墓標
皇帝は長話にくたびれたのか、水を一口飲んで息を吐いた。聞きたいことは山ほどあったが、目の前の老体に対し矢継ぎ早に話しかけるのは良くないと、自制する。だが彼はそんな俺の考えも見透かしているようだった。
「……聞きたいことがあるなら何でも言え」
「その話は歴代皇帝だけで語り継がれる口伝なのか?」
「うむ。その通りだ。表向きはグランペがヴェルオーモ家によってもたらされたことは知られていない。ルシマースがヴェルオーモ家の当主だったことも当時の貴族連中は知っていても、現在知っている人間は居ないはずだ」
つまり、グランペの出自は皇帝のみが知る事実のようだ。また、彼女たちを守護せずに、その力を【ケガレ】と呼称し迫害する方向に持っていったのは他ならないヴェルオーモ朝初代皇帝ボスティモス一世によるものらしい。……実に腹立たしい話だ。
「皇帝は表向きにはグランペの迫害に加担しつつも、その力を利用してヴェルオーモ家による皇位の独占をしてたのか?」
「否定はしない。だが、先祖代々皇帝を継承するためにそれ以外の並々ならぬ努力があったことも事実だ」
「俺が言いたいのはそういうことじゃないってことくらい、貴方なら分かるだろ」
皇帝はリーカの足もとで跪いた。
「───すまなかった。我々は、二百年に及び、諸君らグランペに不当な扱いを強い、その上都合よく利用していた。ヴェルオーモ大公家をを代表し、我が謝罪しよう」
「へっ!? きゅ、急にそんな……ど、どうすれば……ジュンキさん!?」
急に皇帝が膝をついてまで謝って来たのだ。リーカは狼狽し、俺に助けを求めてきた。
「許さなくていいぞ。リーカのことだ、別に怒ってはいないだろうが……許してはいけないんだ。この世界の誰も、今までに傷つけられたグランペの分まで償うことなんてできないからな」
「それでも、我は謝らなければならない。ジュンキ……君はグランペのために動いていると聞いている。我は、これからの未来のために───君に、君たちの作る新たな世界を作る協力をしなければならないのだ。そのために、この遺跡に連れてきた」
彼はそう言って、地下への階段を降りていく。暗い中で手すりを頼りに俺たちもその後ろを歩き、下っていく。数分後、辿り着いたその空間は光に包まれていた。
「す、すごいです!? 光ってます!?」
「原理は分からぬが、ボタン一つ押すだけで部屋が明るくなったり暗くなったりするのだ、この遺跡は」
「照明……!? 電気があるのか、ここには……!!」
間違いなく、LED照明による光だった。問題は、「古代」とされる時代が少なくとも数百年どころではない程昔ということだ。さすがのLEDでも耐用年数を大幅に超過しているし、仮に元居た世界の現代でも再現不可能な技術が使われているのかもしれない。何より、グランペという不思議な存在が誕生した地でもあるのだ、常識は通用しないと思っていいだろう。
「しかし、まるでこれは……研究施設のようだな」
汚れ一つない純白の壁と床は、ある時に見た研究機関の施設を思い出させた。俺は、あの時───。
「……ジュンキさん? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。……少し前の世界のことを思い出していただけだ」
皇帝は慣れた様子で遺跡内を歩き、廊下の中にある一つの部屋に入っていった。部屋の上には「6」という数字書かれていたが、遺跡内部に入ったときに「12」と「1」という数字を見たので、恐らくは十二の部屋がここにある、ということだろう。
部屋の中には石碑のようなものが建っており、異質な雰囲気を感じさせた。
「まずはこの部屋を紹介しよう。この部屋はルシマース、そして彼が愛した女性が眠る墓が置かれている」
「わざわざ墓標をこんなところに持ってきたのか?」
「グランペの力に決まっているだろう。……この世で説明できないものは、大体彼女たちの力によるものだ」
「……なるほど」
正直言ってあまり納得したくはなかったが、彼女たちの理外な能力を今まで目の当たりにしてきて、理解不能なものをグランペによるものだと主張するのは単純明快な気がした。だが、その単純明快さがありとあらゆる事象に対し「グランペの仕業」とするような迫害の理由に繋がっているような気もした。
俺は墓標に近づいて、刻まれている文字を読む。
「ルシマース・ヴェルオーモ……愛する妻、リーカと共に眠る。……リーカ?」
「わ、私ですかっ!?」
「あぁ、始まりのグランペ……彼女の名前もリーカだ」
「一応聞くが、偶然か?」
俺には予感があった。わざわざ彼がこの墓に連れてきた理由───それに、先ほどの話で「リーカ」という名前を伏せていた理由があるはずだ。俺が共に旅をしてきた【断罪】のリーカの秘密を、皇帝ボスティモス三世は知っているのだと、直感していた。
「君の察する通り、偶然ではない。リーカという名はサルミタのグランペに代々引き継がれている。サルミタは───『はじまりのグランペの街』なのだ」
一方で、俺がサルミタのことを「はじまりの街」と呼ぶのは、ただの偶然であった───。
や、やきうが・・・たりない・・・(二日連続雨天中止)




