集結へ
ジェネレーターがうなりをあげてユリアスの体を宙へと押し上げる。疑似筋力繊維がパワーアシストした両腕は軽々とパワーライフルを振り回し、力場によってあらゆる銃弾は明後日の方向に飛んでいく。
「すごい……」
数カ月前にボックスの作った外骨格「雷神」をまとった時には、ジェネレーターを攻撃に振り分けていた。不必要なほどの威力と引き換えに機動性と防御性能はお粗末だった。と言うのがユリアスの感想となって現れた。だが、その便利さとは引き換えに稼働時間はあまりに少ない。
地面を滑走しながら一体の防人を引き潰すと、クイックターンをしてパワーライフルの銃口を別の防人に向ける。さすがの装甲もこれの前では形無しになってしまう。
ずいぶんやったはずとユリアスは【知恵の実】に確認を取る。
「あとどのくらい?」
【残敵:39体です。自機周辺には敵影はありません】
自分が南の敵を殲滅したのだからすぐさまその原因に検討がつく。
「なんで? 何をやってんの!」
北側の衛利が全く敵を倒せていない。原因は不明だが、手を出せないのか。重傷を負ったのかさてはくたばったか。
「まだ決着がついてないのに」
歯を食いしばりすぐさま北側へと飛翔する。
……
衛利は燃える建物すれすれを疑似筋力繊維での移動で駆け抜ける。その後ろをマテリアルハザードの獣が追ってくる。
≪そんな馬鹿な。マテリアルハザードをなんで羽今達が使っているんだ?≫
「それにハザードコアがありません。確かめないと」
≪待て!コアがなければ、あれが一撃では死なない可能性がある。反撃を食らったら≫
「じゃあどうしろと」
≪動きを止める。その間にやれ≫
どうするのか衛利が疑問に思うと、空から小型爆撃ドローンが急降下爆撃でグレネードをさく裂させる。それに吹き飛んだ獣が宙を舞った瞬間。右手のコインガンから手を放し、左腰にマウントされたデフォルトブレードが疑似筋力繊維によって衛利の手元へと伸ばされる。
「なるほど」
そう言って疑似筋力繊維を自身の進路とは逆に射出して急ブレーキ。普通の人間では体を壊す慣性が働くが衛利のしなやかな四肢と的確な姿勢制御。イオンスラスターの補助はそれすらもしのいでしまう。
反転した衛利が右手に握りしめたデフォルトブレードが情けない恰好で宙を舞い始めた獣を腹から一刀両断する。すると案外あっさりとコアがなくなったかのようにバラバラに砕け散る。
「無力化しました」
≪了解した。残りもくるぞ≫
4体の獣が同時にやってくる。二体と二体で両サイドに別れると、左右から4体バラバラのタイミングでとびかかる。バラバラだがデフォルトブレードの一閃で同時に薙ぎ払われない程度で、ほぼ同時と言っても相違ない。
完璧な連携攻撃にさすがの衛利も防ぎきることは出来ない。それにも衛利は落ち着き払ってむしろ余裕から頬が少しあがる。
「完全と言うのはね。相手の同意がなければ成り立たないモノよ」
避けるのではなく。むしろ踏み込んだ。相手の仕掛けるタイミングがこちらに不利なら、わざわざ待つ必要などどこにもない。自分が動き自分にとって都合の良いタイミングを相手に押し付けるだけだ。
踏み込んだ衛利の一閃は4体を同時に一振りの内に両断する。獣はすぐさま元の球体の塊に戻る。
「時間を稼がれたか」
すぐ後ろには病院の建物が近くに見える。急いで防人を抑えなければならない。そう思った瞬間、衛利の上空を通り過ぎる影。
「あいつ……」
衛利は焦燥の内に各地で銃撃音が聞こえ衛利の周りの防人の反応が消えていく。衛利はユリアスの反対方向へと向かい、残りの防人も建物を押しつぶそうとする。だが、それを仕切る前にユリアスのパワーライフルが敵を全滅させていた。
病院に続く大通りのど真ん中に立つ衛利。それを見下げながら徐々に降下していくユリアス。そして相対する二人は互いを見つめあう。
「……!」
ユリアスが突如パワーライフルを衛利へと向けると。すぐさまそれは火をふいた。
―――
ベッドの中でアギは目を覚ましてあたりを見渡す。どこかの施設の中で電気がなく薄暗いが、窓から漏れる光で外はとても明るい。
「あれ? 衛利様?」
傍に居て気づいたナムルはボトルの水を差し出した。
「いるかい?」
アギはすぐうなづいてから一気飲みでボトルを飲み干した。
「ありがとう。……あれ? おじさん誰?」
「私はナムルだ。ここの人たちの代表をやっている」
「だいひょう?」
アギは聞きなれない言葉に首をかしげる。ナムルは穏やかな顔で代表がどのようなものかを説明し始める。
「ここに居る人たちの言いたいことを、私が橋の向こう側の人たちに言うんだ。もっと食べ物が欲しいとか、電気が欲しいとか」
「じゃあおじさんに頼んだら。あっちはなんでもくれるの?」
「いや。全部ではないけど。なるべくここの人たちに良い暮らしをさせてあげたいんだ」
それにアギは特に興味もないようにふーんっと言って流すと、窓から見える炎を眺めた。
「あれで食べ物を焼いたらおいしくなるんだよ」
アギの言葉にナムルは困惑しながらも、火を通した料理にありつけない人々の現状を改めて痛感した。子供ですら火がどんなものかを忘れつつあるのだから。
「もっとたくさん食べたいなぁ」
「分かった。……分かったよ。もし私が向こうの人たちとお話ししたら。きっと暖かいご飯が毎日食べられるようにお願いしてみるよ」
そんな二人のやり取りを廊下から見つめる視線は、虎視眈々と時を待っていた。
―――
「生体機兵はどうなっている?」
ハッキングしたトラックでセルゲイは部隊の人間と共にボックスに通信を取っていた。
≪飛翔体を追って移動中だ。素晴らしいな。もう難民居住区まで到達した≫
自分の作品の性能に感心するボックス。
≪苦労して作ったんだよ。さすがにアイギスのように疑似筋力繊維を全身に使うなんて贅沢も出来ないからね。でも、素晴らしい程の量産性を獲得しているよ≫
「いつか全世界の兵士があんなものを纏うのか……」
≪あんなものとは失礼だね。本格的な戦闘用外骨格は、戦力の無人化と人海戦術の復活によって廃れた少数精鋭思想の産物。つまり最も個人が輝ける可能性が再び復活したのだよ≫
「流石に劇薬まみれにされて、内蔵と機械を交換するのは嫌だな」
≪仕方がないさ。でも「彼」は乗り気だよ。まぁ「彼女」の方を先に誘ってから彼を連れてきたのだから。まるで【創世記】だね≫
「それで。あんたがヘビってわけか?」
≪別に、私は彼女に復讐の機会を提案しただけだ。彼女は素晴らしい才能があったからね。同時に彼も我々に付いた。彼は才能はなかったが、それだけ凡夫がどれほど強くなるのかも気になったからね≫
橋が見えてくるとセルゲイは端末に映るドローン映像から生体機兵の様子をモニターする。
……
建物から建物に飛び移る真っ赤な光沢。重々しい着地音とは裏腹に軽い足取りで跳躍を繰り返す。
体は人間の形をしているが、その頭部は鼻が突き出てまるでオオカミのような風貌。両腕に収納されている合金の爪が金色に光る。右手には長方形の専用の武器システムを備え、左手がそれを支えている。
【ORIGINシステムリンク。ジェネレーター出力上昇】
システムが起動すると頭部と体の節々から赤い光が溢れてくる。同時に装着者が視界の端に病院へ続く路地を捉え、二人の人間の存在を確認した。
【目標確認。鹵獲作戦を開始】
そして先ほどとは比べ物にならない脚力で跳躍をはじめる。赤い光が尾を引きながらそこへ向かった。




