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リーカの生活拠点へ

 リーカの家は思いの外広かった。とはいってもさすがに現代の一般家庭のような広さも無く、横に四人ほど寝転がることができるほどの広さの部屋があるだけの質素なものだった。屋根も付いており雨風を凌ぐことも十分可能だろう。意外と生活水準は低くないのかもしれない。


 それと、もう一つ判明した事実がある。この一帯に集落は存在しない。より正確に言うと、ここはリーカしか住んでいない、実質的な「無人島」───そう、島なのだ。ここから別の場所に行くにしても、舟が必要になる。体力さえ気にしなければ泳ぐことも可能だろうが、見知らぬ世界で不必要な体力の消耗は避けたい。


 移動手段はリーカが持っているはずだ。彼女は誰かを処刑するたびに街に渡る必要があり、しかも対岸まで2km程ある。俺は多少水の流れが強くても泳ぎ切る自信はあるが、彼女にそこまでの身体能力があるとは思えない。常人なら溺れてあの世行きだろう。


 思考を巡らせていると、外から良い匂いが漂ってくる。食欲をそそる匂いだ。どうやらリーカの料理が完成したらしい。


「お待たせしました。ジュンキさん」

「ありがとう、リーカ……それは、スープか……?」


 リーカが持ってきた食器には、海産物を中心とした汁物が入っていた。それはまるで……というより、俺の母国の料理───味噌汁そのものだったのだ。


「これですか? 味噌汁です」

「味噌汁……!?」


 まさか、異世界に来てまで味噌汁とは考えていなかった。いや……これはあのクソッタレ創造主が余程の日本被れか、或いはファンタジーモノへの解像度が低いのか……ともかく、食文化の面で苦労することはあまりなさそうで良かった。それよりも───


「汁、ということは……水には余裕があるんだな。海に囲まれてる以上真水の確保は難しそうだが」

「はい。さすがにこの島に水道は通ってないですけど、あちら側に渡るたびに支給品で一か月分の水を貰います。使いきれてないので、余りは料理に使っちゃってます♪」

「水道……!?」


 驚いた。水道が整備されているということはこの世界の文明はかなり発達しているのかもしれない。一方で、文明が発達するだけの「積み重ね」───つまり、歴史もそれだけ深いはずだ。その分だけ軋轢や対立が多く産まれていると考えた方が良いだろう。


 まだこの世界の現状を推測するほどの情報はない。ここは大人しくリーカの作ってくれた味噌汁を飲んで明日に備えるとしよう。


「美味いな……!!」

「……!? やったっ、ありがとうございます!!」

「食材はこの島で獲ったのか?」

「はい、街に行けばもっと色んな食べ物を売る店がありますが……食材となるとギルドに加入できないグランペは、良質な食材は手に入らないか良くても割増料金を取られてしまいますから」

「なるほど、ギルドか……」


 ギルドと言えば同職業の組合を思い浮かべるが、ヴェリオッタはこの世界を創造するのにファンタジー作品を参考にしているらしい。恐らくだが冒険者ギルドのような比較的登録が簡単なギルドもあるかもしれない。


「身分の証明はどうやるんだ? リーカがグランペだって分からないこともあるんじゃないのか?」

「ギルド加盟者のことは分かりませんが、グランペは定められた服装があります。必ず一枚の布だけを身に付け、装飾品なども認められないと言われています」

「布……服を着るのもダメなのか」

「下着も付けていません」

「し、下着も……」


 その言葉を聞いて、さすがに動揺する。これだけ近い距離で話している少女が、たった一枚の布しか羽織っていない。それはまるで裸のようだと思ったが、年の離れた少女に邪な考えを持つ訳にはいかない。想像を働かせないように努力をする。


「そういえば……リーカの年齢を聞いていなかったな」

「26歳です」

「……ん?」


 聞き間違えでなければ、彼女は今16歳ではなく、26歳と言ったようだった。……或いは、この世界の年齢の数え方自体俺の認識とずれている可能性もあるか、一年が180日ほどであれば彼女の年齢も見た目通りと言ったところだが───。


「悪い、一年って何日間だっけか」

「365日……でしたっけ。たまにうるう年? というのもあるらしいです」

「……まじか」


 つまり、彼女の年齢は実際に26歳……俺より少しだけ年上ということになるのか。しかもこの世界では太陽暦が採用されているようだ。ある程度高度な天文学の知識が世間一般に浸透しているのかもしれない。


 何となく異世界と聞いて中世ヨーロッパのような世界を想定していたが、実際にこの目で調査するまで文化や技術の水準は分からないようだ。


「なぁ、街に行ってみたいんだが……一緒に来てもらって大丈夫か?」

「送るまでは大丈夫なんですが……グランペと関わったことがバレてしまうと、ジュンキさんも……」


 被差別階級に触れた者を同じく差別する、よくある話だ。俺自身としては別に差別されようが気にすることはないが、今後の目的のために重大なリスクの一つとなるだろう。


「難しいか……そういえばこの島から街に行き来する手段はなんだ?」

「一応舟もありますが……ジュンキさんが一人で漕ぐのは難しいかもしれません。水の流れに特徴があって、転覆しちゃうかもしれません」

「しばらく街に滞在したい。明日舟を出せるか」

「……行ってしまうのですか」


 リーカが寂しそうな表情を浮かべる。たった半日程度の付き合いだが、やはりこの島で一人暮らすことは孤独なのだろう。


「そんな顔をするな、必ず戻って来る。またリーカに助けを求めることになるからな。……そうだな、月が満ちた頃にまた俺を迎いに来てくれないか?」

「も、もちろん!! 絶対に行きますっ!!」


 次の満月まではあと二週間ほどだろう。それまでにこの街を徹底的に調べ上げ、そして……リーカを街に連れていけるように、「小細工」の用意をしなければならない。理由は分からないが……彼女の存在が、これからの俺の旅路で最も重要な役割を果たすような予感がしていた。

書き溜めはもうないので、以降は間隔開けながら

頑張ります

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