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一方その頃……(二日前、帝都)

 コンスティナ帝国皇帝ボスティモス・ソン・ヴェルオーモが死亡した。食事の後身体を痙攣させ、もがき苦しみながらそのまま息絶えた。死因は恐らく毒殺……何者かに暗殺されたのだと推察される。


 帝都では半旗が掲げられた。帝都が「帝都ボスティモス」であるのは彼が皇帝の座に君臨している間だけであり、皇帝が崩御してから次の皇帝が決まるまでは街の名前は無くなる。次の皇帝が決まれば、またその皇帝の名がそのまま帝都の名として刻まれることになるが、実際のところ次期皇帝など決まったようなものだった。


 選帝会議で国内の有力貴族が集められ次の皇帝が決められるという制度は形骸化している。投票券を持つ貴族───選帝侯達はかつてヴェルオーモ大公家と婚姻関係を結んだ家、政治的に便宜を図られている領主、強いものに逆らえない弱小貴族等で、選帝会議は実質的に現皇帝の子供が皇位を継承するという茶番となっているのだ。


 事実上コンスティナ帝国の「皇太子」となっているジャルヴァナ公国のグラティアス・ソン・ヴェルオーモ公が順当に皇位を継承するまでの間の政治は帝国議会が取り仕切り、宰相と大臣が行政の大半を掌握するのだが、それは各地の選帝侯たちが結集して選帝会議が終わるまでの数年間の出来事でしかなく、政治的空白も皇帝の不在による帝国の正当性の低下も最低限に抑えることができるというのが、ほとんどの帝国貴族の考えだった。


 しかし、貴族たちはこの国の脆弱性に気付いていなかった。若しくは、気づかないようにしていた。選帝会議自体が形骸化した原因は、システム自体が成文化されていないことにあった。要するに、何もかもを慣習だけで取り仕切っていたのだ。


 無論、皇帝への投票券や議員になれる立場の貴族等、かつての皇帝に発せられた勅令によって文書で決められた部分も少なからずある。───だが、選帝会議に関しては、柔軟性を保つために厳格な規律を作らずに運用してきたのだ。


 前例として挙げるなら、そもそも会議に参加できない貴族が居たら欠席の場合でも皇帝は決定したことがある。当選のために必要な最低の投票数も規定されておらず、過去には六名の賛同で皇帝になった者も居たくらいだ。


 更に挙げるとすると、選帝会議には会期が定められていない。かつて戦時に病で皇帝が倒れた時は、崩御の前に多くの選帝侯が集まり、皇帝が崩御すると同時に会議を開始、即刻次期皇帝を就任させた、ということもあった。


───選帝会議は極論、投票者一人、会期無しでも成立するのだ。


 マーガレット・ロンドベルは、コンスティナ帝国の歴史を調べ上げる内に、「その可能性」に辿り着いた。そして彼女は計画を実行に移した。


 初めに、予てから帝国というシステムに反感を持ち、反旗を翻そうとしていた二つの「国家」、モレトガバヴィア辺境伯とサント・マティウス・マグヌス大司教区の独立を、彼女は約束した。


 モレトガバヴィア辺境伯は強大な軍事力を持っており、経済的な地盤も確かなものを持っている。一方で、帝国による防衛義務は明らかに過大で、西の隣国を抑えるだけの軍事力だけに飽き足らず、南東のサァイール帝国に対する守りを固めるための兵力と食料・軍事費も拠出している。そのため、自治権がいくら与えられようと経済の停滞に為す術がなかった。


 サント・マティウス・マグヌス大司教はかつて帝国で最も権威のある役職だった。皇帝から領地を与えられた大司教が戴冠することでようやく「皇帝」が誕生するという儀式が途絶えたのはヴェルオーモ大公家が帝位を独占するようになってからだ。その癖、帝国は神の威光に頼って国民を統治している。それがマグヌス教の教義に適っているかなど関係なく、皇帝が「神がそれを望まれる」と言えば増税でも戦争でもやりたい放題なのが今のコンスティナ帝国なのだ。


 この二国が独立することで、コンスティナ帝国は瓦解するだろう。だが、マーガレットは自身が皇帝になるためなら帝国が元の形を留めていなくても構わないのだ。そのためだけに全てを賭して、今───帝国議会に突入する。


「───行くぞッ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「な、なにごと!?」


 マーガレットの号令に、彼女の私兵たちが応える。その数は三百人、議会に居る議員の数の三倍もの武装した兵士が議場になだれ込んでくる。狼狽える議員たちは瞬く間に拘束され、あっという間に議会は制圧された。


「こ、こんなことしてタダで済むと思っているのか、ロンドベルの娘!! その綺麗な顔にくせえクソぶちまけてから殺してやるからなッ!!」

「いいのかい? 次期皇帝にそんな口聞いて……不敬罪第一号は君かな?」

「ど、どういうことだ……!?」


 マーガレットを怒鳴ったこの議員はランドバル、帝国屈指の名家の家長だ。かつて騎士として軍を率い、東方の敵国を打ち破った功績もある。そんな男が商人の私兵風情に頭を押さえつけられ、地面に突っ伏している。常識的に考えれば打ち首になるのはマーガレットの方なのだが、彼女は自身を次期皇帝と称した。その言葉が何を意味するのか、この場に居る全ての人間が理解していた。


「貴様……皇位を簒奪するつもりか!!」

「そもそもそんなことできようがない!! 僭称だ!! 僭称者を殺せ!!」

「卑しいロンドベルの娘が皇帝になれるものか!!」

「死ねッ!!!!」


 拘束された議員たちが、思い思いにマーガレットのことを罵っていく。彼女はそんな彼らの罵詈雑言を物ともせず、議会の中心部、演壇に上がる。


「やれやれ……私はちゃんと、正統な手段で皇位を継承するというのに、君たちは早とちりし過ぎじゃないかな?」

「だから、それが不可能だと言っているのだ!! 次期皇帝はグラティアス様だと決まって───」

「選帝会議も終わってないのに?」

「だから、分かり切っているだろう、選帝会議の結果など……!!」

「本当にそうかな? じゃあ、今から始めるよ……選帝会議をね」

「ふざけるな!! お前の一存で選帝会議を開催することなど───」

「では、入ってくれ。大司教、辺境伯」


 先ほど私兵が突入して来た議会の扉から、二人の男が現れる。それはモレトガバヴィア辺境伯とサント・マティウス・マグヌス大司教だった。


「この二人が居るということは、分かるよね?」

「モレトガバヴィア辺境伯は選帝侯の一角、そしてマグヌス大司教は……まさか!?」

「そう、大司教が選帝会議の立会人となり、そのまま戴冠式に移行する。喜びたまえ、君たちは今日この場で新皇帝の誕生に立ち会うことになるのさ!!」

「ば、馬鹿な……あり得ない!! 大司教様、何のおつもりですか!!」


 大司教は老いぶれていても、確かに聞き取れる声を発する。


「緊急事態なのだ。我々は新たな皇帝を望む」

「緊急事態……どういうことだ、説明しろマーガレット・ロンドベル!!」

「ランドバル……いや、この場に居るみんなも知らないだろうが、実はこちらで皇帝を暗殺した犯人を特定してね。彼……いや、彼らがこの国を滅茶苦茶にしようとしているんだ。だから、空位の期間を作っちゃいけないってことだよ。分かるかい?」

「適当なことを言って……!! 皇帝陛下を毒殺したのもどうせ貴様だろ!! 陛下が倒れて間もないのにこんなバカげた行動を取れること自体がその証拠だ!!」


 議場全体で、「そうだそうだ」と声が上がる。


「全く、やめた方がいいぞ。私は耳が良いんだ。……声の聞き分けくらい容易いんだけどね」

「脅しのつもりか? ここに居るのは皆騎士として前線に赴いた強者ばかりだ、皇帝陛下に忠誠を誓い、命を捧げる覚悟をしたものだ。……見くびるなよ」

「そうかい? じゃあ、大司教、早速始めるぞ」

「うむ。これより、選帝会議を開始する。皇帝にマーガレット・ロンドベルを推すものは挙手を」

「ほいよっ」


 モレトガバヴィア辺境伯が、たった一人手を上げる。


「以上、出席者全員の賛成投票により、棄権者も全員賛成と見做しマーガレット・ロンドベルを皇帝とする」

「無茶苦茶だ……!! こんなこと、通るはずが……」

「通っちゃうよ。……大司教、持ってきたよね」

「うむ」


 大司教が左手を高く上げると、外で待機していた大司教区の人間が王冠を持って駆けつける。そして彼の手に王冠を持たせた。


「マーガレット・ロンドベル、卿は神の教えに則り、帝国を統治することを誓うか?」

「勿論さ」

「では、大司教より帝位を授与する。神の御心のままに、神のために民に尽くせ」


 儀式は簡略的で、戴冠式と呼ぶには程遠い者だった。しかし、彼女の頭に王冠が乗せられ、大司教が認めたからには、マーガレット・ロンドベルが皇帝であるのは紛れもない事実であった。


「で、私は皇帝となった訳だ。……ランドバル、シークレン、ミルファイル、ミキシマ、マーティス、イルド───」


 彼女は、冠を被ったまま人名を呼びあげ始めた。それは先ほど彼女に暴言を浴びせた議員の名だった。彼らは議会の最前に横一列になって並べられる。その数、三十六名。


「き、貴様、まさか……!!」

「そう、そのまさかだよ? 命乞いなんて情けないことはやめて欲しいな、騎士なんだろ?」

「ぐっ……」


 彼女は剣をゆっくりと鞘から抜いた。


「一斉に処刑するというのも悪くはないがね。逆臣をこの手で一人ずつ、自らの手で清めていく方が残った君たちにとっても……分かりやすいだろ?」


 先ほどまで拘束されていた議員たちは席に戻っている。しかし、誰一人として抵抗するものはいなかった。新たな皇帝への恐怖心によって、反抗心が生まれないのだ。そして、彼らは目の前でマーガレットが示す新たな帝国の理を、目の当たりにすることになる。


「さようなら」


 彼女はそう言って、一人目の首を切り落とした。ぼとっ……と、鈍い音が響く。首が転がっていくのと同時に、切断面から赤黒い血液が噴き出す。残された胴体は力なく前方に倒れ、目に光の無い顔と共に血だまりの中に沈んでいった。


「失敗したね。最期に皇帝の顔を拝んでから死なせてあげようかと思ったけど、これじゃ首の後ろからでしか斬れないみたいだ。残念だね」

「外道が……」

「死人に口なし」


 二人目も、斬首する。そして、流れ作業のように三人目、四人目……次々と首を刎ねていく。一太刀振るうことに命が容易く失われていく。


「い、いやだあああああああああ!! し、死にたくないッ!!!」

「喚くなよ、騎士だろ? あぁ。元、か」


五人目、六人目、七人目、八人目……。


「皇帝陛下、万歳!!」

「皇帝は私だよ、逆臣が」


十三人目、十四人目、十五人目、十六人目……。


「待て……家族が、家族が待っているんだ!!」

「大丈夫、逆臣は一族郎党皆殺しだから。後でみんなの家族も送ってあげるよ」


 次々と、殺していく。一切の躊躇なく、表情一つ変えることなく、殺していく。刃に滴る血を時折振り払いながら、全く変わらないペースで、寸分の誤りもなく、首を切り落として殺していく。


「貴様は必ず報いを受けることになる……!!」

「そうかな? でも残念ながら、その報いを与えるのは君ではないようだね」


三十二人目、三十三人目、三十四人目、三十五人目……。遂に、処刑されていない人間は一人しか残されていなかった。最後に残ったのは、最初に彼女を怒鳴った男───ランドバルだった。


「いやぁ、素晴らしいね。お父様のくれた剣は……。これだけの首を斬り落としても、まだ刃こぼれ一つしてない」

「フンッ……貴様の太刀筋が見事だから、だろ」

「どうしたんだい? 私をおだてれば助けてもらえるとでも思ったのかい?」


 彼女は血が滴る刀をランドバルの首筋に宛がい、嘲笑する。


「ロンドベルの娘……あのクソみたいな商人の養子とはいえ、その剣の腕だけは見込んでいたが……とんだ見込み違いだったようだ」

「太刀筋が見事と言ったのは君の方だろ?」

「剣というのはな、ただ振って、敵を斬り落とせばいいというものではないのだ、愚か者よ。結局力に頼るしか無かった弱い貴様には、今後必ず、斬れない物が出てくるだろう、何か分かるか?」

「世迷言だね。まぁ、どうせ君が最後なんだ。最期の言葉くらい聞いてやろうじゃないか」

「やはり、分からんか。それはな……人の絆、だ」


 彼の言葉を聞いて、マーガレットは高らかに笑った。それは別に面白かったからではない、彼を愚弄し、冷笑するためだけの笑いだ。


「意外とつまらないことを言うんだね。歳を取ったらクサくなるのって、体臭だけじゃなくて言葉もなんだ、いやぁ、勉強になるよランドバル」

「今は分からんくて結構!! さっさと斬れ!! そして思い知れ!! 孤独では何も成し遂げられないということを!! 貴様に真の仲間など一人も居ないことを───」


 ランドバルの首が、血だまりに沈んだ。三十六人の血液が川のように流れ、底にはかつて貴族だった者の首が沈んでいる。その中の一つに、高貴な騎士であった彼も落ちて行ったのだ。


「これが私の記念すべき初公務か。いやぁ、疲れたなぁ」


 満足気に天井を見上げたマーガレットの元に、彼女の部下が駆け寄って来た。


「マーガレット様、役所を制圧し、布告の準備が整いました」

「報告ありがとう。では、そうだな……帝都はこれより、『帝都ロンドベル』とする。と伝えろ」

「マーガレットではなくて、よろしいのですか?」

「いや、絶対にロンドベルにしてくれ。頼んだぞ」

「はっ!!」


 マーガレットは彼女の部下が走り去るのを見送ると、白銀の刀に滴る赤黒い液体を純白のハンカチで拭きとって、鞘に納めた。


「お父様……私、やりました」


 そう呟いて、彼女はその場を後にした。今日のクーデターが、虐殺事件が、二国の独立が、何をもたらすのかも知らずに。

ぶっちゃけ小説的ストーリーよりもこういう話考えて書く方が楽しくて好きなんだよな

HoI4、EU5とかでプレイしながら脳内で架空歴史作ってワチャワチャするタイプですよ、私は

あと普通にエロとかグロの方がね、好き(最低)

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