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旧世界より(1)

この物語はフィクションです。実在の出来事・人物・国名などは一切関係がありません。

───日本から中継地を挟んで20時間……いや、この場所に来るまでは30時間以上掛かっただろう。現在この地域一帯で行われてる多くの紛争の影響で、直通便が無いだけに留まらず、それどころか他国を経由して入国するのも一苦労だった。何といっても、この国自体が内戦状態だからだ。


 数年前、大規模な民主化運動が起こった。運動は一国に留まらず、報道やインターネットを通じて隣国に波及し、さらにその隣国にも広がっていった。独裁政権の多い地域だけに、切っ掛け一つあるだけで堰を切ったように次々と各国の政権が倒れて行った。


 その結果は散々なものだった。政権が倒れた後、「反体制派」が独裁的な権力を握ってしまったり、そもそも軍閥が争い合うような無政府状態になってしまったりと、結局民主化された国など一つも無かったのだ。民主主義の「春」とまで呼ばれたこの運動は、大失敗だったと言う訳だ。


 俺が訪れた国では、まだ独裁者が実権を握ったままだった。だが、状況は他国より酷いものだった。政府は一般市民を蹂躙し、市街地に空爆を行っている。反政府組織は所構わず戦闘を行っている。その他の武装勢力も介入し、内戦は三つ巴の様相を呈していた。


 さらに、反政府組織自体も複数あり、武装勢力も別組織や別派閥に分かれ、外国勢力の支援を受ける組織さえあった。それでいて独裁政権側も他国の支援を受け強固な体制を築いている訳だから、戦争が終わらない。終わったとしても、どこの誰が主導権を握るのか不透明で、とてもじゃないが明るい未来は見えなかった。


 そんな国に俺は、戦うために訪れた。反政府組織の派閥の一つ、多国籍の軍隊出身者が所属する組織だ。

 無論、俺に軍務経験はない。職業は大学生で、軍隊とは程遠い人間だった。現地で数週間ほど訓練を行ったが、あんなもので戦闘員を養成できるとは思わないし、実際何の役にも立たなかった。戦う術と生き残る術は全て実戦で覚えるしかなかった。


 この地を訪れる前にテレビやネットで現状を「知識」として把握していたが、現地に来て初めて知ることの方が多かった。意外と街中には避難せず残っている人が多く、爆弾やミサイルが空から落ちて来ても動じない人も多かった。戦時中にもかかわらず営業中の喫茶店でコーヒーを飲んで寛ぐ老人も居れば、サッカーボールを蹴って走り回っている子供たちも見かけた。


 もう一つ、俺が知ったのは案外戦争で人は死なないということ───そして、死とは唐突にやってくるということだ。


 爆弾や銃弾がピンポイントに自分に当たるということは滅多にない。だが、毎日どこかで、誰かが空爆や流れ弾で命を落としている。今日の犠牲者が自分ではないという確証はなく、日によってそれが戦友であったり戦闘に何の関係もない一般の子供であったりもした。


 そんなある日、俺はいきなりあのヴェリオッタという自称女神に呼び出され、彼女の創造した世界に送り出された、という訳だ。……つまり、道半ばにして俺は命を落としたのだろう。そもそもアイツはまるで俺を殺したかのように言っていたから、その運命自体彼女に決められてしまったものかもしれないのだが───。


 

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