生体機兵
防人が火花を吹いて倒れこむ。ユリアスは衛利の後ろに居た防人を狙ったパワーライフルを下すと、背中の電磁ホイールがパージされ同時に全身のイオンスラスターがパージされる。
「手間取ったようね」
ユリアスの言葉に少し眉が動く衛利。お互い意識し、努めて冷静に脳波が相手に伝わらないように思考をフラットに保つ。
「そっちこそ来るのが遅すぎるんじゃないかしら?」
それでも負けじと煽り返す衛利だが。今度は立場が少し違う。
「そのくらい元気なら、まだいけそう」
「……ええ」
一枚とられたような感じがして、バツの悪そうに衛利はぶっきらぼうに言う。すると衛利とユリアスの互いの生体CPUがある提案をしてきた。
【コインガンとパワーライフルを互いに一丁ずつ融通してください】
その提案は自動的に【知恵の実】から送られてきた物。二人はすぐさま互いが一丁を放り投げて受け取った。
「……まさかまた使う日が来るなんてね」
顔を曇らせながらも衛利が残弾を確認する。ユリアスが放り投げたマガジンを疑似筋力繊維が受け取っては、アイギスの繊維の隙間にマウントしていく。
「ずるくない? その機能」
一方でユリアスが不満を訴えながらコインガンの棒金を手で受け取る。彼女のスーツの疑似筋力繊維は収縮密度が低く。機能もパワーアシストのみで、伸縮と収縮による移動や触手のように手足の代わりにもならない。
「急造品とはスペックが違うのよ。当たり前でしょ」
さも当然の如く衛利は言った直後、急に二人は同じ方向にライフルを向ける。
「なに?」
「撃ってきた」
二人がジャンプしてその場から離れる。数秒後ペンのように小さなロケット弾が道路に着弾し、ロケット内部で起きた反応によって巨大な火球と衝撃が発生する。
≪どうした!≫
柿種が訪ねると全員に【知恵の実】からデータ提供される。
【歩兵が携行可能な小型の化学反応炸裂弾と予測。回避及び迎撃を】
「もう一波来る」
煙の隙間から二人の周辺に向けて多数のロケット弾幕が殺到する。ユリアスは回避しようとするが、衛利を見ると動かずにその場でパワーライフルで一発ずつ落としていく。
「何やってるの!なぜ避けようと……」
そこまで言ってからはっとして振り返ると、その後ろには病院がある。
「ああ。もう!」
ユリアスは衛利の傍に駆け寄り、衛利と生体CPUとのリンクを開始する。
「気が利くじゃない」
「……」
脳内の火器管制システムを共有し、衛利とユリアス互いの狙うロケットが被ることはなく効率的な迎撃が行われ。共有している感覚が合わさり分析された正確なターゲティングは、二人の狙いを更に正確な物へと洗練していく。
【全ロケット迎撃】
息をついた二人はすぐさま散開して目の前に現れた「ソレ」に目を向ける。
オレンジのように明るい赤色の装甲に覆われた大柄の全身外骨格。ロケットが装填されていたランチャーを放り投げると。両腕に仕込まれていた爪を伸ばす。その顔は狼のように鼻が高く、牙のような幾多の赤い光を放つセンサーがその口から顎の奥まで配置されており。まるで口が裂け赤い血がしたたかるかのようだ。
「時代錯誤の武器で何が」
衛利がパワーライフルを構えると赤い狼は爪の先を向けた。
【退避。高エネルギーの指向を確認】
爪が黄金に光ったかと思うと、ビームが飛びのいた衛利の居た場所を文字通り切り裂いていた。
(あ、やばい)
衛利はすぐさま撃ち返すがパワーライフルの弾道は、狼の発生させた力場に退けられ宙をかすめる。
「それだけの電力を使い続けるなら。すぐに尽きるはず!」
ユリアスの銃撃を全身のイオンスラスターで滑走して避ける狼。更に狙いを定めようとした時だった。
(ユリアス)
「……セルゲイ?」
すぐさま物陰に隠したユリアスが辺りを見回す。それは狼の後ろから近づくトラックから発せらていた。
(聞こえているはずだ。あの時の事は謝る。だから)
「ユリアス!!」
衛利の一喝に我に返る。直後に狼は衛利へと向けて跳躍すると爪を黄金に輝かせ、デフォルトブレードを左手で引き抜いて受け止める衛利がすぐさま飛び退いた。
「んッ!」
デフォルトブレードが高熱で赤みを帯び、形状が少しだけゆがむ。歯を食いしばながらパワーライフルで反撃を行う。リアルタイムで情報を交換しているユリアスは、表示される衛利の負傷状態の通知が深刻なものとなっていることを伝えた。
元より骨折している左腕を、アイギスで無理やり動かしながら今まで激しく動いていたのだから。その状態は先ほどの受け止めで決壊するように悪化していく。更に長時間のアクロバティックな動きが衛利の内蔵すら負傷させていた。
「ユリアス」
衛利から向き直ると目の前に止まってるトラックから降りてきたセルゲイ。それを見ると無防備に立ち尽くすユリアスはパワーライフルを構える事もない。
「あの時は、お前を接続から切ってしまったのは。あれの存在を表に知られたくなかったからだ。決して見捨てたわけではない」
「……」
セルゲイの言葉に嘘はない。ESP能力でそれは分かっている。だが、問題はそうではない。
「私は……」
「さぁ行こう。私たちはもうここに居る必要はない。ウラジオストクまで帰ろう」
「……」
彼女に差し出された手が。周囲の炎にゆらゆらと照らされている。
……
何度かの狼の斬撃に耐えるが、衛利のとうに限界を超えていた左腕からゆがみきったデフォルトブレードをはじくには十分だった。弾け飛ばした時に衛利は少しだけ意識が飛びかけ隙を作ってしまった。
「しま……」
だが狼は攻撃せずに飛び退いて離れると直後に鉄パイプが地面に突き刺さる。その行為に思い当たる奴は一人(?)しかいない。
「ずいぶんとお疲れのようだ」
地面に降り立った首なしの汎用フレームは鉄パイプを引き抜いた。
「何者なの? 本当に」
「知る必要ない。今は忙しいだろう?」
二人の掛け合いの間に狼が再び襲い掛かる。フレームマンは爪を寸でのところで避けながら鉄パイプを先っぽを斜めに切断させて尖らせる。
「意外か? 今度は気をつけろよ」
狼の懐に入り込んだフレームマンは、尖った鉄パイプで思いっきり首を狙い。狼は左に顔を背けて避けようとしたが避けきれずに首の右側に深々と突き刺さる。狼がゆらりと体が崩れそうになるも膝をついて踏ん張る。その姿にも関わらず、フレームマンは無慈悲にも鉄パイプを引き抜くと鮮血が噴出した。
狼は更に体をよろめかせながら跳躍して引いていく。
「待て!」
衛利が踏み出そうとするのをフレームマンが手で制する。
「あいつはもう駄目だ。それよりあそこにいる娘か。この火事をどうにかした方がいいぞ」
「でも……」
「それに。体をだましてきたツケがそろそろ体に現れる頃だ。半日近くは流石に強化検体でもまずい」
衛利の視界が更にぼやけたような気がした。先ほどから気が張りすぎて本人は全く気が付かなかったが、少し油断すると意識が持っていかれそうになる。
「ユリアス……」
だが、ここで倒れるわけにはいかず衛利はユリアスの方に向き直ると。ユリアスはセルゲイにパワーライフルを向けていた。
……
「……ぜ」
声が震えている。それでもかまわなかった。
その謎が解けても何も変わらない。それでもかまわなかった。
「なぜですか!セルゲイ!」
鬼気迫る声でユリアスは叫び、問い詰めた。「病室にいなかった」。セルゲイの発言はユリアスに悪い展開を予測させた。更に質問した答えは、「そこに居た老婆は殺した」だった。
「なぜ殺した!」
セルゲイは動じずに答えた。
「おれたちは知られてはいけないからだ」
「そんな答えは聞きたいんじゃない!」
パワーライフルを向けると部下が一斉にユリアスに銃を向けるとセルゲイは左手を挙げて制する。
「しかたのないこともある。お前をORIGINから切断してしまったように」
「いいえ!あの人は無害でした!殺す必要なんて全くなかったはずなのに!消えて!私が冷静なうちに!」
「……」
そこまで言われると同時に狼が撤退していくのを見たセルゲイは、すぐさまトラックに乗り込むと煙幕をたいて燃え盛る炎の中へと消えていった。
「クソ!クソ!クソ!」
行き場の失くした感情をこめてパワーライフルを上空へ向けて乱射する。
「やめろ!」
衛利がユリアスに叫ぶと涙目になり荒い息で衛利に顔を向ける。
「もういやだ!なんでこうなるの? 私はただ……」
「落ち着きなさい。まだやることがある」
「うるさい!これ以上苦しませないで。あなたさえいなければ!」
「黙れ白ガキ!」
衛利のビンタがユリアスの頬を打つ。すぐさま睨みつけようと衛利に顔を合わせるが。その目は殺意満ち溢れ、ユリアスは尻込みしてしまう。
「今はやることがあるでしょ。病院に収まりきれなかった人がまだ大勢いるのに」
「無理よ。どうやってあの火事を止めるの?」
ビンタで少しだけ冷静になったユリアスが突っ込みを入れると、答えようとする衛利の口から胃酸の混じった大量の血を吐き出した。
「ちょ、あなた」
崩れそうになる衛利をとっさに支えるユリアス。それでも衛利はそれを押し退けて自立する。険しい表情には変わりないが。その声は穏やかだった。
「まだ手はあるけど。私ひとりじゃできない。だから……」
―――
病院の最上階廊下。眺めのいいここからは多くの人が、遠く衛利たちの戦いがよく見えていた。被検体3番もそのうちの一人だった。
「生体機兵か」
ボックスの研究室に並べられたカプセルを思い浮かべ、それから自身の真後ろの病室のアギを見る。安らかな寝顔で寝ている少女をしばらく眺めると。3番は屋上へと去っていった。




