぁ!」
デレゲが崩れ落ちる。学園長は「やっちゃった」な表情。急いでデレゲに駆け寄り拘束を解く。
「ああ、アキレス腱が切れてる。これはヤバいな。保健室に運ばなきゃ」
何処からともなく風が吹きデレゲの体をふわっと浮かせた。血をポタポタ垂らしながら保健室まで運ぶ。学園長は情けない顔をしていた。
「これ、連れてったら絶対怒られるやつだよな・・・」
***
生徒たちをそれぞれの教室、寮に帰して養護教諭はホッと一息ついた。ちらりとベッドの方を見る。
「クーリエちゃん、大丈夫かしら。いつも我慢ばかり。頑張ってるもの、たまには感情も暴走させたくなるわよね。」
養護教諭は【一般魔法連絡】を使う。直径100kmないであれば誰にでもつなぐことができる便利魔法。魔法を動作させると空気中に画面が現れた。操作して誰かと音声通話をつなげる。
「もしもし?あっ私、私です!お元気ですか?」
『私私詐欺かしら。切ってもいい?』
相手には見えないにもかかわらず慌てて手を振る養護教諭。
「え?!駄目ですよ!どうせ、あの人連絡してないだろうと思ってつなげたんですけど・・・」
『あの人って・・・。貴方の旦那ね。はいはい。で連絡ってなによ。なにも聞いてないわよ』
「なので私がつなげてるんです。切ります?」
『やめとくわ。なにがあったの?』
「クーリエちゃんが暴走?したらしくて・・・。クーリエちゃん、抱えられて保健室に来たんですけど今は眠ってて」
『・・・暴走、したのね。そう。久しぶりだわ。仕事に一区切りしたら迎えに行くわ。連絡ありがとう。・・・本当にプレセス(学園長)も困った子ね。兄さんに報告しときましょ』
通話が切れる。切れる前に恐ろしい言葉が聞こえた聞こえた気が・・・、と頬を引くつかせる養護教諭。
「・・・お母様?」
クーリエがベッドからでてきた。
「あれ?お母様は?」
「クーリエちゃん、起きたのね。貴方のお母さんと通話を繋いでいたの、気にしないで」
ふわぁとあくびするクーリエになんとも言えない不安感を覚える養護教諭。
「そういえば私、なんでここにいるんですか?生徒会室にいたはずじゃ」
「え?」
周りを見回すクーリエ。あまりのことにあっけにとられる養護教諭。
(記憶が、ないの?なんで?え?ちょっと私には手に負えない!早く戻ってきなさいよ!)
「ん?血の匂いがする。結構新鮮。誰か怪我でもしたのかな?」
スンスンと匂いを嗅ぐクーリエ。養護教諭も嗅いでみたがなにも感じない。
「誰も怪我してないわよ?少なくともここで直してはないわ」
「そうですね。どっちかというと近づいてきてる気がします。怪我人が出のかも」
クーリエはベッドの中に戻る。
「ちょっともう一眠りしますね。ボーッとするので。お母様に言わないでくださいね。怒られちゃうや」
すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。養護教諭はコーヒーでも飲もうかと腰をあげた。扉が開けられて
「ごめん、怪我させちゃった・・・」
「・・・!」
しょぼんとした学園長と痛過ぎて声が出ない蒼白な顔の宙に浮いたデレゲが入ってきた。
「もう!何なの!報告書に書くない増えたぁ!ただでさえクーリエちゃんのこととかあるのに!なに?なにがあったの?!まずせめて止血してから来いや!」
「すみません!いや、カクカクシカジカで・・・デレゲ君の足に剣先が上手いことぶっ刺さちゃって・・・」
デレゲの足に触れて治るのを待ちながらなにがあったのかを聞く養護教諭。理由の説明を硬い床に正座して縮こまりながら行う学園長。
「・・・そう」
「あのぉ、怒らないので?」
怒られることを覚悟していた学園長は肩透かしを食らっておずおずと質問する。養護教諭は人の悪い笑みを浮かべた。
「今回は私よりも怒ってくれそうな人がいるものね。・・・はい、デレゲ君も。血液まではもとに戻らないからしばらく安静にしてなさい」
「感謝する。学園長!この僕の何処に勇者の素質がないのだ!努力するから教えるがいい!」
養護教諭に頭も下げずに感謝し正座する学園長を見下ろすデレゲ。
「やはり、実力や能力だけで勇者候補を選ぶものではないな。いいか、デレゲ君。確かに君は強い。A級を一発で殺せるくらいには強い。だがそれだけだ。性格が難ありすぎるんだ。君の能力は仲間を信じることで真価を発揮する」
立ち上がって服を叩くと今度はがソファーに座るデレゲを見下ろす形で学園長が言い切る。ふと学園長は冷気を感じて顔を上げる。
「そこまで言うならプレセス、貴方が魔王の寝首を掻きに行ってらっしゃい!」
「・・・母上?叔母上?なぜこちらに・・・?」
次回:・・・母は、強し
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