打ち解ける
俺たちはシルトから、彼女の母親のことと、彼女自身の過去について聞かされた。舌を胃酸が刺激するほどの重苦しい空間の中で、苛立つ感情を必死に抑え込んだ。一先ず、彼女の話で明らかになった事実を反芻し、情報を整理する必要があった。
シルトの母親エアスは、彼女と同じく【大地】の力を使ってこの街を建設していたらしい。彼女は母の仕事を引き継ぎ、この街の建設に協力したようだが───なるほど、あの港町に建っていた文明水準に釣り合わない巨塔と水上都市は人知を超えた力で作られていたということか。しかし、グランペの能力は底が見えないものだと感心した。
そして、もう一つ重要な情報があるとすれば、彼女の母親の命を奪ったのはリーカだったらしいということだろうか。今まで俺がリーカから聞いていた情報を統合すると、リーカは何らかの事情で排除しなければならないグランペを処刑し、人間の一生では使いきれないほどの報奨金を受け取っている。
これだけの情報を集めてもなお、まだ帝国がグランペを冷遇する理由を掴みきれなかった。ただ冷遇するだけならリーカに多額の報奨金を払うというコストを費やす意味が分からないし、余剰のグランペを徹底的に「間引く」ことに妥当性があるのか、甚だ疑問だった。しかし、それ以上に───。
「どこまでも腐ってるな、この世界は……」
俺の怒りは、我慢の限界を迎えようとしていた。全身の毛が逆立ち、血管が皮膚の表面に浮き出て、身体が武者震いを始める。頭が真っ白に染まっていく中で、リーカの優しい声だけが響いて現実に引き戻される。
「大丈夫です、ジュンキさん」
「あ、あぁ……」
彼女は俺の手を握って真っ直ぐな目で見つめてきた。一体何に対して、何が大丈夫なのかとか、そんなことは全く気にならないほど心が安らいでいった。
「あんたたち……もう私の存在を忘れたの?」
「あっ、ごめん……」
そもそもの発端はシルトの話からであるはずなのに、当の本人のことを忘れて二人だけで盛り上がってしまっていたようだ。申し訳なく彼女の方を見ると、何故かもじもじと身体を揺すって顔を赤らめて目線を逸らした。
「……どうしたんだ? トイレに行きたいなら俺は離れるが」
「違うわよっ……!! そうじゃなくて、その……私が話したんだから、そっちの話も聞かせなさい!!」
「俺はリーカと一緒に、共に立ち上がってくれるグランぺの仲間を探して───」
「そ、そうじゃなくて……あんたたちは、どこまで……どこまで、その……進んだの!?」
「……??」
シルトの様子はなんというか、しどろもどろとしており、意味が全く分からない。あれほどの大怪我を負った影響か、今更疲労のピークが来たのかもしれない。
「シルト、今日は休め。怪我の影響で混乱してるんだろ?」
「違う……!! 怪我なんて、眠ってる間に半分くらいは治ってるわ!! そうじゃなくて……二人は恋人同士なんでしょ!!」
「は……?」
急に何を言い出すんだ。この子は……。俺は開いた口が塞がらなくなる。全く持って信じられなかった。確かにリーカは実年齢こそ大人ではあるが、体格差からして大人と子供だ。恋人どころか、恋愛感情自体持つことなどありえない。……多分。
「こいびと、ってなんですか?」
リーカはぽかんとした顔でこちらに訊ねてくる。
「……こっちはこっちで、困ったものだな」
「リーカ、ちょっとこっち、耳貸しなさい」
シルトはリーカに何やら耳打ちをしている。なんとなく内容は想像に難くないが、俺の優れた聴覚が捉えた会話の端々から察するに、彼女は余程俺たちの関係を誤解しているらしい。それに、何より彼女の語る言葉は、どことなく現実離れしたロマンティスト的なもののようだった。恐らくは彼女の母が持ってきた本による知識によるものなのだろう。
「……と、いうことなの。分かった?」
「す、すごいです……!! シルトさんはすごいです!!」
「……で、その。キ、キスはしたの?」
「唇をくっつけるやつですよね!! したことはないですが……それって、どういう意味があるんですか?」
「好きな人同士でする愛情表現ね。想像してみて……ジュンキがあんたに口づけするところを」
「む、胸のあたりがきゅーっとして……ちょっと苦しいけど、楽しいです……!!」
「……やっぱり!! リーカ、それはね……」
「ちょっといいか───」
話が盛り上がっているところ申し訳ないが、二人の会話を遮る。無論、先ほどまで敵対関係を匂わせていたシルトとリーカが打ち解けているのは好ましい状況にあると言えた。しかしながら、彼女に変なことを吹き込まれて今後の旅に悪影響があると困る。それに───。
「コイバナは普通、本人不在の場所でやるものだろ……」
「そ、そうなの……?」
リーカが常識知らずなのは織り込み済みだ。彼女は孤島で誰とも会話していないし、字も分からない。だが、シルトもシルトで母親以外と交流を持ったことはなく、本で得た知識だけを常識として取り入れているらしい。
「シルト、君は恋愛小説とか、その類の本を読み込んできたんだろう。だとしたら多分……それは小説の読み過ぎだ」
「なんですって!?」
「リーカ、いいか? 俺に対して特別な感情があるとしても、それは単純接触効果、ってやつだ。君は俺以外の人間と関わったことが無いから俺のことを好きなだけで、言ってしまえば……勘違い、ってところだな」
「そう、なんですか……?」
二人の反応は対照的だった。シルトは驚嘆の顔でこちらを見ている一方、リーカは落胆するように俯いていた。……リーカには悪いが、男女間のトラブルの原因は恋愛感情に起因することが多い。ここで俺たちの関係をきっぱりと決めておいた方が後々自らの身を助けることになる。
「……ジュンキの方は、どうなの?」
「……ん?」
シルトは唐突に、俺に問いかける。……嫌な予感しかしない。
「ジュンキは、リーカのことをどう思ってるの? 好き? 嫌い?」
「そ、そうです!! 教えてください、ジュンキさんは私のこと好きなんですか!?」
「ま、待て。俺は……」
「逃げるな!!」
「逃げないでください!!」
二人の声が、同時に俺に襲い掛かった。これは……困った展開になった。仮に答えなかったとしてもシルトからの信用を失い、「友達として好き」と逃げた日には、リーカからも見放されそうな気がする。そもそも……俺自身がリーカへの感情を処理できていない。嘘偽りなく答える前に、答えを持ち合わせていない。
「俺は───」
パキッ
突如、物音が立った。俺たち三人の物ではない、何者かによって発生した音だ。それは小枝が折れる音だったが、耳を澄ますと足音のように聞こえた。考えられるのは野生生物か、追っ手だ。しかし、野営前に周囲を確認した時、野生生物の痕跡を確認できなかった。十中八九、これは人間───つまり、追っ手ということになるのだろう。
「……待て。リーカ、シルトをいつでも守れるように警戒しておけ」
「……はい」
息を潜めて、ゆっくりと足音の方に歩みを進めた。
最近昂弥の身体のキレが良くて、守備でも打撃でも結果残してくれてかなり嬉しいです
怪我の影響もあって思い描いた成長曲線ではなかったけど、今年は試合勘が付いてきてちゃんとプロ野球選手って感じの雰囲気出してて、カッコよくなったんじゃないですか?
なんだか表情も精悍になって、前みたいなちょっと笑い顔?みたいな子供っぽい顔じゃなくなったのもそう思わせる要因なのかな、と思います
実は去年のファーム優勝キャンペーンで当選したサイン色紙が鵜飼外野手の物だったんで、鵜飼が活躍するのもかなり嬉しかったりします
櫻井君のプロ初勝利もめでたいし、橋本が帰って来たのも嬉しい
交流戦で順位一つでも上げれたらいいなぁ
(英智の解説、毎回面白いんだけどずっと様子おかしいの何?)




