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会戦

 エスタ・ミ・ロジヤ陥落の一報を受けてから一カ月、遂にミザリーの隊はサァイール帝国の軍勢を発見する。俺たちの予想通りのルートで帝都に向けて進軍していたらしく、このまま行けば数日後、今俺たちが居る場所に彼らは到達するようだ。


「思いの外数が少ないな。ミザリー、伏兵の可能性は?」

「な、ないと思うよ。【感知】の子は前方に居る二万の兵以外は人が居ないって……」

「二万、か……」


 どちらにせよ、絶望的な戦力差だった。堅牢な要塞都市を陥落させたのもそうだが、短期間で版図を広げたサァイールの軍隊は恐らく戦術的にも練度的にも洗練されており、戦闘で勝つことは不可能と言っても過言ではないだろう。


 だが、俺の目的は戦争に勝つことではない。もっと言えば、戦争をするためにここに来たわけではない。戦闘は避けられず、死傷者は避けられず、敗北は避けられない。それでもなお、成し遂げなければならないことがある。


「マーガレット、メリヤン、この配置図を見てくれ」


 ミザリーたちが集めてくれた情報から、地図の上に両軍の兵を模した模型を置いていく。間違いなく、戦闘前から敗勢だった。


「うわぁ……これは勝てないね」

「ジュンキ様、さすがにこれは……撤退すべきではないでしょうか?」

「駄目だ。民間人に被害が及ぶことを考えれば退くことはできない。───計画通りに行くぞ」

「分かった。君がそう言うなら私も全力を尽くそう。……共に生きて帰ろう、ジュンキ」

「ありがとう、マーガレット」


───そして、二日後の昼、予想より早くサァイールの軍勢がその地に現れた。丸一日掛けて陣地を構築し、迎え撃つ準備は整っていた。


 接敵すると、彼らの中から総大将らしく派手な装飾を身に纏った大男が巨大な馬に乗って前に出てきた。彼の体躯は二メートルを超え、馬も元の世界のアラブ種より大きく、五百キロは優に超えるほどの体格を持っているように見える。その姿を見て、俺は直感的に理解する。彼こそ、サァイール帝国皇帝アファイード───通称、無敗帝だ。


「コンスティナ帝国軍勢諸君。諸君らが烏合の衆と化していることは分かっている。増援は見込めず、諸君らの帝国自体が瓦解しつつあることもな。しかも、偵察隊の報告によれば伏兵も居ないようだな……我々の軍に勝てるはずがない。無駄死にする前に降伏し、我が軍の進路を開けよ!!」


 無敗帝の声は恐ろしい程良く通り、前線の全兵士の耳に届いている。その声の大きさはサァイールの兵士も耳を塞ぐほどで、彼の超人じみた身体の出力を物語る一つの要素となっている。


「……待てよ。ミザリー、頼みがある」


 俺はサァイールの軍勢に、見慣れた武器の存在を見た。あれは、間違いなく「火縄銃」だ。サァイール帝国は火薬を使った軍事兵器の導入を先んじて成功させていたのだ。俺は【通信】のグランペの力でミザリーに連絡した。


「な、なんだい」

「【望遠】の力で敵の持ってる筒状の武器の数を数えてくれ。エアスの【狙撃】の【ケガレ】と似た感じのやつだ」

「分かった。えーっと……五十本くらい、ってところかな」


 【通信】のグランペは最大五台まで通信機のようなものを顕現させるが、俺とミザリーの他にはエアス、マーガレット、シルトが持っている。俺はエアスに銃への対処をさせることにした。


「エアス、聞こえるか?」

「うん、聞こえてる」

「君の【狙撃】と同じような武器をサァイールの兵が持っている。確認できるか?」

「分かった。あいつらを撃てばいいってこと?」

「いや、できれば武器だけを破壊できないか? 向こうの犠牲も減らしておきたい」

「……簡単に言わないでよ。まぁ、できるけど」

「ありがとう、合図が発せられ次第頼む」

「うん」


 俺は最後に、マーガレットに通信を掛けた。


「マーガレット、準備は完了した。後は君の指示で戦闘が開始する」

「……よし、では始めるとしよう!!」


 攻撃開始の合図が鳴らされる。音階の存在しないトランペットのような音の楽器の音が響くと、一斉に弓矢が放たれる。しかし、そのほとんどは盾によって防がれてしまった。


「ジュンキさん、攻撃が全く効いていないです!!」

「いや、これでいい。弓による攻撃はただの牽制だ。リーカは相手の攻撃に備えて剣を構えておいてくれ。エアスと同じような攻撃がこっちに五十発くらい飛んでくるぞ」

「は、はい!!」


 火縄銃が吹き飛ぶ様子が見えた。どうやらエアスは指示通り銃だけを攻撃し破壊してくれているようだ。三十分間攻撃に耐え続ければ、全ての火縄銃を失わせることができる。サァイール軍がこちらに接近するのを防げば十分被害を抑えることができる。


「皆、伏せろッ!!」


 轟音が鳴り響く。サァイールの持つ火縄銃が一斉に発射されたのだ。しかし、距離が遠く相手の攻撃は全て外れた。やはり彼らが持つ銃は前込み式の非ライフリング銃のようで、丸い鉄の塊を近世程度の工業力で作られた銃身から放ったところで、命中精度はたかが知れている。野戦で効力を発揮するなら銃を大量配備して、戦列を組んで接近する必要があるのだ。


「よし、上手く行ってるぞ。シルト、準備はできてるよな?」

「当然よ」


 飛び道具による牽制も効果は限定的で、徐々にサァイール軍がこちらに近づいてくる。さらに両翼の幅が広い分、彼らはこちらを包囲する狙いがあるのは明白だった。仮に包囲されたとすれば、後方に集中させたミザリーの部隊などの補助要員が攻撃されることになってしまう。一応メリヤンに後方の守りは任せているが、完全な包囲となれば劣勢を覆すことができない。包囲を防ぐために、こちらはシルトの部隊を使った作戦を講じていた。


「積み重なれ。汝の育んだ大地を切り開き、涵養の先にあるものを掴み取れ。……顕現せよ、我に力を与えたまえッ!!」


 シルトが【ケガレ】を発動する。それと同時に、彼女の部隊に所属するグランペも次々と能力を使用していった。


「な、なんだ!? 急に柵が!!」

「怯むな!! 遠回りしてでも敵の背後に……急に地面が泥になったぞ、どういうことだ!!」

「こっちは滑って前に進めん、どうすればいい!!」


 グランペの力は非常に強力で、あっという間にサァイールの進軍を止めてしまった。ただの平原が、馬等機動力が高い戦力も使いづらい地形に早変わりだ。しかも、コンスティナの軍勢を包囲しようとした影響で、彼らの戦線は歪に、横に広がってしまっていた。


 数万の兵も、分散され、足止めされてしまえば数的優位を活かすことはできない。そして、戦線に穴を開けてしまうことになる。俺は、この時を待っていたのだ。


「リーカ、準備は良いな」

「……はい!!」


───たった一つの秘策が、解き放たれる。

ドラゴンズ、大量得点、うはうは

大野さんの大ファンなので、勝ち投手でかなり嬉しい

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