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脱出

 …


 ……


 ………


 ・メモ:遺伝子強化検体の増産計画関連


 ※1 遺伝子強化検体1番の反省と2番の育成方針


 ESP母体から出生した遺伝子強化検体1番は順調に成長している。


 特に【知恵の実】と幹細胞が密接に繋がった特殊な臓器を形成した1番は3年で身体が成人手前まで成長する驚異的な成長を遂げた。


 身体の能力は前回オリンピックのあらゆる金メダル記録の+20%の身体能力と、幼少から青年まで特有の感情の起伏は過ぎ去り。どのようなシチュエーションにも理性的な判断を下す理想的な性能を発揮している。


 ESP能力(思考言語読み取り)も申し分なく。多数の人間が居る中、尋問なしでテロリストのみを判別、殺傷し。遠征でも1番に指揮を任せた小隊の損害は他の部隊より遥かに軽微である。


 性能面で見ればこの計画は全くの成功だと利府里博士からも報告されている。


 しかし、懸念も存在する。1番は【知恵の実】に存在しないでデータに異常な興味を示した。顕著な例は食人行為である。戦闘で発生した引き取り手のいない死体の一部を持ち帰り調理して食していた。


 美味な食し方。人間由来のたんぱく質の無害化。レパートリーの開拓。彼の「データ収集」は多くの人間に目撃され。利府里博士から注意されるも「【知恵の実】に知らない事は許されない。更新が必要である」と抗弁し現在でもその行動をやめる気配はない。【知恵の実】からの1番の脳内観測データには、彼は至って理性的で物事に当たっていると診断される。


 1番の異常な行動を踏まえ。現在ESP母体が妊娠している2番には「急変臓器」の廃止と【知恵の実】の活用の段階的な開放によって一般的な人間性と価値観の獲得を方針とする。


 ※2 遺伝子強化検体2番の成長と利用方法の立案


 遺伝子強化検体2番はその成長を一般的な人から外れることなく利府里博士と共に生活を送っている。1番は2番の存在に興味を示し、2番の人間的な人格形成に協力を申し出た。所用がない限りは2番と共に利府里博士の用意した家で過ごしている。


 2番が自我を形成し始めた際。1番は的確な教育によって2番の自主学習能力は劇的な成長を遂げ7歳で高校レベルの問題も正答するようになる。2番も1番からの承認欲求を優先し、1番と利府里博士の要求が対立すれば、大方1番への期待に応えるようになる。


 2番が1番の傀儡になる懸念が利府里博士から上がり面会制限かけられる。1番は自身が一番の2番の教育者であり、このプロジェクトには欠かすことが出来ない存在だとイヌモ取締委員会に抗議し、利府里博士の提案は却下される。直後、利府里博士から取締委員会へ極秘に検体を用いた【知恵の実】判断ソフトの拡充計画が申請される。


 増加し続けるビッグデータの前に【知恵の実】の判断ソフトは既に適切な処理の限界を迎えており。一人の人間と接続することで、その人間の価値観と柔軟さを判断ソフトに組み込み幅広い状況に対応が可能となる。取締委員会は最優先課題に対応出来る利府里博士の研究案を可決する。


 ※3 遺伝子強化検体増産計画


 遺伝子強化検体2番が女性だった為、ESP母体は予備として凍結保存が実施される。


 遺伝子強化検体2番は順調に初潮を迎え、卵子、子宮に異常は見られず16歳を目安に「【知恵の実】との完全同調によるコントロール実験」を行う事が決定する。検体自身はデータ内にある多数の記憶の混濁によって自我を消失し、判断ソフトは2番の価値判断を基盤として管理されるようになる。


 不要になった身体を再利用し「遺伝子強化検体の増産」の具体的なスケジュールを利府里博士が提出。2番の身体の耐久性と「胎児成長促進薬品」の投与で、10年で20体の検体を生産することが可能。最終的には50体の生産を目指す。これは「2型計画」呼称される。


 2型第1号の精子提供者として遺伝子強化検体1番が打診されるが、1番は近親相姦による子供の異常の懸念と「急変臓器」の影響で生殖機能に障害があることを過去のデータを基に自己申告し提供を拒否。

(ただし。彼の言い分である過去のデータは1番が体内を操作し虚偽のデータを送ったと言う可能性は否定できない。)


 1番は打診があった際に2番のあらゆる処置の反対を利府里博士に提案する。しかし、取締委員会にも決定事項が承認されたため覆す理由がないと伝えられ退けられた。


 後日、取締委員会に「2番へのあらゆる処置の停止」について1番は陳述を希望するが取締委員会はこれを拒否、2番への処置について予定変更は一切ないと通知する。


 ………


 ……


 …


【全生体CPUリンク。……遺伝子強化検体2番のアクセスが拒否されました。難民居住区内にある生体CPUからの目撃情報を統合。ナムルの潜伏地の予測終了。警察機構へと通達】


 ―――


 潜伏している部屋の内部は一つの知らせによって険悪な空気が漂っていた。


「外にスポットドローンが? まさかつけられたのか!」


 ナムルの側近の一人が衛利を睨みつける。衛利はすぐさま問いただす。


「次のセーフゾーンはどこになりますか? 奴らが来る前に移動しましょう」


 側近達は衛利に銃を向けて威嚇した。衛利は至って冷静な態度を崩さない。


「何のつもり?」


「お前たち邦人はいつもそうだ。希望を持たせておいてすぐに不意にする。俺たちはただ……」


「やめないか!」


 ナムルの一喝によって全員の視線が集まる。彼は穏やかな声で言った。


「私たちにはチャンスがあった。ミングが起こした蜂起に加担すれば。もしかしたら我々も穏やかとはいかないが自分の生き方を決められる自由があったかもしれない。だが、我々はそれを良しとしなかった。我々の選んだ道を閉ざしてはならない。もう一度彼らを信用しよう」


 理想論を超えて妄想とも言える考え。それでも衛利は黙する。ナムルの脳波は決して虚偽や建前を示してはいない。彼は本気で難民と邦人が融和出来ると考えている。


「それに邦人だって一枚岩ではない。そうだろう?」


「はい」


 衛利はうなづいて答えた。それから困った顔をしたナムルは次のセーフゾーンはないと衛利に告げ、発見されればその場その場で逃走劇を行う必要があると告げられた。


 ……


 スポットドローンがアパートの一室の窓を監視している。その透視機能の前にはカーテンの意味はなく部屋の中にいる全員を捉えることが出来た。


 その間に反対のアパートの空にはガンシップが外装に張り付く防人を降下させるために高度を下げながら接近していく。作戦開始のカウントダウンが始まった、その時。スポットドローンに小さな機械の虫が取りついた。


 ドローンの外装をレーザーカッターのアゴで食い破り中に侵入しては尻の先から出したトゲを突き刺すと高速で振動させた。それはパーツの結合を弱め精密機器を破壊。スポットドローンは機能を停止し地上に落下する。


 落下するドローンから抜け出すと、その鉄の体を夕焼けが照らす。蜂を模した彼らは次の指示まで散開し視界を確保しにいく。


 一瞬スポットドローンによる監視がなくなり、防人とガンシップは窓方向からの視界を失う。予備のドローンがカバーに向かわせたが、それによって窓方面から真上に投擲された物体を見落とした。


『攻撃の恐れ有。降下判断再考を願う』


≪コントローラー回答:再考の必要なし。作戦を続行せよ≫


 ガンシップはそのまま高度を下げ防人がロープから降り始め、もうすぐ着地しそうな時だった。


 ガンシップのローターの真上に落下した手りゅう弾がさく裂し墜落。防人の数体を押しつぶし。難を逃れた3体の防人はアパート近くの建物に潜み周囲を捜索する。


 視界を担保するドローンが原因不明の攻撃で次々と撃墜されていく。人間なら恐慌状態になってもおかしくないが、機械の兵士は恐怖も感情もなく少なくなっていく判断材料と事前情報を基に任務を遂行せんと、一糸乱れぬ動きで縦隊を作りそれぞれ別方向に銃口を向けて前進を開始する。


「ワン!ワン!」


 アパートの屋上に現れたラングレーが現れて吠えると、防人たちは一斉射撃を浴びせる。


「きゃひーん」


 ラングレーはすぐさま射線をさえぎるように引っ込んだ。陽動と判断し再び銃口を広げながら防人は前進すると。またラングレーが飛び出す。コントローラーによって飛び道具を持っていないラングレーは脅威と思われず、無視するように入力されると防人はラングレーを無視して進む。


 だが、ラングレーの口が青白く光り衝撃波が防人に向かって発射される。それを飛びのいて避ける防人は近くの構造物に身を隠して応射する。ラングレーは屋上から飛び出しながら狙いを引き受ける。


 地面に降りたラングレーはすぐさま建物の陰に隠れる。そこに銃口を合わせながら近づく防人を手前の陰に潜んでいた衛利は見逃さない。


 1体目の持っていたライフルが切り落とされ。衛利はデフォルトブレードを振った勢いそのままに2体目のライフルに投げつけて破壊すると、3体目との間に1体目を置いた。

 

 フレンドリーファイヤーを恐れ3体目の発砲が遅れる。1体目は大きく体を反らして射線を作るが、それより早く衛利のコインガンが3体目のライフルの銃口を射撃していた。


 遠距離武器を失った防人はそれぞれ籠手の形をした部品から振動ブレードをスライドさせて衛利に襲い掛かる。衛利の近くの1体目を横からラングレー前足で殴りつけて転倒させる。


 2体目の攻撃を避けた衛利は疑似筋力繊維を両手や腰から延ばして2体目に絡みつけると、がんじがらめにパーツの中に侵入させ内部から動力部を破壊する。最後の3体目に目を向けると。3体目は同じ構えのまま動かなくなっていた。


「ありがとうシックスアイ。十分よ」


 3体目のパーツの隙間から出てきた無数の機械の蜂(シックスアイ)は一斉に飛び上がり衛利は左肩のマントをあげると、アイギスの左背中に設置された無数の穴が開いたキャリアーホルスターへとスムーズに入り込んでいく。


「ナムルは逃げ切れたか。私たちも行きましょうラングレー」


「ワン」


 防人の動力部品を前足で押しつぶしていたラングレーは意図を察して電磁ホイールを展開、変形しバイク状態になり飛び乗った衛利はすぐさまそこから離脱した。


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