ヴェストミノの病巣
連日の疲れを取るため、ヴェストミノに身を潜めてから三日間だけ休息を取った。だが、メリヤンが仄めかしたように俺たちに次の行動を取る時間が残されていないとしたら、出来る限り早く行動する外ない。つまり、迅速に次のグランペと接触する必要があるのだ。
「シルト、この街のグランペの所在地に心当たりは?」
「私が知ってるわけないでしょ。少なくとも、街から離れた場所でしょうね」
「確かに、それはそうかもしれないが……」
リーカは湖に浮かぶ孤島で生活していた。シルトは彼女曰く、森の中で母が作った小屋で生活していたらしい。だが、商業ギルドで地図を貰っても、それらしき場所は見当たらなかった。だが、必ず人里離れた場所にグランペは潜んでいるはずだ。
「そういえばさっき少しだけ街中の様子を見てきたんですが、皆さん風邪引いてるみたいで、苦しそうにごほごほしてました」
「伝染病か……。できる限りこの街を離れた方が良さそうだな」
「そういえば、街の人みんなマスク付けてたわね。……これ、顔隠すのに使えるんじゃない?」
マスク、恐らく覆面のことではなく、感染症対策に着用するもののことだろう。まさかこの世界にそんなものがあるとは思わなかったが、そんなものがあるならお尋ね者でも簡単には捕まることはあるまい。
「確かにそうだな。マスクを付けて街中を散策しよう」
───意外な情報が手に入るかしれない、その一心で俺はマスクの着用に賛同した。だが、数十分後に姿を現したのはまるでペスト医師が付けていたような奇妙な仮面を被った変質者三人だった。
「なんだ、これは……」
「何って、マスクじゃない?」
「なんか新鮮で面白いです!!」
「待て、この街に来た時こんな物だれも着けていなかったはずだ」
確かに俺はあまり人と目が合わないように、出来る限り彼女たちの方だけを見て移動した。だが、それでもこれだけ目立つ格好をした人間とすれ違っていれば気付かないはずもない。
「流行り病が出始めたのは私たちがやってきてからみたいね。私たちがなんか悪い病気でも持ってきちゃったのかも」
「そんな……ど、どうすれば」
「落ち着け、君たちが原因なら俺も病気にならないとおかしいだろ。……だが、妙だな」
細菌にしろウイルスにしろ、感染してから発症するまでにある程度の潜伏期間が必要なはずだ。たった数日前までは活気に溢れていた街がここまで急速に病魔に冒されることがあるとは思えない。他に原因はあるはずだ。───例えば、毒のようなものとか。
「シルト、確認するがどの街にも水道はあるんだよな?」
「当たり前じゃない。それがどうかしたの?」
コンスティナ帝国では飲用可能な水道水が整備されている。ということは、この街の住民も水道の水を身体に取り込んでいるはずだ。
「水道の仕組みは分かるか?」
「川の水が貯水槽に送られて、そこから分配されて、僅かな勾配を活かして各地の水汲み場に送られるんでしょ。本で読んだわ」
「シルトさんなんでも知ってて凄いです!」
「……あぁ、そうだな」
俺の想像通りなら、この街には古代の大都市のような原始的な作りの上水道が整備されているはずだ。その都市では水道管に鉛を使った影響で鉛中毒者を多く生み出したともされているが、仮に俺たちがこの街に来てから水道管を通じ、何か毒性の高い物質を、誰かが意図的に流しているとしたら……。
「水道管を辿れば病気の発生元が分かるかもしれない。とりあえず水汲み場に向かおう」
俺たちは奇天烈な仮面を付けたまま、隠れ家を飛び出した。
今日はドラゴンズ勝てますように




