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母親

───グランペに父親は居ない。それは決して母親が単為生殖で子供を産んでいるからではない、特定の、誰の子供か分からないだけである。そして、彼女たちは、決して男児を産むことがない。グランペの子供は必ずグランペとしての能力を獲得し、次の世代のために「グランペを産む」母親となるのだ。


 グランペに婚姻は適用されない。子供を持つことも許されない。だが、グランペに欠員が出たと判断された場合、欠員を補充する必要がある。そこで行われるのが「儀式」だ。対象に選ばれた者は抵抗できないように四肢を拘束され、「生殖に適した姿勢」のまま固定され、四六時中貴族や商人たちの慰み者として過ごすこととなる。儀式は受胎が確認されるまで継続的に行われる。


 当然、彼女たちに拒否権などない。相手によっては性行為を強制されるだけでなく、妊娠に必要ないような嗜虐的で残虐な行為も甘んじて受け入れなければならなかった。痛みも快楽も屈辱も、ありとあらゆる感情を表に出すことを禁じられ、ただその下腹部に凌辱の成果が表れるのを待つことだけを許可されているのだ。


 シルトの母親エアスもまた、グランペだった。通常の生物より遥かに長い寿命を持つ彼女は、百年にも及ぶ人生の中で初めて、「儀式」の対象に選ばれた。「人間」とは違い、彼女たちにとっての「妊娠適齢期」はかなり遅れてやってくるのだ。


 エアスは凄惨な暴力的行為の末、身籠った。しかし、赤子で腹が膨れ始めてなお彼女に対する凌辱は留まることを知らなかった。彼女の麗しい顔立ちや時折漏らすくぐもった美しい声に惹かれた彼らは、グランペの母子が頑丈で死亡しないことをいいことに、都合の良い「玩具」としてその肢体を貪りつくした。


 汚物だけを身に纏い悪臭の檻の中で凍える中、遂にその時が来た。破水である。なお、グランペに助産師は居ない。待っていれば勝手に子供が生まれてくると判断されているからだ。出産のときでさえ孤独であるのが彼女たちの運命なのだ。


 しかし、エアスの出産に限っていえば、間違いなく難航していた。思えば常に強烈な悪阻に蝕まれ続けていた時点で異常を察知するべきだったのかもしれないが、彼女にとって子供を産むのは初めてのことであり……気付かないのも当然のことだった。


 今まで散々ありとあらゆる苦痛を与えられて慣れ切っていた彼女が、あまりの痛みに顔を歪める。ギリギリと歯軋りを立て、顎が砕けそうなほどに奥歯を嚙みしめた。どれだけいきんでも赤子が出てくる気配はなく。より一層強くなる痛みに身を捩って苦痛のうめき声を上げ続けた。


───産気づいてから十時間、ようやく股の間から赤子の顔が姿を見せた。元気よく泣き声を上げる彼女の姿を見て、エアスはほっと息を付こうとした。……だが、まだ下腹部に違和感があった。赤子は一人だけではなく───双子だったのである。


 二人目の子供をあっさりと産み落としたエアスは、焦燥した。そう、グランペは「欠員」が居ない以上、子供を産んではいけないのだ。子供が二人産まれたということはそのどちらかを処分する必要がある。───つまり、殺すということだ。


 赤子とはいえ、グランペは簡単に死ぬことはない。【断罪】の【ケガレ】を用いて魂を断ち切るか、或いは肉体を修復不可能なまで破壊する他ない。恐らく、彼女の子供は後者の方法で処分されるだろう。そして彼女たちは、簡単に死ぬことができない分、より最期の瞬間まで苦しみを感じながら息絶えることになるのだ。目の前の小さい命を、そんな目に遭わせるわけにはいかなかった。


 そこでエアスが取った行動は、脱出であった。幸い、監視の目はなかった。彼女が身重だったのに加え、強い寒気の影響で衛兵が早めに業務を切り上げたのである。彼女は限られた体力を振り絞り、壁を破壊した。


 急いで現場から離れて、人目のつかない場所を探す。辿り着いたのは森林地帯だった。


「積み重なれ。汝の育んだ大地を切り開き、涵養の先にあるものを掴み取れ。……顕現せよ、我に力を与えたまえ」


 エアスはそう唱えると、そこにはなんと小屋があった。【大地】の【ケガレ】は材料さえ近くにあれば建材や建築物に変えることができるのだ。寒さを凌ぐには十分過ぎるほどの立派な丸太小屋に、彼女は片方の赤ん坊を安置した。


 その赤ん坊は、きっと飢えに苦しむことになるだろう。だが、グランペである以上簡単には死なない。数週間に一度でも目を盗んで母乳を与えれば健康な子供に育つだろう。これでもかというほどの初乳も与えた。きっと大丈夫だと彼女は自身に言い聞かせた。


 彼女は囚われていた檻の中に戻った。自身が【ケガレ】で作った巨塔───中央塔の一角に置かれた、独房だった。開けた穴は【ケガレ】で埋め直し、数日後戻って来た監視に出産を報告した。たった一人の娘を抱いて。

まだ投稿せずストックせずに書いてる作品で結構エグめの描写多いのでちょっと、残酷な描写が意図せず増えてしまった。悪い癖だ


セリフ入れちゃうと生々しいしR-15とか18の作品になっちゃうので、少な目で


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