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一方その頃……

 ジュンキを対岸に送り届けてから数日、リーカは水面の向こうの空をいつまでも見つめていた。


「ジュンキさん、大丈夫かな……」


 彼女は記憶喪失と語っていた彼を一人で送り出してしまったことを今更ながら後悔しているようだった。無論、「グランペ」である彼女は共に付いていく訳にはいかず、彼の街へ行きたいという望みを考えれば唯一の選択肢だったのかもしれないが……この島に引き留めて一緒に生活することもあり得る可能性の一つであった。


 むしろ、リーカとしては唐突に現れたジュンキという男と一緒に暮らすことを望んでいた。彼とはたった一日、時間単位に分けると半日ほどの付き合いしかないにも関わらず、彼には何か、惹かれるものを感じていたのだ。


 リーカは見た目の幼さに反し、一般的には大人と呼ばれる年齢に達している。さらに、この世界での結婚適齢からはさらに十歳ほど年を取っている。しかしながら彼女は一度もそういったことを意識したことがなかった。生涯で一度も異性と……もとい、他人と密接な関係になることが無かったのだ。


「はぁ、ジュンキさん……」


 彼の名前を呼ぶだけで、胸が締め付けられる。傍から見ると恋慕や懸想の類の感情を持っていることは火を見るより明らかと言えるが、彼女自信は「初めての友達」を「心配」することに起こる苦しさだと解釈しているようだった。


 彼女はせめてもの安らぎを求め、彼女の住処に残されたジュンキの痕跡を辿っていく。辿り着いた先は以前彼が眠っていた寝藁だった。


「もふっ。へへっ♪」


 リーカは寝藁に飛び込み、大きく息を吸った。脚を左右交互にじたばたとさせ、呼吸が苦しくなるまで顔を埋めていく。


「……ぷはっ!! へへっ♪ なんでジュンキさんの匂いってこんなに落ち着くんだろ……」


 恍惚とした表情からは最早幼さを感じないが、彼女自身はその倒錯的な行為の意味を深く考えていないようで、罪悪感や背徳感などの感情からは程遠い、純粋な多幸感に浸っているようだった。


「ジュンキさん、今頃何してるのかな」


 彼の状態を知る由はなく、いかなる危機が訪れようと彼女には助けようがなかった。マグヌス教の加護から外れている以上神に祈ることすらできず、唯一残された彼への「助け」は今までに稼いできた大金を渡すことだけだった。


「……あれだけお金があったら多分、大丈夫だよね」


 リーカに出来ることは限られていたが───その限られた手段こそが彼を、ジュンキを致命的な危機から救う光となるとは、彼女自信、思ってもいなかっただろう。

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