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港町:アイディーナ

「お客さん、もうすぐ着くよ」

「あ、あぁ……」


 疲労困憊の身体が重い。リーカはぐったりとして寝転がっている。それもそのはず、舗装もされていないような陸路を進む馬車の中で、長い間、丈夫な木材でできた固い荷車の中で過ごしていたからだ。


 馬車に揺られて一週間……これはサントシュヴェルに到着するまでの時間だ。そして目的の港町アイディーナに到着するまでに、そこからさらに三週間も掛かった。ここまでの時間を要するとは全くの想定外だった。


「リーカ、起きろ」

「ふわぁ……もう着いたんですか?」

「もうすぐ着くそうだ。……ごめんな、地図の縮尺が不正確なこと、さらに通行可能な経路が直線と限らないこと……何もかもを見誤っていた」

「謝らなくても大丈夫ですよ。私難しいこと何一つ分からないし……ずっとあの小島で暮らすよりはこうやってジュンキさんと一緒に旅できることが楽しいんです♪」


 彼女は屈託のない笑顔を浮かべた。その言葉に嘘偽りがないと分かっていながらも、やはり申し訳が立たない。せめて、この子にはもっと幸せになって欲しいものだと強く思った。


 馬車が止まる。どうやら目的地に着いたようだ。


「ほら」


 先に馬車を降りて、手を差し出す。小柄な彼女にとって荷台の高さは危険だからだ。リーカはその手を取って馬車から降りようとする。しかし、手を取ったその瞬間、彼女は俺の背中越しを真っ直ぐと見つめ始め、足を踏み外したのだ。


「あぶっ……!!」

「あっ!! ジュンキさん……!?」


 咄嗟に落下点に入り、リーカを受け止めた。下半身から覆いかぶさるようにして密着する恰好になってしまって気まずいので、両手は彼女に触れないように天に突き出した。


「怪我はないか?」

「私は大丈夫です!! それより、ジュンキさんは……」

「俺もだいじょ……うおっ!?」


 俺が天に差し出していた手をリーカは掴み、なんと俺を片手で引き起こした。あまりの力の強さに肩を脱臼してしまうかと思ったが、それ以上に勢いが強すぎて、逆に前のめりに転げそうになってしまった。


「い、意外と力あるんだな……」

「はいっ、だから……ジュンキさんを守るのは私ですから、無理して私を守ろうとしないでくださいっ!!」

「お、おう……」


 心臓が早鐘を打つ。恋の始まり……ではない。ただ、その腕力の強さへの驚きと、未知と遭遇した時の恐怖心から心拍数が上昇しているのだ。思えば、この世界の人間が元の世界の人間と同じような人体構造をしているとは限らない。リーカの見た目が幼い少女に見えるのもそうだが、おそらく倍近く体重のある俺をあの細い腕で持ち上げるなんて、ありえないことだ。


「底知れないな……」


 服に付いた土をはたき落とし、振り返って街の方を見る。そこには「はじまりの街」とは違う、活気ある景色が広がっていた。


「……まさか、リーカはこの景色に見とれてこけそうになったのか?」

「はいっ!! 他の街に来たのは初めてで……こんな景色、初めてみましたから!!」


 確かに、俺もこの世界でこのような街を見れるとは思っていなかった。あんな小さな街でさえ上水道が整備されているのだから、文化的水準が高いということは想定していたが……。


「世界遺産級だぞ、これは……」


 美しい建物に、色彩豊かな壁、統一された赤茶色の屋根、金銀が使われた装飾品の数々……しかも、多くの建築物は陸地ではなく、海上に建てられているのだ。最も巨大な建築物こそ陸地にあったが、そこから扇状に形成された街は、放射状に伸ばされた水路を唯一の道として扱っているようだった。


 元の世界でも似たような街を見たことはあるが、あの都市はもっと入り組んだような水路を使っていた。この港町はそれと比較すると防衛の面で不利に見えるが、街の外周を見ると転じてこの街が自然の要塞であることが分かる。


 二重の城壁と、それを囲う険しい山々は港の入り口まで覆っていて、船舶は死角から入って来る。どうやら入り江の中に街が作られているようだ。山の一部には監視塔のような建築物も見え、常に警戒態勢を取っているようだった。


 リーカと共に街の景色に見とれていると、馬車の御者が満足気に語り掛けてきた。


「綺麗だろ? 長旅で疲れた旅人もこの景色さえ見れば感動のあまりケツの痛みが無くなるっつうんで、必ず先に高台に降ろすって決めてるんさ」

「確かに綺麗だ。感動もした。……だが、ここから港町まではその……遠すぎないか?」

「追加料金だね、そりゃ」

「……マジか、すまん。リーカ……もうちょっと金使うぞ」

「どんどん使っちゃってくださいっ!! お金の管理はジュンキさんに全部任せてますから」


 旅の中で、リーカの持つ潤沢な資金の管理は俺に一任されることになっていた。いくら質素な暮らしをしているとは言え被差別階級の彼女がここまでの大金を持っていることは不可解だが、彼女曰く「処刑」を執行するたびに使いきれないほどの報奨金が与えられるらしい。


「ほいよ、追加運賃ありがとさん」


 そして、数時間掛けて街の入り口に辿り着いたのだった。


中日が負けると、モチベーションの問題で文章のクオリティが下がる。

頼むよ一樹

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