闘争・逃走・奔走
「───全部、私に教えてくれても……いいじゃないですか……」
消えるような声で呟いたリーカに、俺は何も答えられずにいた。すると、静まり返った空間の中で、呻き苦しむような声が聞こえた。……シルトの声だ。俺は逃げるように、彼女の方へと向かった。
「……すまないがリーカ、今はシルトを安全な場所に運んでやらないと……」
「……はい」
重傷のシルトを担いで、階段を下っていく。道中で、リーカは「待ってますから」とまるで独り言のように呟いた。それに対し、俺は何も答えられなかった。「あのこと」を他者に話すには、まだ……自分の心の整理が付いていないからだ。だが、必ずいつか彼女に俺自身の「真実」を伝えることになる、そんな予感がした。
───長い階段を下りきって遂に塔から脱出することに成功したが、困ったことに全くのノープランでシルトを助けに来てしまったので、どこに向けばいいか分からない。街中には当然戻れないだろうし、街の外に出たとしてもこんな身体の彼女に大きな負担をかけることになる。
「確か、西側に森林があったような気がするな……」
俺は高台から見たこの街の景色を思い出していた。港街は山々に囲まれ、東に向かって形作られている。当然街の西側も山岳地帯となっているのだが、見た限りそこまで標高は高くなく、さらに手付かずの森林が残されていたはずだ。
「あの森林地帯は身を潜めるにも適している。山道も整備されていような経路で怪我人を背負っていくのに不安が無い訳じゃないが……」
「私が先導します。足元が危なそうな時とか、ジュンキさんに教えながら進みます!!」
「助かるよ、リーカ」
背中に一人の少女を背負っているので彼女の頭を撫でることは叶わなかったが、その精悍な目つきを見てあまり子ども扱いするのもよくないと感じた。……そもそも彼女が年上の女性ということを今更ながらに思い出しもした。
「よし、これから城門を強行突破して俺たちは森へ向かう。リーカ、援護を頼む」
「……はいっ!!」
俺たちは城門に向かって、駆け出した。城壁には多数の兵士が配置されており、彼らは一列に並んでクロスボウをこちらに向けていた。当然、それら全てに矢が装填されている。
「できる限り多くの弾を弾き落としてくれ!! 矢の先に毒や不衛生物が塗られてる可能性もあるから絶対に身体では受け止めるなよ!!」
「大丈夫です、全部落とします!!」
「敵影視認!! 目標は【浄化刑】から【大地のシルト】を連れ出した男、それに……なんだあのデカすぎる剣は!?」
「脱走グランペか? クソっ……気を付けろ、奴らはこの位の城壁簡単に上がって来るぞ。一度ぴょんと跳ねればその瞬間に俺たちの首は撥ねられてあの世行きだろうよ。先にアイツを狙う。……いいか、できるだけ引き付けて撃つんだ。───3……2……1……今ッ!!!」
一斉に矢が放たれる。相当な弓力を持つクロスボウらしく、とてつもない速度で一直線に、同一の目標目掛けて向かってくる。目標物は、俺やシルトではなく───。
「リーカ!!!」
「問題ありません!!」
ブォオオオオオオン!!!
まるで唸りを上げ波濤に打ち付ける高波の如く、全てをかき消すような衝撃音が発生する。刹那、あれほど直進性を持った矢の全てはその推力を失い地に転がっていった。
「な、なんだあの音は!? 何が起こったんだ……!?」
「怯むな、次弾装填急げ!!」
突如発生した謎の現象に、城壁に居る兵士たちは恐慌状態に陥り、攻撃の手を緩めてしまった。だが、俺には彼女が何をしたのかはっきりと見えていた。
「まさか、音を越える速度であの大剣を振り回して、衝撃波を起こしたのか……!!」
グランペが通常の人間と身体能力が異なることは聞いていたが、リーカのそれは今の俺でも到達できないほどだった。
「お前ら、早くしないと……なっ!?」
「なんでもう、こんなところに……!?」
「ごめんなさい……眠ってください!!」
リーカはその大剣で城壁の人間を薙ぎ払い、次々と地面に落としていく。……人の命は切れないとは言っていたが、自然落下で命を落とすかもしれないな。
「攻撃はもう無さそうだな。リーカ、引き続き護衛頼む!!」
俺たちは周りを警戒しつつ、森林の中に入った。それから丸一日歩き続け、野営の準備を始めた時のことだった。
「うぐっ……」
「……!? ジュンキさん、シルトさんが!!」
「意識を取り戻したか? 酷い傷だから安静にするように言っとけ」
目を覚ましたシルトは、リーカを見るなり大声を張り上げた。
「あんた……【断罪のリーカ】……!? あんたなんかに、助けられたって……!? いぎっ……!!」
「ま、待ってくださいシルトさん!!」
彼女は身体を引きずりながら、この場を立ち去ろうとする。しかし、足の爪はすべて剥がされ、ところどころ関節があらぬ方向に曲げられたその状態で立つことすらままならず、 簡単にリーカに取り押さえられてしまう。
「離せ……ッ!!」
「待て、シルト……君の過去に何があったか知らない。だが今は俺もリーカも、お前の味方だ。……それに、浄化刑とやらをほっぽり出して連れ出したんだ。もう退路は絶たれてると思え」
「な、なんて勝手な奴……!!」
全く持ってその通りなので、思わず笑ってしまう。
「ハハッ、そうだな。勝手な奴だよ、俺は」
「……むぅ。ジュンキさんの笑ってるところ、初めて見ました……」
何故かふくれっ面のリーカは置いておいて、確かにこの世界に来てから笑っていられる余裕はなかったかもしれない。リーカにマーガレットと、少し個性的なキャラの友達が二人居るだけという薄い交友関係に加え、慣れない環境に多少ストレスを感じていたのかもしれない。
「いや、ごめん。直球で、しかもあまりにも図星なこと言われたからさ。……リーカも俺のこと口汚く罵ってくれてもいいんだぞ?」
「ジュ、ジュンキさんのあ、あほー!! いのちしらずー!! もっと自分をだいじにしろー!!」
「フッ、フハハハ……!!」
「あの……いいかしら。怪我人の真横でイチャイチャするのはやめなさい、ドMのロリコン男……」
シルトに飛び切り酷い言葉で叱られてしまった。余計な単語まで「自動翻訳」されていて、余分に落ち込んでしまいそうになる。……というのは冗談で、気持ちは既に「対話」の路線を進もうとしていた。
「シルト、やっぱり過去のことを聞くのは嫌だったりするか?」
「当然よ……」
「だが、俺たちは命を張って君を助けたわけだ。話してくれてもいいと思うんだが」
「勝手に助けておいて、頼んでも無いのに……」
シルトはそっぽを向く。語気に強さは感じられず、徐々に弱々しくなっていった。……おそらく彼女は、助けてもらったこと自体に恩義を感じていないわけではなく、所々に申し訳なさの感情を抱えているように思えた。つまり、もう一押しで彼女から話を引き出せるということだ。
「君は最初に俺たちを襲ったよな? しかも、明確に殺意を持って」
「あの時は……【断罪】の力で私も殺されるかもしれないと思ったから、正当防衛よ」
「いや、実際には、俺たちは君を助けるためにこの街に来たんだ。それなのに先制攻撃まで受けたわけだ」
「それは……謝るわ。ごめんなさい」
「欲しいのは謝罪じゃない。俺たちに何があったかを話して、しっかりと対話することだ」
彼女は呆れた顔で俺を見て、ため息を吐いた。
「あんた、本当に意地悪なのね」
「ジュンキさんは優しい人です!!」
「あっ、そ……」
彼女は呆れた顔でリーカを見て、ため息をついた。
「あんたらのバカさにはうんざりだわ。……とっとと話しちゃうから。勝手に聞いとけば?」
シルトは、遂に語り始めた。
馬券も中日も負けたけど、女性ジョッキーの初G1勝利がめでてえのでギリ心が救済されている
サブタイはラップではなく、ジョイマンです




