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旧世界より(2)

 「内戦」、英語で言うとシヴィルウォー……即ち、内戦とは市民・国民による戦争を指す言葉だ。だが歴史的に見れば、内紛や内乱が国内勢力だけで完結することは稀有だ。特に近代以降の内戦は超大国の思惑が一国の領土で交錯し、混沌を生み出し続けていた。


 無論、国民が政変を望まぬ限り争いは起きない訳だが、国民感情自体は大国の諜報機関にコントロールされている側面も多少なりともあった。当然体制側も情報統制をしている訳だから、言ってしまえば体制側とそれを支援する大国諜報機関が「綱引き」に負けた結果の戦争だろう。


 残念ながら陰謀論でよく目にする秘密結社や思想の強い民族主義者には出会えなかったが、この戦争でも例に漏れず大国の諜報機関が関与していたようで、実際にスパイ、或いはエージェントと呼ばれる人間と接触したことがある。武器や弾薬は彼らに支援されたもので、活動資金の一部でも援助してくれているらしい。


 彼らの支援が無ければ俺たちは戦えなかった。だが、不信感は常に残り続けた。彼らは秘密裏にこちらを支援し、敵情を伝えたが───これでは、全て彼らに支配されているようだ。さらに、本国が表向きに支援する民兵組織とは全く連絡・連携を取る手段もなく、完全に俺の部隊は単体として扱われているようだった。


「なぁ、ジュンキ……。俺たち、いつか捨て駒に使われるんじゃないのか?」

「……あまり深く考えるな、ブレイヴ」


 俺は歩哨中、共に歩く戦友にそう言っておきながらも、思案に耽っていた。彼らが俺たちを切り捨てる可能性、そもそも政府転覆ではなく内情不安だけを作りたかった可能性……現地に行けば知れることがあると思っていたが、むしろ現地でさえ手が届かない情報がある。


「ブレイヴはあの国の元軍人だろ? 彼らの手段について知ってることはないのか?」

「ある訳ないだろ!! 奴ら、俺たちクソ軍人が命がけでクソ戦ってる時も裏でクソコソコソやって、こうやってクソ民間人にばかりクソ危険なことばかりやらせて……あんなクソ卑怯者の手口なんて知るかよ、クソが」

「落ち着け、クソって言いすぎて自分にもクソって付けてるぞ」

「いや、いいんだ。大義を掲げても結局俺たちは人殺しだろ?」

「……元軍人の癖にナーバス過ぎるぞ、ブレイヴ。この部隊はお前が頼りなんだからな!!」

「ハハッ、そうか。頼られるのも悪くないな。軍では大して役に立たなかったが、部隊の素人共を纏めるのが隊長である俺の務めだ。よし、俺に付いてこい!!」


 あまりの切り替えの早さに俺が笑うと、それに釣られたようにブレイヴが腹を抱えて笑い出す。とても戦地とは思えない光景だったが、笑える時に笑っておかないとむしろ精神的に参ってしまうのだ。一しきり笑い続け、笑い疲れるとすぐに真顔になる。切り替えの遅さは生死に直結するからだ。


「……なぁ、ジュンキ」


 突然、ブレイヴが神妙そうな顔で語り掛ける。


「お前は平和の国の住民だ。ここはお前の居場所じゃない。……生きて帰れる内に帰れ」

「なんだよ急に。今日のお前なんか変だぞ」

「悪い予感がするんだ。───いや、忘れてくれ。これは士気を下げる発言だったな」

「帰るならブレイヴも一緒だぞ。生きて帰って日本の観光案内してやるよ」

「……フッ、生きて帰れたら、な」


───翌日、ブレイヴは死亡した。一機の小型ドローンの攻撃によるものだったらしい。クアドコプタータイプの安い民生品に少量の炸薬を搭載しただけの「兵器」による自爆攻撃で、頸部を負傷し、数分と経たない内に息を引き取ったそうだ。遺体を引き取った諜報機関の構成員は「死体が原形をとどめたまま本国に送り返せるのだから、幸運だ」と漏らした。


「幸運か……」


 何が幸運だと、無性に腹が立った。その怒りをぶつける先すら分からない自分にさえ腹が立った。信用できない女神の幸運を期待してはいけない。ありとあらゆる結果論を幸運と結論付けられることを許してはならない。俺は、俺自身の力で未来を切り開いていかなければならないのだ。

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