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奈落

 ユリアスと目が合ったトカゲは道路のひび割れからじっと観察していたが、ふと別の方角に気を向けた。


 黒い影が突っ込んでくるとトカゲは前足を振り払うが、黒い影は射出した疑似筋力繊維を前足に当てると軌道を下に変更し、その真上を前足が空を切る。直後にトカゲの眼前で煙幕が上がる。


「衛利?」


 疑似筋力繊維の上手い使い方にユリアスが一瞬彼女の姿を思い浮かべるが、そのまま黒い影はユリアスの垂れ下がっている疑似筋力繊維の吸着点付近に着地する。


「今のうちだ!」


 ユリアスが疑似筋力繊維を地上に伸ばして収縮して地上に上がる。負担がかからないようゆっくり上がるユリアスの体を3番は抱えて引き上げる。


「すまない」


「離れよう。あんな怪物今はどうやっても勝てない」


 うなづいたユリアスの脳内に警告が響き渡る。


【警告:敵個体。尻尾全体の結合を解除】


 ESP能力でほぼ同時に警告を知った3番の方がわずかに行動が早かった。ユリアスの体を抱きしめて再びひび割れの中に身を投じたのだ。


 少し遅れて煙幕の中から降り注ぐ無数のモビルマテリアル。先ほどのような精密さは全くない。散弾のように降り注ぐ鉄球の雨は地下の構造物にさえめり込み、または貫通してしまう。


 落ちていく二人のそばを殺人的な速度で鉄塊が通り抜けていく。自身の上から3番が覆いかぶさる形で落ちていくのを幸いとユリアスはパラディウムに脳内で入力する。


【パラディウムジェネレータをオーバーロード】


 警告を振り切り安全出力を超えて発電を開始したジェネレータがユリアスの背中から紫電をまき散らす。


「やめろ!背中が焼きつくぞ!」


「今はこれしかない!」


 徐々に背中が熱を感じ暖かさから無慈悲な加熱に変化するとユリアスに苦悶の表情が浮かぶ。


【緊急スラスター推力に必要な蓄電完了】


「噴射!」


 パラディウムの各部スラスターが上方に向けて推力を放つ。


(間に合わない)


 だが、あまりに時間をかけすぎた。約20秒間落下してついた速度はほんの一瞬のスラスター推力では相殺することは出来なかった。


 ただではすまない。と言うことだけは本能でユリアスは感じていた。その瞬間ユリアスの視界がグルリと反転した。


(お前……)


 3番は押し出すようにしてユリアスを投げると、横の勢いがついたユリアスは抗いきれない力の作用を転がって逃がしながら最後は受け身を取って停止した。


 朝焼けで明るくはない空。それゆえ真っ暗な地下でユリアスは目覚める。まだ落ちて一分も経っていない。


 土の感触と臭いを感じながら顔を上げようとする。


【意識レベル低下。薬剤による覚醒処置を実行】


 パラディウムの腰部に保管されている薬剤が、生体CPUの刺激と共に脳に働きかけて一気に覚醒した。


「痛っ!」


 立ち上がろうとすれば激痛で動けなくなる。薬物の鎮痛効果が表れてようやく力なく足を踏ん張る。


【左上腕部骨折、打撲箇所57……】


「あいつは、どこだ」


 生体CPUが体の損傷を教えてくれる。どこか他人事のようにユリアスは思えたが、そんな悠長なことはすぐ頭の隅に追いやって探す。


【飛行ユニット損傷】


 パラディウムに備えられたライトで瓦礫を照らす。


(どこだ?)


 集中して探す。


「……居た」


 瓦礫から少し離れた場所に転がる3番。微弱だが脳波は発している。速足で傍に寄ると、粉々に砕けた左手の義手と伸び切ったベルトの疑似筋力繊維が見えた。


(無事だったか)


 口も動かせずに思考で喋る3番は目もあけずにその場に動かない。


「大丈夫だ。まだ助かる」


(放っておけ)


「……」


(やめろ)


 諦観する3番が抗議してもユリアスは諦めずに彼の右手を首にかけて無理やり立たせる。自力で何もできなくなった3番は抵抗する素振りも見せずに力なく引きずられていくしかない。


「私はな3番」


 息も絶え絶えで正直ユリアスすらもパラディウムのパワーアシストでどうにか動ける状態でしかない。


「もう誰の命も背負いたくないんだ。頼むよ」


(……)


 あてもなく地下空間を歩むユリアスは上を見上げる。ひび割れた道路の隙間から見える空の星はいつしか消え始め、朝日で徐々に明るくなってくる。


 どうすればあそこまで登れるのかと考えてから視線を水平に戻す。


「……なんだ?」


 モビルマテリアルが貫通した地下構造物。ちょうど警察機構庁舎の地下に相当するそこから、仄暗く青い光が漏れ出していた。


GWを満喫しました(反省色なし)

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