第三十一話 月の女神と空の女神
ミテーナ・サンクタは非常に優秀な人物であった。
学園時代は生徒会に入り、魔王討伐を成し遂げることはなかったものの、1人も欠けることなく帰還した。
生徒会メンバーであったため、17歳で卒業し、文官になった。僅か一年で財務省の副大臣を打診される。彼女はそれを蹴って、中級の文官として働き続けた。
彼女の職場が変わったのは、結婚して3年。21歳の時のこと。学園長が過労により、倒れたのだ。その時、学園長には後継者がいなかった。代わりに、王家とも血のつながりがあるミテーナに白羽の矢がたった。
学園長に就任したミテーナはさらに色々なことに取り組んだ。ほとんどの生徒が受講しない「魔物生態学」を外し代わりに「薬学」を入れた。魔物生態学は授業を受けたいものがいれば、直接教師のもとへ行くように生徒たちに指示をする。
就任直後に妊娠が発覚しても、ミテーナはこの仕事を辞めなかった。教育が思いの外楽しい、と言って。
18年間、彼女は学園長として素晴らしい実績を収めた。最後の一つを除いて。
勇者フレールもとい彼女の息子が自死を選んだのだ。
いじめに気づくことができなかった不甲斐なさ、責任。
知らず知らずのうちに、息子だから大丈夫、と肉親に甘えていたのだろう。
そうして、ミテーナの後をプレセスが継ぎ、今に至る。
ミテーナの経歴を並べても、彼女の大きな失態は息子がいじめられていることに気づかなかったことくらいのように思われる。
しかし。彼女にはもう一つ人生を通して悔やむ大きな失敗があったのだ。
それが彼女の幼馴染であったセレーネ。
白金の髪を持ち、それこそ月の女神のような彼女が、ミテーナは心底羨ましかった。
黒にちかい青紫の髪、そして澄んだ水のような透明感のある空色の瞳。王家に近ければ近いほど、女はこの色彩となる。例に漏れず、ミテーナもそうであった。
「いいな、セレーネは。本当に月の女神様みたいだよね」
「そういうミテーナだって、夜空と青空、どっちも持ってるじゃない」
「そうだね。でもセレーネだってお日様とお月様どっちも持っているでしょう?」
「そうなの?なら、私が月の女神なら、貴方は空の女神ね」
「周りの人はそう言ってくれないよ」
「周りの人の話なんて聞かなければいいのよ」
「どうしても聞こえちゃうもの。褒められるのはセレーネばかりでしょ。私を褒める声なんて聞いたことがない」
「私は聞いたこと、あるわ」
「・・・嘘つかないで」
「嘘じゃないもの。王家の色がしっかり発現したって」
「王家。王家。みんな同じこと言うの。王家の色だから。王太子の従姉妹だから。王家と繋がりを作るために。私と仲良くしろって言ってる大人だって聞いたことがある」
「ちょ、ちょっとミテーナ落ち着いて!」
「セレーネのお父さんがセレーネにそう言ってることも聞いたことがある。でもセレーネは王家のこと他の人と違って言わなかったから。だから大丈夫だって思ってたのに・・・!」
「・・・確かに言われたわ。でも!」
「もういい。セレーネなんて知らない!」
ミテーナ・サンクタはこの時8歳であった。




