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間隙

 サァイールの槍兵が持つ長槍によって、コンスティナの兵が貫かれていく。彼らは帝都やジャルヴァナ公国の街を守る防衛隊や守衛等で、国土防衛のために立ち上がってくれた勇敢な人間だ。当然、彼らの一人一人が家族が居て、必死にここまで生きてきた。そんな兵たちの絶命する様を見て、甘んじて受け入れる訳にはいかない。


それに、シルトたちの力によって障害物をどれだけ設置しようが、劣勢に変わりはない。いずれ迂回したサァイールの兵もこちら側の包囲に成功し、殲滅することは容易になるだろう。これ以上犠牲を増やす訳にはいかなかった。


 そんな中、サァイール軍の戦線に隙間が空き、無敗帝アファイード・サァイールの前方ががら空きになるのが見えた。これは、俺が───俺たちが待ち望んでいた、好機だった。


「マーガレット、俺たちは突貫する」

「こちらからも決死隊を送った。……ジュンキ、健闘を祈るよ」


 馬蹄が土を蹴る音が響く。───「彼ら」が来た。


「ジュンキくん、援護するよ」

「頼んだぞ、アルベルト……!!」


 アルベルトが到着する。続いて、帝国の騎士団も投入される。彼らは皇帝マーガレットから離反したが、サァイール帝国軍による侵攻の一報を受けて一時的に軍に復帰した。マーガレットの【同調】の力が無ければ、各都市に散らばった騎士の集結は叶わなかっただろう。


 彼らの役割は、俺とリーカを無敗帝の元に送り届けることだ。敵陣にど真ん中に突撃するのは無謀の言葉では言い表せないほど危険で、命の保証はないと言ってもいいだろう。しかしながら、それでも誉れ高き騎士たちは俺の考えた作戦に賛同し、その全てが自ら決死隊を志願した。


「決死隊総員、突貫準備───」

「……行くぞ、リーカ」

「はい!!!」


 アルベルトが先陣を切り、楔形の陣形を取って決死隊は敵陣に突撃する。その数は僅か二十名……しかし、精鋭中の精鋭の二十名だ。最前線のサァイール帝国の槍兵に向かって、騎士たちの持つ槍が投擲される。その全てが彼らの肢体を貫き、瞬く間に絶命させた。その勢いのままにコンスティナの兵士も槍兵の懐に入り込み、敵兵の身体を貫いた。───無敗帝への道が、開かれたのだ。


「進めえええええええええ!!!」


 アルベルトの叫びが木魂する。それに呼応して馬上の騎士たちがサーベルを抜刀する。戦線に空いた僅かな間隙をすり抜けるようにして、俺たちは無敗帝の元へと向かう。しかし、それを黙って見逃すほどサァイールの軍の練度は低くない。


「ジュンキくん、矢が飛んでくるぞ!!」

「こっちはリーカが迎撃できる。無理に守ろうとしないでくれ!!」

「分かった、信じるぞ!!」


 空から矢が降り注ぐ。その数は決して多い訳ではないが、数的優位は常にあちらにあった。エアスが銃列を排除してくれていなければ、今頃は銃弾も飛んで来ていたのかもしれない。そう考えるとこの射撃は大したことないように思えるが、現実はそうではなかった。


「ぐああああああっ!!」


 騎士の中に、矢で射抜かれる者が居た。当然だ。リーカが特別なだけで、普通の人間は矢を刀で振り払うことなどできる訳がない。さらに、仮に弓矢を掃えたところで、全ての攻撃を防げると言う訳ではない。


───イイヒィィイイイイイン!!


 馬の嘶きが響く。矢は人だけでなく、騎士の跨る馬にさえ直撃することがあるのだ。馬にも鎧がかけられているとはいえ、防御の薄い部分に矢が突き刺さってしまえば、後は落馬する外ない。


 無敗帝の姿が徐々に近づいていく。それと同時に、隙間が空いていた戦線も狭まっていく。俺たちが総大将目掛けて突撃していることに気が付いているのだろう。いや、気が付かないはずはない。それ以外に、あちらの敗因になりうる要素はないのだから。


「ジュンキくん、あとどれくらい掛かる!?」

「まだだ、まだ耐えてくれ……!!」


 最初は二十人居た決死隊も、五名にまで減っていた。コンスティナの陣地を攻撃しようとしていたサァイールの軍は、踵を返すようにこちらに向かっている……こちらを包囲するためだ。当然、落馬して脱落した負傷者は、既に殺害されているだろう。俺の無茶な作戦に付き合わせて、命を捨てた彼らに報いるために───いや、他の誰かのためではない。俺が為したいことを、為すべきことを、為すのだ。


「ジュンキくん、すまない……俺は限界のようだ」

「アルベルト!?」


 先陣を突き進むアルベルトが、馬上で吐血した。……彼の身体には、無数の矢が突き刺さっていた。


「無理に守ろうとするなと言ったのに……!!」

「いや、俺が避けるのが下手だっただけさ。……突き進めよ、未来に向かって」

「……ッ!! あぁ……!! 分かった!!」


 徐々に失速していく彼の馬を追い抜く。決して振り返らず、前だけを見て走る。そして、俺とリーカは、二人だけでその男の元に向かった。


「リーカ……この距離なら……!!」

「ジュンキさん!!」


 俺は指輪を取り出し、彼女の手に差し込んだ。そして、その祝詞を詠唱し始める。


「希望を謳え。希望を切望し、希望に殉じろ。我らは未来を切り開く者なり……顕現せよ、我に力を与えたまえッ!!」


───【浄罪】、その効果範囲は僅か数十メートルほどしかなく、発動させるには対象に接近する必要があるのだ。対象は、たった一人……無敗帝アファイード・サァイールだ。彼に【浄罪】の力を使い、自らが内包する罪の意識と向き合わせ、対話に持ち込むのだ。両軍共に、これ以上の犠牲者は出させない。俺は、俺たちは、この戦争を終わらせる!!

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