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後始末


 喪服に身を包んだユリアスは集団墓地の前に花束を置いた。


 引き取り手のない難民の遺骨を納める四角い碑に、シスターグランマ。本名不明の老齢の女性の遺骨の灰が納められた。


 孤児院の襲撃の怪我で入院したその日の夜に容態が急変し死去。子供たちやほかのシスターにはそう伝えられていた。多少強引なカバーストーリーではあるものの。皆それを受け止めて彼女の冥福を祈った。


 ユリアスは葬儀や埋葬にも事情聴取のために来れなかったが、鋼埼がどうにかしたようでこうやって墓前に花を手向けられる。


「私はあなたのところから離れてしまった事を後悔し続けます。もうあなたに会えないのも……」


 呟くユリアスに護衛兼監視用の汎用フレーム2体が近寄ってくる。


『申し訳ありません。時間が迫っております』


「分かってるわ。また取り調べでしょう?」


 墓地の外に停められた車の後部座席に乗り込み。ユリアスの両脇に汎用フレームが乗り込んだ。


『取り調べの続きですが』


「ええ。どこからでしたか?」


『あなたが協力されていた下層の組織について。詳しく教えてください』


「分かった」


 車が発進する。会話プログラムは柿種の知りたい情報を基にユリアスから情報を引き出そうとする。


「下層の組織はイヌモの旧体制派が作ったようだけど。ボックスとスフィアと呼ばれる研究型AI以外はいなかった。明らかに規模に対して人員が少ないように思えました」


『その組織の目的は?』


「組織を統括するスフィアは、純粋な研究者の天国だったイヌモを守ると言っていた。でも、もう一体のボックスの方は、よく分からなかった」


『よく分からない?』


「スフィアの信念にあまり興味がなさそうにしていた。だから、スフィアもボックスの事をあまり信用していなかったわ」


『では。次はあなたについてお聞きしたい』


「ええ。知っている限りお話します……」


 ―――


 鋼埼にセントラルビルのカフェに呼び出された柿種の表情はあまりよくなかった。


「衛利の容態は安定しているよ」


「そうか。それはよかったな……」


 薄い反応に鋼埼が息を吸って切り出した。


「今回の件で君に責任があると言う輩も居るだろう。だからな……」


「あなたはそう言う用事で呼び出したわけじゃないでしょう?」


 柿種が参りかけていることを鋼埼は既に知っている。処方された薬は増える一方だが、イヌモには彼のような異常事態の対処に長けている人物はいない。


 能力のあるほとんど者はプライベートフォースの道を選び。利府里司徒に殺されたか、運良く生き延びたところで反動による追放措置によってイヌモの行政区から追い出され、需要が高まり続ける傭兵になってしまった。


 一方で柿種のような純粋な警察機構一筋の人間は、お世辞にもプライベートフォースに入る人間より能力は高いとは言えない。彼らの業務のほとんどは【知恵の実】によって進められ、いざと言う時の柔軟性と判断力が欠けている。


 結局、組織に逆らう形になっても公権力の暴走によるナムルの逮捕の撤回や、大火災鎮火の決め手となった緊急決議の根回し等も柿種が行った。本人はハン・ミングの反乱を収めた英雄と見られており、それにあやかりたい政治家をうまく利用したのだ。


 だが、最近の彼は短期間に色々な事を抱え込みすぎてしまった。


「ああ。用事は、だな。仁美さんについてなんだが」


「二鏡仁美ですか?」


 柿種の険しくなる顔に鋼埼は内心毒づいた。


(二鏡め。なんで俺がこんな役割を……)


 二鏡啓二から頼まれたのは非常に悩ましいものだった。


「啓二さんからね。仁美さんは回復兆候にあるらしいので一度会ってみてほしいんだと」


「なぜ私が? そんなの意味ありませんよ」


「まぁ。そうだよな……」


 しばしの沈黙。お互い温かいコーヒーを飲みながら次の出方を考えている。


「言う事は言ったからな」


「用事はそれで終わりですか?」


 席を外そうとする柿種を慌てて鋼埼は止めた。


「待て待て。オーダーは全部出てない」


「確かに時間はあると言いましたがね……」


 そんな二人のテーブルに給仕汎用フレームが現れた。


『おまたせしました。プレミアムパフェ・グレートになります』


 間に合ったかとほっと胸を撫でおろした鋼埼。


「さぁ食べるんだ柿種さん。気分が落ち込むときには食べるに限る」


 よそ見をしていた柿種はその物々しい名前がせいぜい少しでっかいぐらいだろうと思っていた。だが、柿種の視界に入った汎用フレームと、その両手に抱えるボールの上に乗せられたクリームとアイスとフルーツの塊にたまげずにはいられなかった。


 ―――


「ここがアギのお部屋?」


 アギはセントラルビル近くの特別保護施設に入所することなった。元々は難民の子供たちを受け入れ、将来イヌモの民として統合し、将来を担う人材を育てる予定、だった。


 今は何かしらの事情、又はハン・ミングの反乱で引き取り手のいない子供たちが集められ共同生活を送っている。


『はい。ここがアギさんのお部屋です』


 優しそうな若い女性のホログラムが、並ぶ部屋の扉の一つの前で止まった。


「開けていい?」


『ええ。どうぞ……自動ドアですよ』


 取っ手がない扉に困惑するアギに教えるが、アギの頭は聞いた事もない単語にドアが付いていて益々混乱する。ホログラムにドアの前に立ってみてと言われ、ようやくアギは自動ドアとはどういうものなのかだいたい分かった。


「おおー」


 広い部屋には新品の家具やピカピカの壁。実際新品で部屋ごと丸ごと入れ替えていた。


『ここでちょっとした火事が起こってね。すぐに消して直したんだけど、もしも何か変なにおいとかしたら教えてね?』


「ここでも火事?」


『うん。前に使ってた人達が出て行った後にね。備え付けのパソコンが出火してね』


「へぇ。でもアギはパソコン使わないから別にいいや」


 ホログラムは一通りの説明をアギにすると消えて、アギは中身も何もない小さなバッグを机の上に置いた。


 ……


 題:復讐の手伝い


 はじめまして。いや僕からしたらはじめましてじゃないけどね。


 君はあの事件に対してまだ決着をつけかねていると思う。もし興味がないならこのメールを消してくれ。


 端的に言えば。僕は君の復讐の手伝いをしたいと思っている。詳しく聞きたいならセントラルビルの近くまで来てくれ。いつでも歓迎するよ。


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