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旧世界から(1)

 一通り自身の思想を発露した後、火照った身体を冷ますために水を飲んだ。リーカは俺の隣に座り、ソファーで互いに寛いだ。


「な、なんか凄かったです……。私には、とても考えが及ばなくて……」

「全部理解してくれとは言わない。……ここまで熱くなってしまうとは、俺自身も驚いている」

「ジュンキさんが元の世界で戦っていたのは、自分の理想の世界を作るためなんでしょうか?」


 リーカが俺の顔を覗き込んで聞いてくる。どうやら、もうそろそろ話すべき時が来たのかもしれない。


「俺はとある人に誘われて、外国の戦地に赴いた。高尚な思想なんて何もなく、ただ黙って戦争を見過ごすことができなかった。それだけのことだった」


 大国の情報機関とコネクションのある大学教授、彼の手を借りて俺は非合法な手段で渡航禁止地域に渡った。他国の内戦という本来なら外国人が踏み入る必要も無ければ、むしろ彼らにとっては余計なことである可能性すら高いにもかかわらず、自分自身の感情を優先してその場へ向かったのだ。


「ある日、無茶な作戦に参加させられた。素人同然の自称兵士が生き残れるはずもない戦場だ」

「もしかして、そこでジュンキさんは……」


 あの日起きたことを、話さなければならない。


「死ななかった。俺は、生き残ったんだ。唯一、俺だけが───」


 俺だけが、生き残った。


 馬鹿げた戦闘だった。国民の支持を失ってるとはいえ、正規の軍隊が相手なのだ。素人集団に敵うはずがない。それでも俺たちは戦った。戦わざるを得なかった。俺は迫撃砲が着弾する音と共に気絶し、目を覚ましたころには全てが終わっていた。


 辺り一帯に、血の海が広がっていた。どこを見渡しても死体が転がっており、俺が倒れてからも一メートルすら進軍できずに壊滅したことは想像に容易かった。攻撃は完全なる不発で、敵には一切の損害を与えられていないようだった。


 足音が聞こえてくる。政府軍の兵士だろうか……。念のため死体のように振舞うが、敵兵の死亡を確認するために頭に銃弾を撃ち込むのは戦場ではよくあることだ。国際法も守らず捕虜を取る気が無い彼らなら、なおさらだった。遂に命運尽きたことを悟ると、聞き慣れた声が聞こえた。


「おめでとう、ジュンキ。君は神に選ばれた」

「……!? なんで、ここに居る……!?」


 そこに立っていたのは、大国の情報機関から送り込まれたエージェント───名前は知らないが、いつも俺たちに情報を提供し、この死地に多くの人間を送り込んだ元凶だ。


「全く、感謝して欲しいな。君は酷い怪我をしているし、私は君を助けに来たというのに」


 俺は、そこで初めて自分の身体の様子を確認した。砲弾の破片が腹部を直撃しており、痛みの感覚さえなかった。今意識が戻っていることさえ奇跡的で、最早自分の命は数十分と持たないということが分かった。


「死ぬのか。俺は……」

「いいや、死なない。君は、神に選ばれたのだから」

「神……? どういうことだ?」

「これほどの大怪我を負ってもなお、即死しないその生命力───我々は君のような人材を求めていたのだよ、ジュンキ」

「おい、さっきから何を言ってるか、全く意味が……」

「眠れ───」


 彼は俺の首筋に注射器を打ち込んだ。薬剤の種類までは分からないが、兎に角その瞬間に意識が途絶えた。


───目を覚ますと、真っ白な部屋の中に居た。壁から天井に至るまで、全てが純白な正方形の部屋だ。病室にしても奇妙で、天国にしては味気が無さ過ぎた。俺は恐らく生きては居るのだろうが、その状況までは把握することができなかった。


「傷が……治っている……?」


 どういうことか、まるで夢を見ていたかのようにその傷は無くなっていた。シャツをめくると傷跡すら残っていない。


「ここは、どこなんだ……」

「目を覚ましたようだな」


 あの男の声が聞こえる。生の声ではない、スピーカーから聞こえてくる声だ。


「こっちの声は聞こえているのか?」

「勿論だ。君の様子は常にモニタリングされている。バイタルも含めて全て、だ」


 俺は監視カメラを探したが、どこにも見当たらなかった。盗聴器も無く、自分自身に何かが取り付けられている様子も無かった。


「無駄だ。私は、神の力を手に入れたのだからな」

「だから神って、なんだよ……!?」

「いずれ君にも知るときが来るだろう。だが、それは今ではない……。それより、もうそろそろ気付かないか? 君にも『神の力』が宿っているということに」


 何を馬鹿な、と反論しようとする。だが、明らかに自身の身体に異変があることは、目を覚ました時から気づいていた。身体が異常に軽く、微かな音や匂いに敏感になっている。この何もない部屋だからこそ世界の煩雑さに呑まれないで済んでいるといってもいいだろう。


「その身体に慣れるまでは時間がかかるだろう。……慣れるまで我々に協力してもらう」

「何を……」

「ジュンキ、君は一人で大軍を圧倒する存在になった。今の君は───『試作型人造人間兵器"アルファ"』だ」

「は……?」


 俺は、「人間」ではなくなっていた───。

一気にバーって書こうとも思ったけど、ワールドカップあるので・・・ね?

ところでNHKは「ビニシウス」って書くんですね

俺、ヴェネティアとかヴェローナとか、ジェノヴァとか・・・Vから始まる名詞をバ行で表記するのが、一番大嫌いなんですよ

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