その部屋
「───サルミタは『はじまりのグランペの街』なのだ」
皇帝は、話を続ける。
「サルミタはある特殊な性質を持ったグランペを不当な扱いから匿うために、『後から』作られた街である。初代リーカが死亡した後、今までに持っていなかった【ケガレ】を顕現させる者が現れた。それがグランペを殺す力……【断罪】のグランペ」
「その力を受け継いだグランペに、リーカという名前を襲名させているということか……」
「じゃ、じゃあ私のお母さんの名前もリーカ、ってことですか?」
「それは違う。どのグランペから【断罪】を持つ者が生まれるかは予測不可能だが、前例からして、先代が死去した後に産まれるのだと我は推測している。……君は三代目の【断罪】なのだから、まだ前例が少なすぎることだけが問題だ」
リーカは自らが知らない親のことを知れる機会だと思っていたのか、肩を落としてしまった。
「次に、特殊な性質について説明しよう」
「【断罪】のことじゃなかったのか?」
「うむ。【断罪】を持つグランペにはもう一つ隠された性質があるのだ。それは【共鳴】という現象を起こせるということだ」
「【共鳴】……?」
「一人目の【断罪】、二人目の【断罪】───そして、「始まりのグランペ」であった初代リーカにも、特殊な力があった。それが、【共鳴】だ。【共鳴】を引き起こせば、グランペは真の力を解放することができる。我はジュンキなら、この【共鳴】を起こせると確信している」
「待て。なんでそこで俺が出てくる? 【共鳴】とやらを起こすのはリーカの方じゃないのか?」
「【共鳴】には必ずグランペではない人間の協力が必要不可欠だ。そして、二人は強固な信頼関係を築いていなくてはならない。更に、人間の側にもグランペの能力が付与されることによって、身体能力が高くなければ健康に悪影響が出る。……君こそ適任なのだ」
彼の手が俺の肩に乗せられる。さすがは皇帝というべきか、彼に信頼を「託された」と思わされるだけで、精神が高揚していくのを感じる。だが、あくまで冷静に彼の言葉を見極めなければならなかった。ただでさえマーガレットにしてやられた後なのだ。警戒してしかるべきだろう。
「【共鳴】をさせて、俺たちに何をさせるつもりなんだ?」
「【共鳴】は発動させるまでどんな力が発現するかまでは分からない。だが、前例に基づいて言うのなら、共に共鳴する者───【共鳴者】とでも呼ぼうか、この場合、ジュンキが心の底から望んでいる力が手に入ると思って構わない」
「俺が皇帝やヴェルオーモ家に有利なことを望んでくれるとでも?」
「言っただろう。『君たちの作る新たな世界を作る協力をしなければならない』とな。それが我の目的だ」
「分からないな……それに、何故初対面の俺たちが強固な信頼関係を築いていると判断しているんだ。第三者の貴方が」
「信頼していないのかね?」
皇帝は、まるで試すように薄ら笑いを浮かべてリーカの方を見る。
「い、いえ!! 確かに私はジュンキさんのこと信頼してます!! でも……その……【共鳴】って、どうやってするんですか?」
「どうやらリーカの方は【共鳴】の乗り気なようだぞ。……ジュンキもこの老人の話に耳を傾けてはくれぬか」
「……あぁ、分かった。話だけは聞こう」
「では、場所を移そう」
───今度は「3」と書かれた部屋の前に移動した。俺はその部屋の扉に書かれている文字を読み上げる。
「『愛の部屋』……なんだこれは?」
「ジュンキ、古代文字が読めるのか」
「いや、まぁ……読めないことはないな」
実際のところを言うと、この世界の全ての言語は日本語に変換されて読むことが可能で、しかも言葉も勝手に日本語から別言語に変換できるため全ての国と民族の言語を喋れるのだが、それを説明するのは少々面倒だ。古代文字が読めるということにしておこう。
「なら、話は早いな。ここはルシマースが初代リーカが出会った後、共に愛を育んだとされる部屋だ」
「あ、愛を!? ど、どんなことをしたんでしょうか……?」
「一応聞くが、ふざけては無いよな?」
「断じてふざけてはいない。【共鳴】の条件として、この部屋で丸一日二人で共同生活してもらうというのが、最低条件なのだ」
「最低条件……ということはそれ以上に時間がかかることがある、ということか?」
「いや……何分食い物に困らず快適な暮らしができるせいか分からないが、初代を始めとしてほとんどの組は名残惜しく数カ月、或いは数年間ここから出られなかったそうだ」
「こ、ここでずっとジュンキさんと生活してていいってことですか!?」
リーカは何故か明るい表情で食らいつく。当然そんなことしている余裕はないのだが、微笑ましい気持ちの方が勝ってしまった。
「……うーむ。今は帝国の一大事なのだ。できれば早く出て来てほしいが、我には止める権限はない。ジュンキとリーカが望むなら、我も甘んじて受け入れる……」
「心配するな。別に貴方のためでも帝国のためでもないが、用を済ませれば必ず戻って来る」
「そうか……。では、我は別の部屋で眠っておくから、二人で仲良くするのだな。───ちなみに、中は防音で、こちらには聞こえぬからな」
何故わざわざ防音性について教えてくるのか分からなかったが、俺たちは恐る恐る───もとい、リーカだけは嬉しそうにスキップをしながら部屋に入っていった。全く警戒心の無い様子に一瞬心臓が飛び跳ねた。【共鳴】する前から……身体に悪い影響がありそうだ。
部屋は先ほど墓標があったところと横の広さまでは同じだったが、かなり奥行きがあった。部屋を探索する中で風呂やトイレ、冷蔵庫やキッチン等、明らかにこの世界のものではない家具や設備が整っていて、その異質さに違和感を覚えた。一方で、リーカはそもそもこの世界のことさえあまり理解していないので「凄いです!!」と言ってはしゃいでいるだけだった。
だが、それらの異様さは、この部屋の「規則」の中では特筆すべき点にも入らない、瑣末なことだった。俺はリビングの壁に立てかけられた石板に書かれた文を見て、頭が痛くなる。
「おい、これって……」
そこには「この部屋は二人がふか~く愛し合うまで出られない部屋です♡byヴェリオッタ」と書かれていた。……ふざけた野郎、いや、クソ女神だ。一日で出られる部屋と聞いていたが、どうやらそれはガセだったらしい。
「いや、まさか……皇帝は知っていたのか?」
彼はわざわざ「防音」という情報を付け加えていた。つまり、「最も重要な部分」を伏せて、この部屋に俺たちを押し込んだのだ。その重要な部分が何か、想像通りの物なら───。
「……ジュンキさん、どうしたんですか? これって、なんて書いてあるんですか……?」
「あぁ、いや……ちょっと待ってくれ」
リーカに変化はない。ただ、俺が一人だけ気まずい。そう、あの無駄にオタク気質な世界の創造神は何に影響されたのか、「○○するまで出られない部屋」をこの世界に作っていたのだ。
冷や汗が額を伝っていく感触で、誤魔化すための口実を思いついた。
「あ、汗かいてきたな。……リーカ、疲れてちょっと汗ばんだだろ?」
「うーん……そうかもしれません!!」
「この部屋にはシャワーという、汗を流す革新的発明品があるんだ。使い方を教えるからこっちに来てくれ」
俺はリーカにシャワーの使い方を教えて、先に身体の汗を流し切ったのだが、シャワーが流してくれるのは汗だけなのだ。結局、俺は問題を先送りにしただけでしかなかった───。
雨天中止二回続いちゃってリズムおかしくなったかもしれないけど、かねまるくんがんばえー




