第二話 魔物?!・・・美味しそう!
クーリエが学園長室に入った。正面の大きな執務机には大量の書類が積まれている。そのせいで学園長の顔が見えない。両側の壁には本棚があり半分以上が空。応接用のソファーとテーブルは生徒会室のものよりも高そうに見えた。部屋には甘い匂いとアールグレイの香りが漂っている。
「・・・また仕事中にお菓子を食べてましたね」
書類の奥から何かを吹き出すような音と咳が聞こえた。クーリエはテーブルに荷物を置いて一枚の紙に目がついた。クーリエにはただの白紙に見えた。しかし「聖女候補にクーリエ・サンクタを推薦する」と書いてある。白紙がなんでテーブルに?とは思いつつ学園長の机に近づいた。
「・・・そんなことはないぞ?」
執務机の上の書類を一部どけた。美味しそうなクッキーと紅茶のカップがあった。そして、椅子に座って情けなくクーリエを見上げる美形な28歳の男性。その顔立ちはうっすら、クーリエと似ている気がしないことも・・・ない。
「これはなんですか?ってこれ!まさか・・・」
美味しそうなクッキーがのるお皿をコツコツとたたきつつクーリエの顔が見事な作り笑顔へと変わっていく。しかしそのこめかみには青筋が立っていた。赤い靄がまた現れる。
「ごめんって!そんなに怒ることじゃないだろう?な?」
あわあわと慌て生徒のご機嫌取りをしようとする学園長。
「絶対許しません!新しいの買ってくるまで許しませんから!これ、私がお母様に頼んで取り寄せてもらったやつなのに!」
腰に手を当ててツン!と顔を逸らしてクーリエは机の上の大量の書類を見てにっこりと笑った。
「もう片付けしないので!自分一人でこの書類片付けたらいいですよ!あと、追加で10枚置いていきますから!」
ササッとレポート、ラブレター、ファンレターといちごみるく♥を回収して学園長室の扉に向かっていくクーリエに学園長がガタッと立ち上がる。
「悪かったって!お願いだから、片付け、手伝ってくれよ!残業嫌だー!お前も兄上の帰りが遅くなるのはいやだろ?」
涙目になりながらクーリエにすがる学園長を冷たくあしらう。
「どうでもいいですね、そんなこと。まず、兄はいないし。従兄弟だし。叔母さまに言いつけるだけですし!どっちにしろ私寮暮らしだし?」
ふふん、と鼻で笑う。と、思い出したかのように振り返る。
「そういや、デレゲの馬鹿がまたデートに出かけてました。このラブレター半分以上がデレゲ宛なのに」
クーリエはひらひらとラブレターを振る。そしてほんのりと甘い香りのついた封筒がはたして燃料となるのかを考えてみた。まとめて燃やしたら臭いだろうという結論に行き着く。
「また、アイツか。勇者候補、としては優秀なんだがな〜。中々にクセが強いやつだし。・・・他のメンバーはどんな感じなんだ?」
グテーと椅子の背もたれにより掛かりできる大人、という雰囲気を醸し出す学園長。それに釣られたクーリエも背筋をのばし説明を始める
「そうですね、美化委員長と風紀委員長は嫌な顔をしてますね。あと、図書委員長もかな?まあ、委員長職の女性陣からはかなり批判的な声が上がってますけど。庶務と書記、副会長、委員長職含む男性陣からの評価は高めです」
「そうか。・・・図書委員長、何だっけ。あ、そうそうリブロ。全知の書架の加護を持ってた子だろう?男性陣に含まれないのか?」
「男性陣ではあるけど、大抵の場合、リブロ図書委員長は介入しないので。本を読めたらそれでいいみたいな。基本、移動中も本を読んでるみたいですし」
学園長の頬がピクリと引きつった。
「おい、それは委員長としてあるまじき姿じゃないか?」
「図書委員長としては読書をする姿を見せつけるのは悪くないと思います」
「大いに問題ありだ!大抵こういうやつは一度危険な目に遭わないとやめないんだよ!」
クーリエは騒ぐ学園長にうるさそうに顔を歪めた。
「とりあえず報告は終わりなので。さようなら。クッキー、買い直しててくださいね」
学園長室の扉の取っ手に手をかける。部屋を出て行こうとしたクーリエに学園長が慌てて声をかけた。
「ああもう!片付けなくていいから騎士団にだけ連絡しておいて!学園の森にA級の魔物がでたから!」
学園長が背後にある大窓から見える森をチラリと見る。クーリエが思わず振り返った。その顔に張り付けられていたのは恐怖・・・ではなく歓喜だった。
「魔物?!しかもA級?!」
ワクワクした雰囲気を隠さずクーリエの周囲がキラキラと輝き始めた。
「何故それを先に言わないんですか?!」
学園長の話を最後まで聞かずに学園長室から荷物を放り出して飛び出すクーリエを学園長が慌てて追いかけた。
(しょうがない、騎士団には私が連絡しておこう。父上を介せばなんとかなると思うし。・・・ていうかクーリエに聖女の話するの、忘れてた。)
「お前1人で倒せるのか?」
「ものによります!あ、まって。そういえば森にはあの2人がいた気が・・・。焦がされてないといいな」
2つ階段を駆け下りそのままの勢いでクーリエが人にぶつかった。
「あっ!・・・デレゲこ・・・会長!」
ん?デレゲこ
「何を急いでいるのだ。この僕にぶつかるだなんてあってはならないことだぞ!」
デレゲがクーリエを咎めた。しかしクーリエは眉を顰めてデレゲを見上げる。
「それより、アミレーゼ副会長は?!」
「アミレーゼ?知らぬ。手水に行くと少し前に分かれたが・・・遅いので探しにきたのだ。何かあったのか?」
「良かった・・・。え?でもあのアミレーゼが?!まさか!失礼します、会長!」
デレゲ第一のアミレーゼがデレゲから離れるだなんて考えられない!森の方に戻った?
色々と最悪の自体を想像し青ざめたクーリエは慌てて走り出す。クーリエを呼び止めて事情を聞こうとしたデレゲに今度は階段から降りてきた学園長に質問される。
「クーリエを見ていないかな、デレゲ君」
「外に行きました。何かありましたか?」
「いやそうか。それでは」
学園長もデレゲの横を通り過ぎた。デレゲもそれを追いかける。
「どこに行くのですか!学園長先生!」
学園長の背中は消えていた。デレゲは戸惑いながらもとりあえずクーリエの進んでいった方向に向かった。
大樹を中心に形成された森。それは学園の実施訓練で使われる古くから存在する森だった。森の手前には美しい庭園が広がり、デートや告白スポットとしても人気である。そんなところにいま、異形の存在が入っていた。それは片耳をなくした子豚。しかし背負っているのは禍々しいオーラと凄まじい腐臭。
「ブヒー、ブヒ!」
A級魔物、片耳豚だ。そしてそれが対峙しているのは、
「ひっ!な、何なのよ!この気持ち悪い豚は!ちょっと、近づかないで!さ、催眠魔法!」
生徒会副会長アミレーゼである。ポゥと光る光の玉がアミレーゼの手のひらから踊り出る。子豚の上で花火のように弾けて落ちた。しかし子豚は気にする素振りも見せない。自身の魔法が効かない!そんな恐怖の最中焦ったような声が聞こえた。
「副会長ー!アミレーゼ副会長ー!」
「こ、ここよ!誰か、誰か助けて・・・!」
「いたっ!大丈夫ですか?アミレーゼ副会長」
クーリエが走ってきてアミレーゼの腕引っ張った。アミレーゼはクーリエの後ろになり変わりに子豚はクーリエに狙いを定める。
「わお!なんと立派な片耳豚!美味しそう!良かった!進化前ですよ!A級のお肉ですよ!嬉しー!」
「美味しそう?!あなた、あれを食べるつもりなの?!」
アミレーゼが絶叫する。それを無視してクーリエはいきなり足をクロスした。片耳豚が足を止める。黄色のラメ付きキラキラオーラがまた顕現した。片耳豚が後退りしその場で足ぶみする。「ぷひっ」と鳴いた。
「ああ!この匂い!ありえないくらいに臭いですね!これは美味しい証拠なんです!騎士団呼ばなくてよかった〜!」
「・・・うぅ。気持ち悪い。この激臭もですけど。何故こんな状況で美味しそう!という言葉が出るのか・・・。何より少し和みを感じる自分が・・・魔法か何かの影響かしら」
アミレーゼがぼそっとつぶやく。キラキラをまとったクーリエが激臭を思いっきり吸う。アミレーゼ、引いた。当たり前だ。そんな常識人とかしたアミレーゼにクーリエが一言
「副会長も足をクロスしたほうがいいですよ!足の間を通られたら魂奪われますから!」
次回:解体しながら・・・美味しそう!




