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姉妹

「五……四……三……二……一……ここだッ!!」


 閃光が走る。銃弾が掠める。その繰り返しを十回ほど繰り返し、遂に狙撃手の姿を視認する距離まで近づいた。目測で一キロ、マズルフラッシュの発生から着弾まで一秒未満、どういう原理かほぼ等速で弾丸は滑空しているらしく、デタラメではあっても音の速度までには達していないようだった。


 少女の赤い髪が見えるとはいえ、さすがに俺の視力でも引き金までは見えない。ここからは直進せずに、ジグザグとした動きで前に詰めていく必要がある。遮蔽物も無い平野で効果は薄いが、やらないよりは幾分かマシだ。


「三……二……一……!!」


 ぱしゅんっ、と、空気を劈く乾いた音が耳元を通り過ぎて行く。あらゆるパターンを交えながら回避行動をしているつもりだったが、間違いなく照準を修正している。俺の頭部に狙いが定められている。明らかに、俺のジグザグ移動は無効化されている。考えうる可能性は───。


「方向転換の隙を狙っているのか……!?」


 今銃弾が当たらなかったのは、ステップに緩急を付けたからに他ならない。僅かに速度を上げた分、銃弾は後方を掠めていったのだ。


「残り六百メートル、ここから直進しても……くっ、間に合わないッ!!」


 その時、背後に気配を感じた。


「ジュンキ、援護するわ!!」

「シルト、どうして来てるんだ!!」

「私も居ます……!!」

「リーカまで!?」

「騙したみたいになっちゃって、ごめんなさい!! でも……ジュンキさんを一人で行かせるなんて私にできる訳ないじゃないですか!!」


 銃弾を避けることに必死になって気付かなかったが、シルトとリーカの二人は俺の後を付いて来たらしい。ミザリーの姿が見えないことから察するに、俺の言うことを聞いて隠れているのは彼女だけのようだった。


「狙ってるのはあんただけなのよね?」

「そうとは限らないだろ!! 危険に変わりない!!」

「大丈夫です、ジュンキさん!! あの光が見えたら……えいっ!!」


 リーカは銃声と同時に大剣をフルスイングし、銃弾を撃ち返した。


「ナイスホームランだ!!」

「……?? ありがとうございます!!」


 俺たちは急いで狙撃手の元に向かった。しかし、銃撃はその間一度も行われなかった。彼女の元に辿り着くと、やはりその顔はシルトと瓜二つだった。違いがあるとすれば、その髪がショートカットなくらいだろうか。


 そして、よく見ると彼女の手元にあったはずの異形の銃は姿形も無く消えていた。リーカの大剣と同じような仕組みなのだろう。彼女はシルトを見ると、呆然とした顔でポツンと呟いた。


「やっぱり……お姉ちゃんなの?」

「私は【大地】のシルト、お母さん───エアスから受け継いだ【ケガレ】を持つグランペよ」

「シルト、お姉ちゃん……私は、エアス……お母さんから、名前を受け継いで、エアスって名前なの」


 力を受け継いだ姉と、名を受け継いだ妹、同じ日に同じ腹から産まれた姉妹は容姿だけでなく、二人で母親の持っているものを分け合うようにして受け継いでいた。初対面の二人だったが、その心は間違いなく深い所で繋がっているように見えた。


「ここからは姉妹水要らずの時間だな。襲撃の目的とかは後で聞こう」

「ちょ、ちょっと待ってくれッ!!」


 息を切らしてミザリーが現れる。距離があったとは言え、グランペにしては体力がないように思えた。


「どうしたんだ?」

「こっちに、帝国騎士団が向かっているみたいだ。数は、三騎……ボ、ボクはどうすればいい?」


 エアスは狼狽した様子で、その報告を聞いていた。


「嘘……任務に失敗しただけで、処分なんて……いや、そもそもこんなに早くに任務失敗が伝わることなんてありえない……!!」

「エアス、俺に任せろ。いざという時はリーカも君の姉ちゃんだった居るんだ。……それに、多分だが、君が思っていることとは別件で彼らは動いているんじゃないか、と俺は予想している」

「別件……?」

「手短でいい。なんで俺を狙ったのか教えてくれ」

「私は皇帝陛下直属部隊、通称【暗部】の一員……皇帝陛下からの命令であなたを消すように言われた。でも、理由までは知らない。そんなこと、教えてもらえないから……ごめんなさい」

「いや、ありがとう。しかし、皇帝……何故俺の命を狙う?」


 思慮の時間は無かった。シルトの声で目の前の世界に引き戻されたからだ。


「ジュンキ、騎士連中がもう来たわ!!」


 三人の重騎兵が、馬を止めた。全身を甲冑に包み、背丈の二倍ほどの大きさの槍は扱う者の身体の強さと技量の高さを象徴していた。その内一人が馬から降り、鋼鉄の兜を外した。彼は髭面の中年男性だったが、目の奥の光は強く、精悍な印象さえ持たされた。


 男は持っていた槍を地面に突き刺し、両手を上げて手に何も持っていないことをこちらに証明した。


「そう警戒しさんな。俺らに危害を加える意図はない。俺はアルベルト、君はエアスちゃん……それと、皇帝陛下から暗殺依頼されてたジュンキくん、それにヴェストミノのグランペの子と、行方不明扱いのリーカちゃん……あれ、エアスちゃんが二人居る、おかしいな……」

「シルトよ、アイディーナの」

「あぁ、あの逃げたって……まぁいい。別に俺は君たちを捕まえに来たわけじゃないんだ。勿論、戦うために来たわけでもないよ?」


 飄々とした態度で不器用に笑う男の姿に、未だ警戒を解けずにいた。確かに殺意や敵意は感じないが、底知れない実力を彼は隠し持っているように感じた。


「では、何の目的があってここに来たんだ」

「エアスちゃんに勅令の取り消し、その報告をね」

「じゃ、じゃあ任務は失敗じゃないってこと……?」

「そうだよ。だって───皇帝ボスティモス・ソン・ヴェルオーモは二日前、崩御したからね」


 風が吹き抜ける音が、土を巻き上げた。静寂が支配し日が沈みゆく大地に非現実をもたらした。エアスは狼狽し、シルトは驚愕し、ミザリーは沈黙し、リーカは……。


「ほうぎょ、ってなんですか……?」


 何も分かっていないようだった。


 

書き溜めてるの、ここまで

明日からはやきうがある

はい(何がはいだ)

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