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ハネムーンの終わり

 俺はリーカと旅に出た。一年以上掛けて帝国全土を周る旅だ。一応口実としては「各地に散らばるグランペに、先の戦いでの感謝を伝える」というものを用意していたが、俺たちが新婚旅行をしたいだけだということは多くの関係者に露呈していた。


 思い返すと二人きりの時間をほとんど過ごせていなかった。その反動からか、その期間は常に彼女と共に生活していて、一人きりの時間は全くなかった。


 グランペの国が作られることを行く先々で伝え、郷土料理に舌鼓を打ち、まだ知らぬ世界の景色を見た。その全てが幸福で満ち溢れていた。


 リーカは時折子供と間違われ、時には俺の妹、酷い時には娘と間違われた。さすがに親子扱いされた時は彼女も怒っていた。初めて会った時から想像もできないくらい、色々な感情を見せるようになってくれた。俺は、それが嬉しかった。


 そして、俺たちは全ての帝国の都市を訪れ、遂に旅路は終わったのだった。


「楽しかったな。最後にコンスティナ帝国の全都市を観光できてよかった」

「はい……」


 リーカは何故か寂しそうな表情で、俯いた。


「……リーカ? どこか具合が悪いのか?」

「いいえ、でも、なんだか……もやもやって、気持ちがするんです」


 彼女は自身の気持ちを上手く言葉にすることができないようだった。その言葉はあまりにも抽象的だったが、辛そうにしている愛する人を放っておけるような男にはなりたくない。俺は彼女の小さな身体を抱き寄せて、口づけを交わした。


「これでもまだ辛いか?」

「……ありがとうございます、ジュンキさん。少しだけ、楽になった気がします」


 彼女の言葉に偽りはなさそうだったが、その笑顔は少しだけぎこちなく、少しだけ浮かない表情をしているように見えた。


「旅が終わるのが寂しいのか?」

「多分、そうだと思います……」

「そうか……。そう言われると、俺も少し寂しいかもしれない」


 俺は少し考えて、何をすべきか考える。そういえば、この旅には明確な終着点が無かったことに気が付いた。


「最後に、リーカと初めて会った場所に行くか」

「……はい!!」


 少しだけ彼女の表情が明るくなった。かなり遠い旅路にはなるが、旅の終着点としては最適だろう。


───そして、俺たちは「はじまりの街」に到着し、あの孤島へと向かった。


「久しぶりだな、この砂浜で俺は倒れてたんだ。それをリーカが助けてくれた」

「ジュンキさんはあの時異世界から来たんですよね?」

「あぁ、そして初めて会ったのが、君だったんだ。リーカ」

「女神様が私たちを巡り合わせてくれたんですね♪」

「そうかもな……。ついでだし、あの女神にも会いに行くか」


 古代遺跡へと向かう。先帝ボスティモス三世が亡くなったその場所で、失礼ながらもその辺りで摘んだ花を供えてから、恐らくかつて女神像があったであろう台座へと向かった。


「───また来たんですか、ジュンキ……あっ♡ リーカちゃんっ♡ また会いに来てくれたんですか♡♡」


 ヴェリオッタは相変わらずだった。


「態度が違い過ぎるだろ」

「あ、あの……私たち、女神様に感謝を伝えたいんです。私たちを出会わせてくれ、ありがとうございます!!」

「こんないい子をジュンキなんかに取られるなんて……ちょっとだけ後悔しています」

「一応運命を操作したのは本当なんだな……。そういえば帝国を離れる前に聞いておきたいことがある」

「なんですか? 私リーカちゃんを崇めるので忙しいんですけど」


 完全に信仰する側とされる側が入れ違っているだろと突っ込みたくなる衝動を抑える。


「世界の歪みはどうなったんだ?」

「そうですね。リーカちゃんたちのおかげで活発過ぎた彼らの活動は少しだけ縮小しているようです」

「完全に消えることはないのか?」

「ありませんね。ですが、差別や憎しむ等の負の感情を世界から減らすことができれば、彼らは最終的に小さないざこざくらいからしか栄養素を得られないようになるでしょう」


 人間の負の感情をエネルギーとし、繁殖する彼らにとってはやはり、世界中の争いがなくなると困るようだ。


「俺は奴が嫌いだからな。……世界の歪みを弱体化させる協力は惜しまない。次に向かう国でも何か問題があれば解決するつもりだ。何があってもリーカと【共鳴】の力があれば余裕そうだがな」

「……あれ? 言ってませんでしたっけ。グランペの力はコンスティナ帝国の領域内でしか使えませんよ?」

「……は?」


 初耳だった。寝耳に水だった。産まれて初めて耳に水を注ぎこまれた。


「つまり、【共鳴】は他の場所では使えないということか」

「えぇ、さすがに身体能力とかが変わるわけではありませんが。一応産まれる前に【契約】としてリーカちゃんにも話してるはずですけど、昔のことだし多分忘れてたんですよね♪」

「……いいえ、覚えています。ごめんなさい、ジュンキさん、ずっと言い出せなくて……」


 リーカが今にも泣きそうな顔で俯いた。数年の付き合いになったのだ、俺はなんとなく彼女の心情を察した。帝国から離れれば、自らの力が制限される。そうなれば俺は彼女を置いていくのではないかと危惧していたのだろう。


「……大丈夫だ、リーカ。別にそんなことで君を置いていかないよ」

「本当ですか……?」

「俺は君に、嘘を吐かない。それに、こんなにも愛している女性が、こんなにも可愛らしいのに、置いていける男なんて居ないぞ、俺を信じろ」

「ついていって、いいんですか?」

「いいんじゃない、一緒に来てくれ。むしろ、俺が君にお願いしたいくらいだ」

「ジュンキさん……!!」


 リーカは泣きながら俺に抱き着いた。汗と涙で服が汚れるが、気にはならなかった。俺はむしろきつく抱きしめ返し、その背中を優しく叩いた。


「……なーんか、嫌な気分ですね。私だけ除け者にして……もしかして、これが脳破壊ですか!?」


 ヴェリオッタが不機嫌そうにしているので、リーカが落ち着いてから神の空間を後にした。


「───もう日が暮れてるな。今日はここで一晩過ごすか」

「……ジュンキさん、その……今日は……」

「あぁ、リーカが生活拠点にしてた、あの家で過ごす。……あそこも、俺たちの思い出の場所だからな」

「はい!! あと、一緒に寝ていいですか……?」

「今更だな。なんなら、一晩くらいは寝なくても俺は大丈夫だが」

「へへっ♪ 私もです♪」


 長い夜の底に、俺たちは沈んでいった。

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