二日目、情報整理
「さて、この盗んできた本だが……」
一夜が明け、床に散らばった本を見る。どうやら木や植物から作った紙ではなく、動物の皮から作った紙……所謂羊皮紙というもののようだった。無論、紙が無いからと言って文明レベルが低いとは限らないが、手軽に製紙できないとなると本は相当な貴重品なはずだ。少なくともこの国の識字率は高くはないようだ。
それらの本を一つ一つめくっていくと、やはり全て日本語で書かれているようだった。元の文章のニュアンスが分からないこともあるかもしれないが、一から異世界の言語を学ぶ負担に比べれば大した問題ではない。
当然紙は無いので、知った情報は全て脳にインプットしなければならない。全ての情報を網羅的に収集せずに、必要な最低限の情報だけを詰め込んでいくのだ。これが受験勉強なら傾向と対策が必須だったが、ここでは自分自身の判断が全ての運命を握っている。早々とページをめくりつつも慎重に情報を吟味していった。
「───さぁ、読み終わったぞ」
太陽が沈んでいる。結局食事も摂らず一日中本を読んでいたようだ。脳内に先ほど知った情報を纏め、分かりやすいように整理していく。
・ジャルヴァナ公国はコンスティナ帝国の属領だ。
・コンスティナ帝国は多数の領邦からなる連合国家だ。
・コンスティナ帝国の国教はマグヌス教だ。
・マグヌス教は一神教だ。
「どうやらジャルヴァナ公国は帝国の中でも中心部に近いから外敵の心配もいらないらしい。だから警備も手薄だったのか……。そもそも、内陸部に位置するはずだからあの海は……湖だったのか。なるほど」
ぶつくさと独り言を呟く。無言よりもこの方がより情報を整理し、頭の中に入れることができる。
・コンスティナ帝国はサァイール帝国と敵対関係にある。
・サクート教とマグヌス教は対立しており、サァイール帝国はこの宗教を国教としている。
「その他の外交関係も気にはなるが……とりあえず争いの種となるのはこの二国か。どうやら海峡を隔てて大国がにらみ合っているらしい。元はコンスティナ領だったベバンティア半島をサァイールが奪い、現在の均衡状態を生んでいるようだが……いつ均衡が破れるか、綱渡りの状態って訳だな。次はコンスティナ帝国の内情をまとめよう」
・領邦から税金を集めているため帝国そのものは健全な財政を行っているが、土地が貧しい場所などはかなり苦しい生活を強いられている。
・マグヌス教は全ての人間の平等を訴えているが、実現には至っていない。
・農奴に移動の自由はなく、戦時には兵士として徴収されることもある。
・グランペは決して結束できないように、必ず各都市一人までしか置いてはならない。
「帝国は連合国家として領邦を守る義務があるから仕方がない部分はあるとはいえ……みかじめ料みたいなものだな。身分制度もほとんど想像通りだが……やっぱり、気になるな」
グランペ、という身分の正体が掴めない。職業や住んでいる地域など、何か決められた理由があって差別されてるものだと思っていたが……どの書籍にも、そのような情報はなかった。
さらに、まるで帝国の上の人間はグランペを相当危険な「人種」として認識しているらしく、反乱を起こさないように分散させ、差別や権利の制限こそすれど直接的に苦痛を与えることなどは禁止しているのだ。
「リーカ……君は一体何者なんだ」
思考を閉じ、もう一度床に広げた本を一瞥する。念のために今日中にこれらの本を元の場所に戻さなければならない。ふっと息をついて、俺はまた闇夜を駆けた。




