↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/82

追撃と孤独



 難民居住区の道路をラングレーは走り抜ける。だが、しばらくすると電磁ホイール特有の放出音が遠く後ろから響いてきた。


「もう追ってきたか」


 衛利の後ろには4輪の巨大電磁ホイールが浮かばせるキャノピーの操縦席のボディと両脇に武装コンテナを繋げた特殊戦闘車両、電磁キャリアー「XB-1」が追ってきていた。電磁ホイールの大出力によって時には着地して建物の一部を蹴散らし、時には空に飛び上がり構造物の上から飛び降りたりとまさに縦横無尽に衛利を追跡する。


 ナムルと合流する前に排除する必要があると判断した衛利は、すぐさまラングレーを人気のある街から稼働を停止している工業地帯へと向ける。あれの脅威はプライベートフォースに幼少から身を置いていた衛利は良く知っている。


「柿種さん。ナムル氏としばらく合流できそうにありません。電磁キャリアーに追われています」


≪XB-1? 街中で奴ら見境なしか≫


 柿種の怒りが声からにじみ出る。プライベートフォースの遺産を更に引っ張ってきたのも彼の逆鱗に触れた。


≪暴政の復活だ≫


「人気のないところにひきつけます。そこでなら暴れても構わないでしょう?」


≪まさか。電磁キャリアー相手だぞ?≫


「増援もないでしょ? だったら倒すしかありません」


 両サイドのウェポンコンテナが開き臨戦態勢に入る電磁キャリアー。だが撃ってくる気配はない。その目的を衛利はすぐさま気が付いた。


「柿種さん。ナムル氏を追っている部隊はまだありますか?」


≪ああ。3小隊ほど捜索に回っているらしい≫


「電磁キャリアーは私とナムル氏を分断しようとしています。早めに決着をつけないと」


 衛利は脳波感応に集中する。周囲の作業場や工場に人の脳波はない。XB-1は遠隔で操作されているのか脳波を感じることが出来ない。


【XBー1上部装甲からの攻撃が有効】


 ラングレーから飛び降りビードローンを展開するとコインガンを二丁引き抜き。かかとから疑似筋力繊維を射出、地面を跳躍し一回転して工場の屋根に着地する。電磁キャリアーも出力を上げて屋根の高度まで上がろうとするが、その上部にコインガン最大出力の連射が全弾着弾する。


「ちっ」


 衛利は舌打ちをしながら身を隠す。電磁キャリアーは何事もなかったかのようにウィリーで機体を上へ傾けると、開いたウェポンコンテナからレーザー砲台をむき出しにしていた。紫に発光する二本の光線が衛利の居た場所を通り抜ける。


 攻撃の当たった構造体は無事。だが、そこにあった水分はすべて蒸発していた。有機体に致命的な熱を与えるこの殺傷兵器はいくらアイギスを着ているからと言って防げる代物ではない。


「コインガンが利かなかった……」


 衛利は珍しく【知恵の実】の助言が外れたことに動揺していた。利府里司徒の反乱から【知恵の実】の情報更新数は著しく低下した。利府里司徒が一番【知恵の実】にとって多くの経験を提供する優良なユーザーだったのだ。


 そして衛利はアイギスの量子スキャン機能をアクティブにする。それで改めてXB-1に似た何かの正体を探り始めた。


(バッテリーの減りが激しいからあまり使いたくないけど)


 壁越しに敵を捉える。アイギスに備わった量子探知によって物体を透過した不可視の光が接触したあらゆる物体をアイギスに伝え。アイギスは光が感知した物体を原子レベルからデータ内で再構築する。要は被写体を外見から中身まで映し出すカメラである。


(ジェネレーター出力向上と装甲材質の改変。既存の物からモビルマテリアルへの変換による装甲の硬質化と再形成能力の付与?)


【情報更新。対象をXB-1の改良型と認知】


 衛利はデフォルトブレードを手に取った。モビルマテリアルから成る物体は【知恵の実】がコントロール権を付与されて材質を操っている。だが、人間管理であるデフォルトブレードは例え正規の権限でのモビルマテリアルだろうと接続を切断され、モビルマテリアルを物言わぬ未登録状態(デフォルト)にしてしまう。


 普段は悪意ある変異を命令するマテリアルハザードやハザードコアの無効化に使っているが。この剣は例えどれほど人工知能が優れていようと人間こそが万物の支配者である証なのだ。


 黒衣の中にある手りゅう弾の一つを投げると弾けて周囲一帯を煙が包む。高度を上げるXB-1改が衛利を捉える前に衛利はすぐさまデフォルトブレードを構えて飛び出し、効果の高い切り口を設定していく。


 奇襲を受けたXB-1は片方のコンテナが切り落とされバランスを失う。衛利は落下しながらコインガンを連射し電磁ホイールを平等に傷つけていくと一つが壊れ、機体を水平に保とうとバランサーが働き残された3つの出力と負荷が上がった。


「落ちろ!」


 思わず衛利が叫ぶ共に全ての電磁ホイールが爆発、火花と煙を吹きながらXB-1は地面に落下した。落下した衝撃で地面のコンクリートがひび割れ、機体からじわじわと煙があがる。


≪衛利!XB-1はこの一台だけじゃない!もう一台向かってきてる≫


「……了解」


 手りゅう弾。爆発、煙幕、閃光を選択して使える万能型とコインガンの残り弾数、それからデフォルトブレードも確認する。弾数は豊富で刃こぼれはない。いくら結合入力を解除しても切れ味がなければモビルマテリアルの物体を断つことは出来ないからだ。


「いくら戦うために生み出されたとは言え」


 呆れた衛利は目を閉じると周囲を索敵しているビードローンの視界が瞼の裏、もとい視神経に映し出される。建物の上を低空で飛ぶもう一台のXB-1はまっすぐこちらへと向かってくる。


 もう一度迎撃するために工場内へとラングレーを連れて走ると。到着したXB-1から音声が聞こえた。その声はメディア演説で聞いた奈須玖の声と一致していた。


「強化検体2番!これ以上の作戦の妨害は、いくら治安に貢献してきた実績があっても許されるものではない。大人しく武装を解除し投降しろ!」


「何を思えば」


 衛利はビードローンからの視界をもらいながらXB-1の動向を伺う。しばらく工場の上を旋回しここにはいないか、返答なしと判断したのか高度を徐々に上げ始める。


「何を?」


 もう一度量子スキャンを実行しようとするが工場内に隠れる衛利と上空のXB-1との距離が離れすぎており範囲が届かない。その時衛利の眼は見開かれる。ビードローンの視界にはXB-1のウェポンコンテナ丸々一つ分まで敷き詰めた小型爆弾が工場を中心に投下されたのだ。


(やばい)


 すぐさま身を隠せる場所を探し、トイレの中へと駆け込むと。


 しばらく目がくらむ閃光と、容易く人体を破壊する衝撃と、無慈悲に物体を変位させる熱が周囲を覆った。高くあがる真っ黒いキノコ雲が巻き上がる。


「あが……」


 細かい瓦礫の中からはいずり出た衛利は左腕に乗った瓦礫を右手で押し出した。周囲には断水から残った水があふれだして炎を遠ざけている。


【アイギスに損害軽微。人体ダメージ左橈骨頭骨折】


 要は左腕が折れた。その先の左手も不自然にビリビリとして動かしにくい。


【左腕神経損傷。緊急措置が必要】


 それはできない相談だ。すでに屋根がなくなり生命反応を探知したXB-1は衛利へと向かってきている。


「くそったれ」


 左腕を右手で腹に押し付けると、アイギスの疑似筋力繊維は接触した左腕と腹部とで絡まり固定する。右腕だけになった衛利は左肩の疑似筋力繊維を伸ばすと腕のように形成し、動きを確認して自嘲する。


(気持ち悪い)


 まるでタコだ。自身の腕が使えなくなっても自分はこうやって戦い続けられる。


(でも)


 疑似腕がデフォルトブレードを手に取ると右手で手りゅう弾を手に取り足元に落とす。センサー類を通さない煙がたかれて見失ったXB-1は先ほどの反省から高度を下げて獲物を探す。


(だけど)


 煙から手りゅう弾が放り投げられ閃光と爆風がXB-1をひるませる。更に煙から伸びた疑似筋力繊維の束が射出されXB-1の機体にへばりつく。それが収縮すると衛利が右手に持ったデフォルトブレードを構えながら突撃する。


(それでも)


 キャノピー真ん中の機銃が火をを吹くが両肩の疑似筋力繊維が盛り上がり。その束は硬い糸となって銃弾を弾いて衛利の直撃コースから外していく。だが、衛利が距離を詰めると銃弾をはじくのが難しくなる。


(こうして一人で戦うために、私は生まれた)


 一気に跳躍し射線を避けると機銃を一閃で切り落とす。だが。


【警告。XB-1両コンテナに電力反応】


 XB-1はコンテナの上部から爆撃コンテナ用の小型レーザー砲台を展開すると発射しながら機体を旋回させて周囲を薙ぎ払った。衛利はアイギスの強制動作を発動させてしゃがみこむと内臓と筋肉が悲鳴をあげた。


「あぐ!」


 激痛に声が漏れる。しかし、止まっている暇はない。衛利のしゃがむ角度にXB-1はレーザーを合わせ始めた。もう二、三周で到達する。しかし、体をこれ以上痛めつければナムルへの護衛もままならなくなる。


(どうする……?)


 その問いかけは一瞬で無駄になった。回転するXB-1はレーザーを放つのをやめて高度を上げていく。衛利はすぐさまコインガンを向けるがすぐに気配を感じた場所へ銃口を向ける。工場の壊れかけの鉄骨の上に座る首なしの汎用フレーム。その細見は人間のように片膝を曲げながらもう一方の足をぶらぶらと垂れ下げている。衛利は痛みに耐えながらはっきりした声で話しかけた。


「あなたは?」


「フレームマン。こうして直接会うのは初めてかな?」


 電子音声で放った男の声はかつて下層で交わしたことから覚えている。しかし、謎多い奴に変わりはないし。むしろ回転するXB-1のレーザー照射口のもろい部分を正確に鉄筋を投擲した汎用フレームを油断しない方が無理があった。


 ―――


 ガチャンと音を立ててアパートの扉が閉まる。その直後布団にくるまったアギは目を覚ましてから暗い部屋を見回す。


「あれ? おっちゃん?」

あとがき解説

XB-1(試作B型―1):電磁ホイールの軍事利用を目的とした試作兵器。電磁ホイールが作り出す強力な磁場による浮遊と推力を利用し不整地でもどこでも対応できる。

ただし。燃費の悪さとコンセプトが従来のヘリコプターや装甲車、戦車等既存兵器でも十分だったため売れず商品化にこぎつけることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。