↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/82

弱み

≪柿種独立捜査官!応答を!≫


 指揮所に悲痛な叫びがとどろいたのは、柿種が衛利の戦闘不能報告を受けた直後だった。声の主が警察機構内に待機させておいた柿種の数少ない部下であることは投影ホログラム越しからの映像で分かった。


 ユリアスは鋼埼の待つ病室に衛利を運び込み、増援でやってきた一人と一体を味方識別にかけてセントラルビルに外に待機している1課と合流させた。


 件の知恵の実の意思を騙るロボットもどこかへと撤退しやっと一息ついたところに、更に問題が発生したことを直感した柿種の声はわずかに覇気を欠いていた。


「こちら指揮所。どうした?」


≪1課が奈須玖に迎合しました!既に中心メンバーが各班に伝達している模様です。警察機構の施設掌握を開始しています≫


「……確かか? 奈須玖が事を起こした時に殺した警護の中には1課の人間だっていたはずだ」


≪間違いありません。1課の意思に反した機構員が拘束されています。そのうちセントラルビルに配置されている1課の部隊にも伝達が来るでしょう≫


「分かった。……君はどうする?」


≪離反する者をかき集めてセントラルビルに向かいます。そこで合流を≫


「了解した」


 通信を切る柿種。目を閉じて深呼吸をする。しばらく何かを考えるようにしてから言った。


「みんな」


 指揮所にいる部下を見渡した。


「しばらく待つ。本当に1課が裏切ったと情報が入れば……」


 指揮所に再びコールが鳴る。今度は音声だけの通信だった。


≪指揮所は、この番号でよかったか? こちらセントラルビル南口≫


 若い男の声を受信する。その声を皆は知らないが、声の雰囲気で言えば突如現れた謎の味方。鋼埼から報告を受けた【利府里司徒】のコピー。当然その声は険しくなった。


「こちら指揮所」


≪突然味方が襲い掛かってきたんだ≫


 すぐさま柿種は手元の端末から南口の配置を調べると、そこにいるのは1課の班だ。


「様子はどうだった? いきなりか?」


≪いや。持ち場から離れようとしたんで声を掛けたらいきなり銃向けてきたから。手加減は出来なかったぞ≫


「それでいい。1課が奈須玖に迎合した。これから……また戦争だ」


 通信が切れる。それからはひっきりなしに他の班から1課からの襲撃報告が相次いだ。


「1課にコールする」


 確信を得た柿種はダイヤルを入力した。その表情は沈痛に溢れていた。


 ……


 警察機構の一室。そこにある高級感や清潔感溢れる木の家具が置かれたオフィス。窓から見えるセントラルビルを眺めている受話器を取った男。


「やぁ柿種君」


 トレードマークであるでかい腹をゆする老人。その喋りは堂々としているが、ところどころ何かを隠すかのように声を張り上げている。


≪児扶(じふ)課長。これはイヌモに対する重大な反逆行為ですよ≫


 児扶は思いっきり鼻で笑って見せた。


「ふん。お前はイヌモの味方かもしれないが邦人の味方ではない。今回の慰霊式典に大半の邦人は失望している。難民と邦人を対等な位置に置こうとする君や二鏡のやり方は納得ができないね」


≪確かに。ですが、理由はそれだけでしょうか?≫


「なにかね?」


≪あなたはそんな人ではないはずです。児扶教官≫


 目を見開き、つい喉から声が出かかるがそれをぐっと飲みこんでから受話器に怒鳴った。


「君はもう私の生徒ではない!そんな覚悟なら君こそ降伏したまえ!いいか!」


 受話器を乱暴に置いた児扶の目の前に拳銃を構える青色の甲冑のようなバトルスーツを着たフルフェイスのヘルメットを被った人物。シルエット的には女性であるが、児扶がそれをうかがい知ることはできない。


「こ、これでいいんだろう?」


「上出来です。これでお孫さんが命の危険に合うことはしばらくないでしょう」


「し、しばらく!? 話が違うぞ!」


 驚く児扶にブルーリベンジは体を揺すって笑う。


「利用価値があるまでは、そして利用する必用がなくなった時には解放して差し上げますよ」


「わ、分かった。くそ、まだ娘と婿の葬式もあげてないのに……」


 児扶の小言にブルーリベンジは首をかしげる。


「しかし不思議ですね。娘さんを蜂起した難民に殺されているのに。その排除を掲げる奈須玖への協力を今でも納得出来ないのですか?」


「……例え家族を殺されても忍ぶしかない時もある」


「忍ぶ? あなたにとって家族はそんなものなのですか」


「お前に、何が分かる」


 飲み込むように児扶はぐっと拳を握る。


「失ってしまった者はもう取り戻せない。残されたものをどう生かすか、どう大切にするかが私の……」


「そうですね。私たちに付けば滅びは免れますし、早期に終われば犠牲も少なくて済みますね。あなたは賢い判断をされました。ですが」


 ブルーリベンジが突如児扶に接近し軽くラリアットを決めて引き倒した。


「私にだって家族はいましたよ。大切なね」


「き、君は」


 それ以上ブルーリベンジは答えない。踵を返してドアから退出する。


「では、いつでも我々は見ています。そして、息の根を止めることが出来ます。お忘れなきよう」


 ―――


【オペレーター認証完了。どうぞ鋼埼様】


 衛利が戻ってきた。


 また死にかけてやがる。今度は内臓めちゃくちゃに加えて更に心肺停止状態でアイギスがなければ即死だったろう。


 心なしか次が最後だと思っていた。だから衛利にはさっさとイヌモから飛び出して千之先生と一緒になってほしかったし、衛利が戦う必要のない世間を作ろうじゃないか。


 そう思っていた矢先に、奈須玖と1課の児扶め。


 急患オペレーター室に入った俺はパネルに記載されている情報を読み込みながら、施術支援の生体データを施術機械に「所有者権限」で入力を行う。


 施術用ベッドに寝かされた全裸の衛利が、隣の消毒室からベッドがスライドして施術室の中央に止まる。疑似筋力繊維によって構成された医療アームが一斉に衛利に群がった。


 アームたちは思い思いかつ一つの目的と向かって休みなく動く。あるアームは点滴を血管に挿入し、あるアームは人工呼吸器を迅速かつ器用に装着する。


 一方で内出血でどす黒くなった腹から胸はレーザーによって切り込みを入れられた穴から、次々と細分化した疑似筋力繊維アームが体の中に侵入し、ダメージを最小限にしながら患部へと到達する。


【有機ナノマシンを投与開始】


 音声と共にアームの先から1つ1つの細胞が小さな傷口に塗布されると遺伝子情報をすぐさま改変し、その人間と同じ遺伝子を持った細胞として振舞い始める。


 即座に細胞分裂をさせるよりは緊急かつ体への負担が少ない医療用ナノマシンとしては最高峰の代物だ。すぐさま血管を再生させて傷口をふさぐ。


 一方で外に出た血を吸い上げるアームの先にある透析器にかけられた血液は栄養を得て衛利へと戻っていく。


「……」


 今の世の中じゃ人間がメスを握ってなんて時代じゃない。人間では不可能な速度と精密さを持った医療システム。それを常時何台も用意できるのはイヌモが科学の促進を目指した会社であることに偽りはないからだ。


 だが、科学的な場所などこの九州の中でセントラルビルの一点にしかない。それ以外の地は人間を閉じ込めておく檻に過ぎない。


 その檻の中で殺し合っているのは傍から見ればおかしいんだろうな。実際俺も世界中で起こってる殺し合いをおかしいと思ってみていたし。

他の場所、もっとひどいところならこの九州の混乱もささやかなことに過ぎないんだろうな。


「他の場所か……」


 そういえばあの人たちはどうしているんだろうか? いやもう二度と会いたくないけど、両親はどうしてるんだっけか。19歳の頃にイヌモに来てからすぐ携帯変えたから一切の連絡もしていない。


 あいつらから見れば九州の様子はおかしいと思ってるんだろう。実際俺もここはおかしいと思う。


 それと俺が組んだ人工知能。アレはいったいどこに行ったんだろう。


「お邪魔するよ」


 物思いにふける俺を誰かが呼びかける。俺はオペレーター室の扉に目をやった。


「誰だ? ここは」


 赤い……鎧。


 俺は言葉を失ってしまった。なんでこいつがここにいるんだ?


 火災の時に衛利たちを襲った赤い鎧と足元に四角い機械。


 四角い機械の手足は疑似筋力繊維で器用に俺の目の前に歩み寄る。


「お久しぶりだな。マスター鋼埼」


「ボックス!?」


 驚き対応できない俺にボックスは続ける。


「こんな時だけしかお会いできないからね。いつもの邪魔な小娘は寝たきりだからね」


 赤い鎧は小手に忍ばせたブレードを衛利の方向に向ける。確かそれはビームが……。


 俺は走って衛利とブレードの間に割って入る。高出力のビームは一瞬でなすすべもなく俺とその先に居る衛利を貫くだろうからこの行動には意味がない。そうわかってても体は勝手に動く。


「待ちなさいレッドウルフ。こいつには使い道がある」


 ボックスが赤い鎧、レッドウルフを制するとブレードを引っ込めた。


「初期治療が終わったら我々と共に来てもらおう。やはりORIGINだけでは【知恵の実】の全てを掌握することは無理だったよ」


 レッドウルフが右手を振る。俺はとっさに身を守るが衝撃はない。だが、床に真っ二つになった俺の携帯端末が落ちるとボックスはうなづいた。


「力を貸してくれ」


 不意打ちのように現れてものすごく不服だが、助けも呼べない俺に選択肢はない。


「分かった。だが、衛利には手を出すな」


「ああ。最大限に利用させてもらうからね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。