適当ブリーフィング:オペレーション行き当たりばったり
小舟を一目が付かない場所に接岸させ、俺たちは「はじまりの街」に向かった。リーカは顔が割れている可能性もあったが、可愛らしい服装と化粧のお陰で誰にも気づかれないという算段だったが……ここで誤算が発生した。
「あ、あの……なんか、私見られてる気がするんですけどっ……」
リーカは背筋を丸めて、周りの様子をきょろきょろと見まわす。彼女の言う通り、間違いなく周りから注目されている。だが、それは人々が彼女がグランペということに気付いているからではない。ひとえに、その姿が可愛すぎるからだろう。
彼女の身に付ける服は、これでもかというほどにフリルが付いたドレスで、元の世界ではロリータファッションと呼ばれていたものだった。できる限り元の生活で着ていた服に合わてやりたいとセパレートではなくワンピースタイプの服を選びたかったが、めぼしいものがこれくらいしかなかったのだ。決して俺が少女趣味だったりリーカに可愛い恰好をさせたかったわけではない。
「大丈夫だ。堂々としておけ……世間知らずな貴族のお嬢様を気取っていけ」
「む、無理ですよぉ……」
ちなみに、俺はタキシードのような恰好をしている。貴族の令嬢とその世話役みたいに見えてくれれば僥倖なのだが、やはり……若干無理があったかもしれないと思い始めた。目の前を歩く衛兵に呼び止められたからだ。
「失礼、身分を証明するものを」
「ひっ……」
「大丈夫だ、俺に任せとけ」
怯えるリーカを手で制す。
「お嬢様はお忍びで街を出立されている。身分を証明するものなどない」
「では、あなたの身分を証明してください」
俺は懐から、商業ギルドのバッジを取り出した。
「善き隣人となれ」
「……あなたの旅路に幸あらんことを。ジュンキ様でございましたか、これは失礼致しました」
「……?」
リーカはきょとんとした表情を浮かべる。無理もない、急に訳の分からないやり取りが発生して衛兵が立ち去ったのだ。何も理解できるはずがない。
「今のは、一体……」
「こんな路上で話す訳にはいかない。とりあえず俺が借りた家に向かう。そこで話そう」
そして、セーフハウスにしている家に駆けこむのだった。
「───えっ、ジュンキさん……商業ギルドの偉い人と友達になったんですか!?」
「あぁ、そうだ。さっき説明したみたいに、マーガレットの作った秘密結社とも連携が取れる。この街の衛兵は丸ごとあいつが買収したから仲間になってるみたいだな」
「やっぱりジュンキさんは凄いです!! 只者じゃありません!!」
「ありがとう。でもまだ何も成し遂げてないから、そんなに持ち上げないでくれ」
少し素っ気なく対応してしまったせいか、彼女は少し膨れた顔をしていた。
「……話を戻すぞ。俺たちの最初の目的は各都市一人居るとされるグランペの保護と、仲間に付けることだ。リーカはグランペがどこに住んでるか分かるか?」
「グランペの人は私が最初に着ていたのと同じような服を着ているはずです。居住区から離れた場所に住んでいると思うので、探せば見つかると思います!!」
「その辺りは根気よく、だな。次に訪れる街の順番だが───できるだけ規模が小さい街から始めて、徐々に帝都から遠ざかっていくルートを考えている」
俺は地図を広げた。マーガレットから貰った帝国領地内の詳細な地図だ。
「ジャルヴァナ公国の中心地サントシュヴェルを中継し、北東の街アイディーナに向かう。そこから帝国領の範囲内で、南下し、警戒の強いベバンティア半島の近辺都市には近寄る前に西に向かう。ぐるっと回って一周したところでまた『はじまりの街』に戻って、そこでようやく帝都ラスマリグスタに向かう」
「凄い……もうこんなことまで考えてるなんて」
彼女は感心しているようだが、あくまでまだ旅程を話しているだけだ。あまり俺に夢を見てはいけないし、現実はしっかりと伝えておかなければならない。
「いや、悪いがリーカ。俺は何も考えていない。最終的には各地のグランペを団結させて帝国に市民権を認めさせるという方向に持っていきたいが……これはただの理想論だ。そんなに上手く行くとは思えない。まぁ、失敗するだろうな」
「失敗したら……?」
「失敗したときに考えればいい」
不安そうに訊ねたリーカの頭をぽんと撫でて、微笑んでみるのだった。




