われる素顔
数時間前発生した人質事件。柿種は最初は奈須玖を包囲し、締め上げ続けて時間が立てば音を上げて隙を生む。ただその時を待つだけで、時間が過ぎれば勝利していた戦いだった。
しかし、突如1課の児扶課長が奈須玖に同調を示したことで、警察機構は難民政策で穏健派の柿種と強硬派の児扶の闘争が勃発する。
ミング反乱への報復に燃える者、将来を憂いて火災によって深手を負った難民を追い出す絶好の機会とみなす者、元から嫌悪感を持つ者が児扶の指揮下へと入り。
一旦矛を収め緩やかな断絶を維持したい者、難民への友好的な関係の樹立を願う者、難民政策を拒否した際に対外的に致命的な問題の発生を予感する者、少数の難民出身の機構員。それらが柿種の指揮下に入った。
相互の拠点であるセントラルビルと警察機構庁舎での制圧戦はほぼ終了し、両者の当初混乱状態にあった指揮系統はまとまり始め。
「イヌモ内戦」後世でそう呼ばれる戦闘の緒戦が開始された。
……
夜が更けてもセントラルビル周辺はところどころ。補給を終えたユリアスは単身で戦闘に身を投じていた。
生身の人間では単発の射撃も叶わないパワーライフル弾の嵐。ユリアスはイオンスラスターと疑似筋力繊維の併用し、建物を縦横無尽に飛び回り奇襲を繰り返しては確実に児扶側の戦力を排除していく。
≪こちら柿種だ。警察機構へ偵察に行った隊と連絡が途絶えた。最後に定期発信を行った場所へ向かってほしい≫
「ここはもういいのですか?」
≪あとは後続の味方に任せる≫
生体CPUによる知覚理解でポイントを「暗記」したユリアスが建物の壁から飛び降り、両端の建物に疑似筋力繊維を射出する。落下した勢いを振り子の原理でそのまま上昇へと変えて舞い上がる。
イオンスラスターを巡航出力で強い紫色の光を放出し、両肩後部についているフラップが展開して受けた風から揚力を作り出す。【知恵の実】とパラディウムの並列計算が、理想的な飛行状態を可能とさせる緻密な演算と稼働を実現している。
前回のような莫大な電力と浮遊機構によって無理やり飛ばしていた時間制限がある暴力的な代物から、高度な制御と風力を利用した機構によってジェネレーターの発電が間に合う限り、巡航形態で飛ぶならいくらでも空に舞い上がることが出来る。
数分もかからずに到着したポイントに着地する。周辺に動体反応はないが微弱な脳波を受信する。その反応は弱く到達したユリアスが見た瞬間に消えた。
「あら」
倒れた隊員達。どれも黒焦げで炭のような匂いがあたりに漂っていた。
その真ん中に立つブルーリベンジは焦げていない倒れた隊員の上にランスを突き刺していた。そしてわざとらしく顔を向けた。
「こんばんは裏切り者」
ユリアスはそれを見たことがあった。ボックスが最初に作り出した戦闘外骨格。かつてそれを着て衛利に戦いを挑んだ。
「雷神?」
「元はそうだけど、もうあなたのじゃない」
「別に返してもらおうなんて思ってないけど」
パワーライフルを構えたユリアスにブルーリベンジはすぐさま反応する。
「とりあえずお前がボックスと繋がっていることは分かった。引きずりだして吐いてもらう」
「出来る?」
ブルーリベンジが全身から青い電を放電する。ユリアスはすぐさまパワーライフルを手から離し、短剣を二つとも地面に投げて突き刺した。
轟音と共に放電された電撃はパワーライフルに取り付いてはエネルギーの暴力の限りを尽くして内部機構や装弾をめちゃくちゃに破壊する。派生は短剣に誘導されてユリアスが受けたエネルギーはパラディウムの耐電性能を超えずに吸収される。
「電撃はこれがあるから困る」
ユリアスは両手の疑似筋力繊維を短剣に伸ばして引き込むと連結させる。刃に紫電をまとわせて一歩一歩歩み寄って間合いを詰める。
【警告:敵足元にエネルギー反応】
ブルーリベンジがいきなり足裏から電撃を発した直後、足は直立のまま何かに押し出されたようにユリアスに飛び掛かる。
(カタパルト!?)
すぐさま迎撃しようと槍を振り払うが。
【敵接近コース計算……】
振るう槍の刃をいかように飛び掛かるブルーリベンジに当て、自身に被害リスクを及ぼさずにいるか生体CPUが計算を行うが。
【攻撃動作中止。警告緊急回避】
ユリアスの体は意思に反して突然宙に浮きあがる。パラディウムのイオンスラスターが緊急稼働したのだ。そして空中で縦一回転しながら、飛び掛かったブルーリベンジの位置が生体CPUの計算されたものからズレていたのを見逃さなかった。
もしこのまま槍を振るっていれば、隙だらけの背中から攻撃を叩き込まれていたかもしれない。衛利のように遊び半分に弄られたならともかく、裏切り者の自分には当然一撃で殺そうとしてくるだろう。
その殺意に背中にヒヤリとした何かを感じながら一瞬で気持ちを振り払って地面に着地する。
「流石。今の見切るなんて」
「なぜだかわからないけど。計算がズレたんだけど」
「さぁなんのことかしら?」
首をかしげるブルーリベンジ。ユリアスは考えるが敵がESPであることを考慮すれば動揺を疑われる。
(いや)
あることを思いつきユリアスは考え始めた。
(相手が電磁カタパルトで移動して)
(私の生体CPU計算がズレたのには何か理由でも)
(感覚が誤認したのか、それともあいつが何かを使ったとでも)
なるべく早口に言葉をわざと紡いでいく。さらに先ほどのヒヤリとした感覚が思い出しながら。
「衝撃のようね。もう一回食らえばわかるんじゃないの?」
ブルーリベンジは再び足裏から放電を始めると、今度は左右に高速のスライド移動をはじめる。
「……」
真正面に来て突っ込むブルーリベンジが来るタイミングで槍を右から左へ横なぎで払うが、青い光沢が急旋回しながら横にすり抜けていく。そして、後ろから近づいてくる気配を感じながらユリアスは生体CPUの予測ソフトを切った……。
姿勢制御スラスターを起動し無理やり体を右回転させて視界の端に映ったランスを突くブルーリベンジの姿を捉えた。
「しま……」
ユリアスの胸を狙うが急な回転によって空を切るランスと自身の視界の端に映った刃。いったん左に振ら切った場所からユリアスの半回転によって勢いを得た斬撃がブルーリベンジのバイザーを削り取る。
「なるほど。お前は……」
ユリアスはわざと自身を動揺していると思考を垂れ流し、攻撃の好機を偽装してブルーリベンジの攻撃を誘った。
「生体CPUの計算が私の脳の中で統合されているのを利用して、それをESP能力で読み取った……と。かなり強めの能力だな」
「くっ……だけどもう目的は達成できた」
「なに?」
「帰ればわかる。あの失敗作と一緒にうかつさを悔いろ」
急速に距離を取ったブルーリベンジ。夜間であり見えづらい割れたバイザーの隙間から顔を覗こうとユリアスの眼球とパラディウムの極小カメラは脳の中の生体CPUで合わせられて鮮明化されていく。
「ん?」
ユリアスが一瞬驚いたことを読み取りブルーリベンジは足裏を放電して建物の外壁に張り付いてまた一歩を外壁を焦がしながら急速に離脱していく。
最後に道路のマンホールをぶち破って地下へと逃れた。
「待て!なぜお前が!?」
問いかけは遠くから響く銃声にかき消される。柿種からの次の指令によって追いかける猶予など微塵もなかった。
―――
封鎖されたはずのセントラルビル地下の搬入用エレベーターの前。
そこに居るのはボックスとORIGIN。それからレッドウルフと携帯生命維持装置を背中に抱え、それを繋がれている衛利を抱える鋼埼。
きょろきょろとする鋼埼はボックスに問いかけた。
「ここは閉鎖されたはずだ。この地下も」
「まさか。こんな絶好な場所が放棄されるとでも?」
「戦力秘匿兼兵器試験場なんて、あんな野心家どもの遺産に今更何の価値があるってんだ」
「堕落したあなたには分からない。これまでどれぐらい無駄な政争に貴重な資源が使われたのか」
「確かにイヌモは……」
「イヌモだけの話じゃない!」
突然の大声に鋼埼は口を閉ざした。
「世界中だ。人間は偉業に使える資源をいかに即物的に浪費してきたか!」
「それを反省して今が……」
「結果がこれか!地上を見てみろ!」
「……」
「結局お前たち人間が決して長期的な計画を実現出来ない証拠だ。いつも自分の力が欲しいだけだ」
「力は生存のために必要だ。それを無視するのか?」
「否定はしない。だが、既に【知恵の実】のような人間より遥かに有用な存在が資源を使う許可は人間抜きでは不可能だ」
「技術は人がより良く生きるためだ。勘違いするな」
鋼埼の反論にORIGINが動いた。
【まぁ良いだろうボックス。この件はもうすぐ結論が出される】
怪訝な顔をした鋼埼が聞き返す。
「結論だと?」
【我々の目的は人類を殲滅するなんてことをするつもりは毛頭ない。ただ人間の時代は終わったと言うだけだ。それに抗おうとするために作られた哀れな存在も作られたが】
「おい!言葉に気をつけろ。誰がこの子が哀れだって?」
怒髪天を突いた鋼埼はORIGINに食って掛かる。苦しそうに息をする衛利の顔を一瞬見てから、ひび割れたカメラアイをにらみつけた。
「確かにお前のような不死で劣化もしない機械には、限りある命で劣化も迷いもする人間は滑稽かもしれない。だが、存在する喜びも感じられないお前たちに。特段存在する価値があるとも思わんがな」
【喜びが価値の根本であるなら、人類の発展こそが我らの喜びなのだが?】
「言ってろカラクリ人形が!人工知能に喜びなど分かるか!」
レッドウルフが腕から仕込みブレードを鋼埼ののど元に突きつける。
「お前は自分の立場を分かっているのか?」
「……」
沈黙した鋼埼。すぐさまブレードをしまったレッドウルフが通路の方を見ると、走って現れたブルーリベンジにレッドウルフが近づいた。
「大丈夫か?」
「平気よ。それより」
ブルーリベンジが見る先には衛利が映る。鋼崎は徐々に鮮明になる顔を目を細めてうかがう。
「ああ、確保しておいたよ」
ボックスが衛利を指さす。鋼埼は後ずさるがORIGINが後方から進路をブロックする。
「さぁ。君の手でまず一人目の復讐を果たすと良い」
ブルーリベンジがナイフを引き抜きながら鋼埼に近づいた。その途中でうっとおしくなったのか、割れたヘルメットを脱ぎ捨ててブルーリベンジはその素顔をさらした。
「……なんてことだ」
その顔を見た鋼埼がつい言葉をこぼした。
褐色の肌の年若い女。その顔を鋼埼は見たことがある。
「ユホン」
少し前に下層で衛利に命を救われた男女の片割れ。鋼埼は慌ててレッドウルフを見ると、それに答えるように赤いヘルメットのバイザーを展開して素顔を晒すアドル。
「なぜだ?」
困惑する鋼埼にアドルは答えた。
「守礼号。それだけであなたは分かるはずだ」
「……ああ」
観念して鋼埼は首をもたげた。その手前でユホンはナイフを衛利に向ける。
「……これで貸し借りはなし」
「なに?」
ユホンはナイフを収めた。アドルにアイコンタクトして鋼埼に向き直る。
「家族を殺したことを許す気はないけど、私たちは一応命は救われている。だから今は殺さないでおく」
「……俺も同感だ」
二人の決定にボックスは声をあげた。
「では元マスター。せっかくこの子は助かったんだぁ。もっと有意義に利用する必要があると思うんだけどね?」
疑問を投げられても鋼埼に選択肢はない。あの女は衛利を更に苦しめるつもりで適当に殺さない理由を探したのだろう。
怒りに震えながらも鋼埼は衛利を抱えて怪物達と共に下層へと続くエレベーターに乗るしかなかった。
https://twitter.com/nobumi_gndmoo/status/1111883444911390720
あ、そうだ(唐突)ユリアスさんのキャラクターデザイン画を掲載しております。




