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二人で、新天地へ

 俺たちはかつてシルトと出会った街で、最初にリーカと訪れたあの思い出深い街に訪れた。港町アイディーナである。街の中心部の塔に入ると、見知った面々が俺たちを迎えてくれた。


「やぁジュンキ、久しぶりだね」

「ジュンキ様、リーカ様、お変わりはないですか?」


 そこに立っていたのはかつて皇帝の座を手に入れたマーガレット、そしてかつて教皇の座を手にしたメリヤンだった。


「マーガレット、メリヤン、何もこんなところまで迎えに来なくてもいいのに」

「何を言ってるんだい? 恩人にして最も敬愛する友が我が地を訪れたというのに、迎え入れない領主がどこにいるというんだ」


 マーガレットは、俺が皇帝に進言した通り辺境伯の地位を与えられた。この港町アイディーナを首都とした「ロンドベル辺境伯領」を任せられている。そしてメリヤンはその補佐役として、彼女を支える最側近として領地経営に協力している。多くのグランペはこの地に移り棲み、二人は彼女たちの安住の地を作っている最中だ。


「さぁ、ジュンキ様、こちらへ……」


 メリヤンに案内され、俺たちが案内された部屋には、さらに見知った顔があった。


「遅いじゃない、待ちくたびれたわ」

「お姉ちゃんもさっき来たところでしょ?」

「シルト……!? それに、エアスも居るじゃないか……!?」

「ボ、ボクも居ますよ……」


 かつて共に戦った双子の姉妹シルトとエアス、そしてミザリーが椅子に座っていた。


「ジュンキがアイディーナに来た目的はなんとなく分かっている。だが、その前に君に言っておきたいことがあるんだ。分かるかい?」

「い、いってらっしゃい……とかか?」

「はぁ? あんた本気で分かってないの……!?」


 シルトは机が壊れんばかりの勢いで手を突いた。実際にねじの一本くらいは抜けてそうな勢いだ。


「ジュンキさん……もしかして、私たちが結婚したことって、皆さんに……」

「教えてない、な……。そういえば」


 この場に居るのは、ロンドベル辺境伯領の建設に忙しいと思って挨拶をしなかった面々だった。事実上の新婚旅行をしていることも恐らくは知られているが、結婚報告だけは直接行っていなかった、それが彼女たちの怒りに触れたのだ。


「お姉ちゃんはあなたたちが結婚式を挙げるための準備までしてたのに、その前に新婚旅行って、どういうことなの?」

「エ、エアスちゃん……ちょっと言い過ぎかも」

「ミザリーは黙ってて!!」

「ヒッ……」


 エアスの剣幕に委縮して、ミザリーが黙る。それにしても、結婚式……?


「コンスティナ帝国でグランペと結婚式を挙げることはできないと思っていたが、そうか、グランペのための国が作られているこの場所なら……」

「あぁ、用意してあるよ。君たち新郎新婦の衣装はばっちりとね!!」


───マーガレットが用意した衣装に身を包み、俺は船着き場へと向かった。遅れてやってきたリーカの姿を見て、俺は思わず息を呑んだ。


 汚れ一つなく、透けるような素材で作られた純白のベールに包まれたその可愛らしい顔は仄かに赤みを帯びており、同じく透明に近い白い素材で作られたウェディングドレスは、彼女の全身を覆っているにもかかわらず、その美しい脚だけはきっちりと見えるようになっていた。


 あまりの美しさに見惚れてしまい、言葉が出てこない。必死に絞り出した言葉は、たった一言だった。


「……綺麗だ」

「へへっ♪ ジュンキさんこそ、かっこいいですよ♪」


 今は、どんな言葉で褒められても、それを素直に受け止められない。リーカの姿があまりにも可憐過ぎて、どれだけ俺が着飾ろうとも釣り合っている気がしない。


「な、なぁ、シルト、これ……やりすぎじゃないか?」

「何言ってんのよ。あんた、こういうフリフリな衣装好きでしょ」


 俺が最初リーカに着せていた服装を彼女は覚えていたようだ。確かに、リーカにあのような可愛らしい服が似合うと思っていたのは事実だが、それにしてもこのウェディングドレスは高価なものだろう。


「ジュンキ……君が勝手に結婚している間に、私はロンドベル辺境伯の『建国の父』として君を祭り上げてしまってね」

「は……?」


 マーガレットは急に、何かわけのわからないことを言い始めた。


「先にやらかしたのは君だ。だから許してくれ。……この結婚式は、国を挙げた建国の父の結婚式ということになっている。だから……むしろ抑え気味なくらいさ」

「待て……分からない。一体何が言いたいんだ?」

「フッ……始まってみれば分かるさ」


 俺たちは一際大きな舟に乗る。結婚式はアイディーナの水上広場で行われるようで、舟はそこへ向かって進んでいくらしい。


「さぁ、舟を出すよ───!!」


───出航する。その瞬間、割れんばかりの歓声が鳴り響いた。


「な、なんだ!?」

「グランペ以外の領民も含めて、全ての領民がここアイディーナに集まっている。ほら、見てごらんジュンキ……これが君に対する祝福さ!!」


 水路の両側にある建物の全ての窓から、人々が手を振って俺たちを出迎えている。その光景はあまりにも現実離れしていて、まるで、英雄の凱旋のようだった。


「うおおおおおおお!! お似合いだぞおおおおおお!!」

「幸せになれよおおおおおおお!!」

「いや、君たちは一体誰なんだ……」


 困惑しつつも、舟は進む。ぎこちない笑顔を浮かべつつも手を振ると多くの人が歓声を上げる。それが楽しくなって、いつの間にか乗ってしまっていた。


 そして、いつの間にか俺たちは水上広場に辿り着いていた。


「こっちでリーカへの結婚指輪は用意しといたから、ほら」

「シルト、ありがとう」

「さぁ、ジュンキ様、リーカ様、こちらへどうぞ」


 ヴァージンロードというべきか分からないが、結婚の誓いをするための場所に俺たちは向かう。手を繋いで、身体を寄せ合って、歩いていった。


「───神の導きによって巡り会った男女がここに居ます。神に見守られ、今ここに誓約をします」


 メリヤンがマグヌス教の手法に基づいた祝詞を読み上げる。


「ジュンキ様、貴方はリーカ様を幸せにすると誓えますか?」

「あぁ、誓う。幸せにする」

「リーカ様、貴方はジュンキ様を幸せにすると誓えますか?」

「はい!! もちろんです!!」


 よく分からないまま、俺たちは返事をした。


「……正しい返答ではありませんが、気持ちが伝わったので大丈夫です」


 どうやら儀礼的には間違っていたようだ。


「さぁ、誓いのキスを───」


 俺たちは互いの手を取り合って、口づけをした。最早野次馬の声も気にすることなく、長い接吻に、制止が入る。


「ジュンキ様、な、長いです……」

「ごめん……」 


───盛況だった結婚式は半日かけて行われ、疲れ果てた俺たちは一先ず塔の中の特別客室で休むことになった。その部屋に、マーガレットが訪れた。


「ジュンキ、それにリーカ、今日はお疲れだったね」

「全く……でも嬉しいな。皆がこんなにも俺たちのことを祝ってくれて」

「そうか、ならよかった。リーカはどうだい?」

「寝てるよ。可愛らしい寝顔だろ?」

「フッ……意外と君は結婚したら惚気倒すタイプだったんだな」


 マーガレットに鼻で笑われたが、そんなことよりも彼女がここを訪れた目的を聞いていなかった。


「そういえば何の用で来たんだ?」

「明日帝国の外に発つのだろ? 盟友として、送り出す前に少しくらい会話しておきたかったのさ」

「……なるほど、そういえばマーガレットとは意気投合した割に話す機会が少なかったからな」


 マーガレットは酒を差し出すが、俺はアルコール飲料を飲まないので遠慮した。彼女も付き合い以外では酒を飲まず、結局誰も飲まない酒瓶がそこに残された。結局素面で、互いに積もる話をしあった。


「───で、君は東に向かうのだな」

「あぁ、世界の歪みの元凶を絶つために、このアイディーナから出航して東へと向かっていくつもりだ」

「東と言ってもほとんど北のようなものだよ。明日私が防寒装備一式を用意させておくから、受け取ってくれ」

「何から何まで、ありがとうな、マーガレット」

「構わないさ。祝儀だと思ってくれ」


 マーガレットが立ち去ると、入れ替わるようにリーカは目を覚ました。彼女は重い瞼を擦りながら大きく伸びをした。


「ごめん、起こしたか?」

「いえ……何となく、目が覚めちゃっただけです」

「さっきマーガレットが来てな。俺たちの旅に必要なものを用意してくれるようだ」

「そうなんですね。本当に、感謝してもしきれないです、あの人には……」


 まだ眠たげな表情をしているリーカを見つめていると、ベッドの奥の窓から見える景色に気が付いた。この部屋はかなり上層にあり、他に遮る建築物はない。


「リーカ、見てくれ。星が綺麗だ」

「わぁ……凄い、今日は一段と星空がよく見えます……」


 二人で同じベッドに座り横に並んで星空を見つめると、思わず感傷的になってしまう。


「俺がこの世界に来て初めて会ったのがリーカで良かった。君が居てくれたから、全ての物語が始まったんだ」

「私も、初めて恋した人がジュンキさんで良かったです。あなたが居てくれたから、全ての物語が始まりました」


 彼女の小さな手の上に、自らの手を乗せる。


「……そして、明日から、また新たな物語が始まる。楽しいことばかりではないかもしれないが、それでも君となら乗り越えられる」

「……明日から、逆境や苦難がどれだけ待ち構えていたとしても、私が居ます。ジュンキさんと私なら、絶対に大丈夫です」


 人知れず、誓いのキスをする。大衆へのアピールや儀礼ではない。それは、俺と彼女の間だけで交された。


「さぁ、行こう。新天地へ」

「へへっ♪ ジュンキさん、気が早いですよ♪ まずは今日寝て、朝になってからです♪」

「あ、あぁ、そうだな……」


 俺たちは、一つのベッドで重なり合うように眠った。やがて煌びやかな夜空の世界は終わりを迎え、全てを覆い隠すほどの眩い光が世界を覆う。


 さぁ、目を覚まそう。朝が来る───。



なんとか元から目標としていたワールドカップ期間内の終了はできました


一応メモやプロットがないだけで脳内物語はもっと広大だったんですが、3か月で17万字は僕的には限界です、ちょっと駆け足になってごめんなさい!!


書き溜めてる小説はほとんどノクターンノベルズに投稿する予定ですので、もしかしたらそちらに居るのを見つけられるかも・・・?

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