一方その頃……(side:マーガレット)
マーガレット・ロンドベルはとある都市の商業ギルドの会館の椅子で足を組んでコーヒーに口を付けている。彼女の付き人である老執事は、コーヒーカップが机に置かれるまで待ってから報告を始めた。
「お嬢様、あの男がアイディーナに入りました」
「ジュンキは北へ向かったか。……最短のルートを通れば良かったのに、彼は慎重が過ぎるな。不必要な用心が災いを招くと分かっていながらの行動か、或いはあまりにも物を知らな過ぎたのか」
実は、港町アイディーナに行くには海路を使うのが最も早い方法だった。道が舗装されてない上に湿地帯を避ける必要がある以上陸路ではかなり行き辛く、後回しにすべき街だったのだ。
「まぁいい。彼はやはり、あの街のグランペ───『断罪のリーカ』を連れて歩いているのか」
「どうやらそのようです。全く信じられません。あのような者と共に行動する男を支援しろなどと……」
マーガレットは執事の発言を一笑に付した。
「いいのだ。彼は間違いなく私の計画の鍵になりえる」
「と、いいますと……」
「彼は私のことを高く評価し、信頼しているようだ。そして、彼の理想を実現するために、私を利用することにも抵抗が無さそうな性格をしている」
「利用されることを黙って見過ごすというのですか、お嬢様とあろうお方が……!!」
彼女は「落ち着け」と老執事をなだめる。
「私はジュンキに対し、『扱いやすい人間』を演じた。彼に利用されるのは計画通りだ。……彼もそのことに気付いているかもしれないが、彼は私を利用せざるを得ないだろう」
「ですから、何故……」
「まだ分からないのかい? ジュンキに利用されることで、私はジュンキを利用するのだよ。───近いうちに行われる次の【選帝会議】で、私が勝つためにね」
「選帝会議!? 何をおっしゃっているのですか、それはありえません!!」
選帝会議───皇帝が崩御してから数年掛かりで行われる「選挙」だ。コンスティナ帝国の一部の有力貴族が投票権を持ち、賛成多数で次の皇帝が選ばれる。
「ですが、選帝会議では過去二百年間、ヴェルオーモ大公家の人間から選ばれております。彼らの政治力にはロンドベル商会と言えど遥かに及びません。そもそも───」
「皇帝は『まだ』死んでいない。……だろ?」
「ま、まさか……ッ!?」
老執事は目を丸め、後ずさりをした。
「そう慌てるな。私とて焦って計画を台無しにしたくはない。全てはジュンキの行動次第、だな。───指令を送れ。『彼女』に『断罪のリーカ』が街に入ったことが伝わるように工作し、彼らを引き合わせるんだ」
「……分かりました。お嬢様」
老執事はその命令に何も疑問を呈さなかった。だが、彼の額から流れる脂汗を見れば、その理由も一目瞭然だろう。彼は震える手でコーヒーカップを片付け、部屋を後にした。
「ジュンキ……あぁ、敬愛なる私の親友よ……!! どうか、このマーガレット・ロンドベルを導いてくれ───」




