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断罪のリーカ

 先ほどまで別の理由で高鳴っていた心臓が、一気に戦闘モードの心拍数に整っていく。何故グランペがここに居て、どうやってここに来たのかは分からない。だが、この状況から鑑みるにこれは「襲撃」で間違いないだろう。


「【断罪のリーカ】……!! アイディーナに来たってことは、つまり、私のことを……えっ!?」


 グランペの少女は、俺を見るなり驚いた表情で後ずさりした。……そういえば、俺はリーカに抱き着かれたままだった。しかもいつの間にか、服もはだけさせられてるし……。


「ハ、ハレンチッ……!? あっ、あんたっ、お、男~ッ!! なにものなのっ!? ま、まさか彼女を手籠めにしたの!?」

「違う、落ち着け……!!」

「違う!? じゃ、じゃあ断罪のリーカが男を手籠めにしているのねっ!! 許せないっ……私は男の子と手も繋いだことないのに……まだ殺されたくないのにっ……!!」


 彼女はわなわなと震え、短刀を握りしめた。


「覚悟───ッ!!」


 そのままこちらに向かってくる。だが、リーカに抱きしめられているこの姿勢では、回避も防御も不可能だ。そんな中、リーカは俺の耳元で何かを唱えていた。


「───我の剣は、断罪の剣。穢れし罪人を祓う、贖罪の剣。……顕現せよ、我に力を与えたまえ……ッ!!」


───ギィンッ!!


 激しく散る火花と共に打ち鳴らされた金属の音は、まさしく剣戟によって引き起こされたものだった。


「一体、何が……」


 まず目に入ったのは。大剣だった。彼女の背丈より遥かに大きく、その体躯に見合わない───いや、仮に俺でも……見合わない。人類には扱えない代物だった。そんな大剣を、リーカは左手一本で構えていた。


「ジュンキさん、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……」


 状況が呑み込めないまま、差し出された右手を掴む。こちらも体勢を整えたところで、あちらも体勢を整え直したようだ。


「さすが断罪のリーカね。一筋縄では行かないとは思っていたけど……」

「待て、話をしよう。俺はジュンキ……君の名前は?」

「私の名前? シルトよ。……って、あんたのことはどうでもいいの!! そんなことより───」

「ジュンキさん、ちゃんと捕まっててくださいっ!!」

「えっ」


 リーカは大剣を握りしめたまま、空いた方の腕で俺を持ち上げて、割れた窓に向かって飛び込んだ。対峙していたグランペの少女は呆気に取られたようだったが、すぐさま後ろを追いかけてきた。


「待ちなさいっ!! ……チッ、せっかく狭い場所で仕留めれると思ったのに、こんな開けた場所じゃ……ううん、大丈夫、まだ私に地の利はある……ッ!!」


 シルトは、木の杭を投擲し、こちらに投げつけてくる。一方で、リーカは建物から建物へ、水路を飛び越えながらジグザグと移動しその攻撃を避けながら、陸へと進んでいく。華麗な身のこなしで、とても遠距離攻撃で仕留められそうにもない動きだった。しかし、俺には何故か、このまま逃げ切れないという予感があった。


「───積み重なれ。汝の育んだ大地を切り開き、涵養の先にあるものを掴み取れ。……顕現せよ、我に力を与えたまえッ!!」

「まずいリーカ、何か来る!! 構えろ!!」

「───ッ!?」


 何が起こるかは分からなかった。だが、何かが起こるということだけは予測できた。そして、それは───想像の範疇を遥かに超越していた。


「壁ッ……!?」


 俺たちの目の前にあったのは……いや、「現れた」のは一枚の「壁」だった。それも、ただ木の板一枚なんかではない。家などの建築物で見る分厚い壁そのものが目の前に立ちふさがったのだ。


「きゃっ!!??」

「うぐっ!!」


 リーカは俺が壁にぶつからないように、身体を捻って壁に衝突しにいった。強い衝撃と共に俺たちは落下していく。その拍子に、彼女は俺を落としてしまった。


「ジュンキさんッ!?」

「大丈夫だ、この高さなら……ッ!!」


 俺は屋根の上に着地した。……それにしても、リーカはどんな跳躍力をしているんだ。3m以上浮いていたぞ。突然現れた大剣と言い、急に謎が増えた。……が、今考えるべきは、生き残る術のようだ。


「失敗しちゃったわ。海に落とすように壁作った方が良かったのに……。でも、まだ負けてない……!!」

「待ってくれ、シルト……!! なんで俺たちの命を狙うんだ……!!」

「何を……ッ!? 私の命を狙ってるのは、そっちの方でしょう……【断罪のリーカ】、グランペ殺しのグランペ……!!」

「……ッ」


 リーカの表情が歪む。まるで言われて欲しくないことを言われた、というような反応だ。それにしても、さっきから【断罪のリーカ】だと呼ばれていたが……グランペ殺しとはどういう意味だ?


「……まぁいい。事情を聴くのは後だ。リーカ、ここからは俺も戦いに加わるぞ」

「ダメです……!! グランペ同士の戦いに、ジュンキさんを巻き込むわけには……!!」

「俺にも戦いの心得くらいあるさ。……心配するな」

「でも───」


 リーカが何か反論したようだが、俺は彼女が何かを口走るより早く、駆けた。


「はやっ……!?」


 シルトが驚きの表情を浮かべる刹那、首元に鋭く手刀を打ち込む……が、交わされた。


「避けるか。なるほど、素晴らしい反射神経・運動能力……グランペはみんなそうなのか?」

「あんた……普通の人間の動きじゃないわね。何者なの?」


 彼女の額には冷や汗が垂れていた。強がってはいるが、俺の一撃を見て多少恐れているようだった。


「何者、か。皮肉なものだな……何者にもなれなかった俺が、そう聞かれるとはな。……さっき言った通りだ。俺はジュンキだ。リーカと旅をしていて……俺たちは君の敵じゃない。本当だ、信じてくれ」

「……ッ!? 信じられるはずなんてない、だって、アイツは……!!」


 シルトはリーカに視線を移す。目線の先の彼女は、ただ俺を心配する表情を浮かべていた。


「な、なに……その表情。そんな顔……あんた、できたのね」

「……?」

「……はぁ、まぁいいわ。本当に敵対する気は無さそうだし……あんたら二人と戦ってもどうせ死ぬだけだしね、ここは引くとしましょう」

「ありがとう、シルト。……闇夜に紛れてるとはいえ、これだけ騒がしくしたらマズいからな」


 多くの人々が俺たちを見上げている。月明かりに照らされて、相当目立っていることだろう。幸いこの近くには商業ギルド会館があるため俺たちは匿ってもらえそうだったが、彼女はそうはいかないだろう。


「そうね。もう二度と会うことはないでしょうけど。さようなら、ジュンキ」

「また会おう、シルト」


 かくして、俺とリーカは商業ギルド内の【新世界】構成員に助けられ、何とか襲撃後も乗り切ったのだった。

前回の終わり方、なんか"F** open the door!!"ってミームでよく見るやつみたいじゃなかった?



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