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亡霊たちの戦い


 3番の状態は万全ではないが、時は待ってはくれない。むしろ3番にとっては衛利たちと接触するのにこれ以上ない状況だ。


 エラハムとジェレミアも異論はなかった。エラハムがミングの反乱のどさくさに紛れて手に入れていた狙撃銃を手に、3番は監視を掻い潜りながら川を渡り切って邦人居住区に潜入を果たした。


 そしてセントラルビルまでもう少しと言うところまで来た時には、既に衛利がORIGINに吊り下げられて、ゴミのように放り投げられていた。一度捨てたゴミに残った何かを探すように再び衛利へと手を伸ばすORIGIN。


 とっさに3番は小一時間休みなく泳いで走り、なおかつ慣れない左手の義手によって元は精密射撃に向かない小銃の構造である狙撃銃で、900m離れたORIGINの頭部を撃ち抜いて見せた。


 直後にビルの真上で衛利の状態にショックを受けたユリアスと、月光を背景に槍投げの要領で鉄パイプをORIGINに投擲する首なしの影を見た。


 3番は右の耳元に装着した無線インカムを発信した。


「ユリアス・ホワイト。被検体2番を連れて脱出出来るか? すぐにでも処置が必要だ」


 ユリアスははっとして発信元を見下げる。道路にいる3番に気が付くと驚愕して問いかけた。


≪お前は、3番か? なぜこんなことを?≫


 衛利がやられた動揺もあるが、ユリアスの驚きも3番には分かる。だが、今はそれを説明している時間はない。


「後で教える。援護するから衛利被検体2番を連れて逃げろ。ちょうど偶然にも別のゲストも来てるからな」


 ORIGINの前に立ちはだかる華奢な汎用フレーム。圧倒的な体格を持つORIGINと比較しても差は歴然としたものだった。だが、仁王立ちをして相対する姿にはどこか不敵さを持った堂々とした姿に映る。


≪別のゲスト?≫


 ようやくフレームマンの存在に気付いたユリアスは不思議そうに、それからすぐさま3番に叫んだ。


≪あんな汎用フレーム。簡単に捻りつぶされてしまうぞ!≫


「そうだな。だが、囮にはなる」


 3番は腰のベルトに仕込まれた疑似筋力繊維の細い束を建物の壁に射出して体を引き上げる。体力の余裕はないが足りていないわけでもない。筋肉が動き建物の外壁を昇っては狙撃を繰り返す。


 既にフレームマンとORIGINは動き始めていた。


 ―――


【貴様も同じか】


 ORIGINはすぐに気が付いた。自身と同じような存在がこの汎用フレームには宿っている。


【あいにく。お前のような手間のかかったものじゃない。地上にいる化け物の複製や白い姉ちゃんの方がよっぽど亡霊として高級さ】


 左手をヒラヒラさせたフレームマンは謙遜して言うが、決して対抗の姿勢は崩さない。その不気味さにORIGINも慎重に出方を伺うが、普通に考えれば疑似筋力繊維の塊のボディは容易く目の前のフレームを引き裂けるだろう。


【まぁそんな貧弱なボディでよく私の前に立てたものだ】


 疑似筋力繊維を足元に転がる鉄パイプに伸ばして持ち上げると、両手で持っては紙を折るように軽々と四角に曲げて放り投げる。


【武器もないぞ。どうやって攻撃するつもりだ?】


【かかってくれば分かる】


 ORIGINは右手をフレームマンに向けると右腕から疑似筋力繊維の無数の束を射出し蛇のようにくねらせて殺到させる。フレームマンはそのまま腕組みをしたまま蛇たちを迎えると、そのうちの一本を掴む。


【なんだ?】


 そのまま別の蛇も先を尖らせて刺し貫こうとした。だが、フレームマンは掴んだ一本を離さずに疾走する。蛇たちは攻撃をやめた。


【同士打ち防止か!】


 ORIGINがすぐさまマニュアル操作に切り替えるとフレームマンの持っている束をより細かな一本へとばらけさせ引き寄せる。だが、フレームマンはすかさずもう一本を掴むとORIGINの目前へと迫った。


【流石にこの数をオートメーション無しでは動かせないだろう】


 懐に飛び込んだフレームマンに左腕を軽くジャブを放つ。破壊力なら最低限保証されている攻撃もひらりと避けると、ORIGINの足元から何かを拾い上げながら離れていく。


【この……】


 振り返ろうとするORIGINの頭部に二発目の狙撃が命中する。装甲にはじかれるだけだが、殺しきれない衝撃は確実に内部の機構を危険にさらす。


 脳等が入っているわけでもないしジェネレーターやCPU等の中枢機能はボディに厳重に守られているが、通信機能やカメラ機能を持った頭部の被弾も軽視は出来ない。


 右腕を再びまとめ上げてからフレームマンを見るとその両手には血だらけのコインガンが二丁。ORIGINの足元に転がっている衛利から拝借したものだ。


【いいな。しっくりくる】


 コインガンをしみじみ眺めるフレームマンが慣れたようにコインガンを回す。


【そんなもので】


 ORIGINは再び右手から5つの束の疑似筋力繊維を射出し襲い掛かる。バック回転したフレームマンは距離を取ると、ORIGINの顔面にコインガンが着弾する。傷がつくが大したものではない。


 だが、それがフレームマンがバク転し続けて手元がORIGINの方に向くたびに着弾するものだから、思わず左腕で頭部をかばう。


【くそ】


 3度目の狙撃。頭部を外れたが定期的な揺れや衝撃がうっとおしいことこの上ない。


【どうした? 世界を支配するんだろう?】


 フレームマンの挑発にORIGINも業を煮やした。スマートに勝てないなら力で圧倒するしかない。


【勘違いするな。ただ遊んでやっただけだ】


 跳躍してフレームマンを目の前に捉えるとけりをさく裂させる。一方のフレームマンも、けりを受けながらうずくまりボールのように飛ばされる。衝撃を殺して距離を取ったのだ。


 飛んでいる間にもコインガンで終わりなくORIGINを攻撃する。さすがの頭部も衛利の入れたカバーのヒビが広がり始めていた。


 それからORIGINはとんでもないミスを犯したことに気が付いた。


 振り返れば白い外骨格が衛利を抱えていた。


 ―――


 ユリアスはフレームマンとORIGINの戦闘が始まった瞬間でも、倒れた衛利を凝視していた。データリンクから【心肺停止】状況が知らされても今でも嘘のように動き出そうとしないかを願わずにはいられない。


「衛利……」


 ORIGINの打撃を食らうたびに、断末魔のようなかき乱された脳波を受信し、間違いなく死が衛利の命をかすめ取ろうとしているのが手に取るように分かった。


 だが、無情にもジェネレーターは、衛利に分配して空になったエネルギーを飛行可能までにチャージする時間を示していた。増援の二人(?)も衛利を救出には至れない。


 チャージの分だけ衛利が救出する時間が延びる。今のアイギスが無理やり心臓の動きを抑えて出血する欠陥を無理やり収縮させ、首の動脈に無理やり突き刺された輸血が脳だけは生かそうと脈動している。


「まだか」


 苛立たし気にユリアスは時間を待つ。抑えきれずにチャージを切り上げようとして立ち上がる。


≪待て!まだ十分デカブツを引きはがせていない!≫


「しかし!」


≪機会を待ってくれ≫


 再び狙撃する3番。そして、フレームマンがバク転をしながら距離を離すとORIGINは跳躍する。


≪行け!≫


 チャージを切り上げて立ち上がる。置いてきたパワーライフルの代わりに外腿にマウントされていた双剣を引き抜くと、ただ一点を見て飛び上がる。


 必要な推力を短距離、それだけ十分届く。双剣の持ち手を組み合わせ槍状にして左手に持ちながら右肩で衛利を持ち上げる。


【まだ殺しきれてないんだ。すまんな】


 ORIGINは圧倒的な機動力でユリアスに迫る。すぐさま衛利を寝かせると槍と更にデフォルトブレードを右手に持って構える。


【怖いものを振り回すな】


 慎重に距離を図るORIGINに4度の狙撃。慣れたのか顔も動かさない。ただ目の前の標的を殺すことしか頭にない。


 一時に膠着陥るが、ユリアスは横目で衛利を見たのをORIGINは見逃さない。右手の拳でユリアスを粉砕しようと繰り出すパンチをバックステップで避けたユリアスは、デフォルトブレードをORIGINの顔面に投げつけた。


【忘れ物はしっかり処理しておかないと】


 顔を横にずらして避けたORIGIN、足元に転がっている衛利をその足で踏み潰そうと右足を持ち上げ始める。


「そうね。忘れ物は処理しないと」


 ユリアスの動揺しない様子を変に思ったORIGINが後ろを見るとフレームマンがデフォルトブレードを空中でキャッチしてそのままORIGINの顔面に切りかかった。


【うお!】


 驚きながらもとっさに真剣白刃取りでブレードを受け止めるORIGINに、ユリアスは一回転して勢いをつけると槍の結合を外し、短剣をORIGINの顔にスイングする。


 それを首を右に曲げて避けるが左側の頭部アンテナがポロリと落ちると続いて真打のもう一本がORIGINの眼前に迫る。デフォルトブレードと同じ材質で出来た短剣は、電子機器に触れればたちまち初期化され無力化される。絶対にカメラアイ等の回路に侵入させてはいけない。


 首を背けて頭部の装甲に当てようとするORIGINだが、迫る短剣が紫電を帯び始めた。


「仕留めたいけど贅沢は言ってられない」


 帯電した刃がORIGINのカメラを損傷させ光が視界を遮る。視覚をボディセンサーを立体化した映像に切り替えたORIGINは、白羽取りしたデフォルトブレードを放り投げる。


 投げられたのはブレードだけ、投げられる直前に飛び上がったフレームマンは衛利から拝借したグレネードを投げつけてORIGINの顔面でさく裂させる。


【クソッタレ!】


 憎しみを吐露したORIGINは足元に衛利がいないことに気が付き、ビルから飛び降り離脱し始めたユリアスの後ろ姿が映される。フレームマンも3番も別々の方向に逃げていく。


【……】


 疑似筋力繊維での伸縮で追えなくはない。だが、執拗なまでに攻撃された頭部のカメラアイは、効率的な移動ルートの割り出しが不可能になっていた。周囲の熱源を注意するだけのボディセンサーも、疑似筋力繊維での移動を割り出すのには向かない。


 流石に飛んで逃げるのと警察機構が展開しているエリアに逃げる敵を追いかけるのも無理がある。


【逃がしたか】


 とは言え。最低限企みが成功すればそれでいい。


【完璧ではないが、いつの世もままならないものだ】


 ―――


 邦人居住区の摩天楼の間を滑空するユリアス。腕には衛利が抱かれていた。


「……」


『苦しみなさい。死ぬまで』


 あの時の言葉がわけなくユリアスの脳裏に浮かぶ。ただセルゲイだけがすべてだった世界。まだ自我を持たないORIGINと接続が切られた時に全てに見捨てられたと思った。


 絶望や苦難も対処する必要があった。そんな自分に手を差し伸べてくれた人が居た。しかし、その人も無残にも殺された。ユリアスは自分が手にするたびにそれを失った。


 苦しい。


(そうだ)


 勝手に降りるのは許されない。絶対に。


「お前も死ぬまで。もっと苦しめ」


 自分を何度も殺した女。それと同じ苦痛を与えられるまで。


「絶対、死なせるものか」


ようやく出来た。ユリアス・ホワイトのイラストでございます。https://twitter.com/nobumi_gndmoo/status/1106219781122777091

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