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三日目、現地調査「はじまりの街」にて、

 ある程度この世界、そしてこの国で過ごしていくのに必要な知識を手に入れた。最低限の礼節が無ければ現地調査もままならないが、今日からは本格的に街を調べることができる。


 街の名前は「サルミタ」、コンスティナ帝国領邦のジャルヴァナ公国のサルミタ……自動翻訳のせいで正確な綴りは分からないが、"ia"で終わる地名が多いのはラテン語の地名接尾辞のようで、それに準ずるような命名規則があるのかもしれないと感じた。


 とにかく、似たような名前の土地が多いのは覚えにくくて大変で、あまり好ましいとは言えない。以後、この街は「はじまりの街」と呼ぶことにしよう。


 初日で色々なものを買い揃えたが、どうやら「はじまりの街」は商人が多い街らしく、他の街よりは商店の品揃えも多いようだった。昨日見た地図によると、「帝都」と呼ばれる皇帝直轄地の中心地と公国の首都の中継点にこの街があった。馬車の出入りが多く、おそらくこの街の宿屋に泊まって次の街に向かうのだろう。つまり、「はじまりの街」は流動的に人口が移る街なのだ。


 娯楽に乏しい一方、食料品をはじめとした生活必需品は比較的手に入れやすい。どうやら宿泊税や通行税など徴収することによって他の国や都市よりも潤っているらしい。その代わり一部の貴族向けの店を除いて大した商品はなさそうだった。まさに、ゲームで言うところの「はじまりの街」だ。……さすがにひのきの棒は売ってなかったが。


 小さな通りは薄暗く人通りも少ないが、大通りに入ると、さすがに出店がずらりと並んでいた。多くの旅客が店先で取引をし、袋から小銭を取り出して商品を受け取る。規律正しい活気がそこにはあった。朝市はどの世界でも変わらないようだ。


「こんにちは。良いリンゴですね。どこで仕入れましたか?」


 俺は食料品を売る店主に声をかける。別に目の前の果物の良し悪しは分からないが、他の店でも同じような定型文で仕入れ先などの情報を聞き出していた。他にも、物価や品揃えなどを記憶していく。何の役に立つのかと言われれば難しい所ではあるが、意外なところで意外な情報が役に立つこともあるのだ。一応念入りに調べておかなければならないと思ったのだが───。


「旅の人、果物の産地など調べてなんのつもりだ」


 突如、後ろから声を掛けられる。振り返ると二人の恰幅の良い若い男性が二人立っているではないか。肌に身に付けるものこそ軽装だが、その手に握られている背丈ほどの槍を見るに、どうやら彼らは兵士のようだった。この街の衛兵といったところだろうか。


「失礼、見慣れぬ男がこの辺りで情報収集を行っていると聞き及び……我々はあなたを間諜と疑っております」


 先ほどとは違う声の持ち主が、物腰の柔らかい言い方で告げる。どうやら間諜───つまり、スパイの嫌疑が掛かっているということらしい。確かに、今までやって来た自分の行動を振り返るとかなり「疑わしい」。物事を進めるのに慎重なつもりだったが、一連の行動は不必要かつ性急が過ぎたようだった。


 とはいえ、一度疑われると以後の行動に大きく制限が掛けられることになるだろう。ここは小心者の商人のロールプレイングをして乗り切ることにした。


「も、申し訳ありません!! わたくし、遠方から来た商人のもので……この辺りの地理に疎いため、つい色々と調べて回ってしまいました……け、決してそのようなことはしておりません!! どうか、見逃し───」

「駄目だ、わざとらしすぎる。連れていけ」

「すいません。抵抗しないでください。暴れたら……分かりますよね?」


 俺は、黙って連行されることにした。


 ……無念だ。




 

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