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誰もが人のために

 夕暮れに差し掛かった頃。光源を失った大半の人は街灯や設置された公園に設置されてたライトの周囲を囲い出していた。栄養スティックを片手にある人は星を眺め、ある人はテントを張り家族とともに過ごす。家のほとんどは断水と停電し、かつて富める物も貧しかったものも等しく寝泊りを共にしている。


 人が光に集いだす時、人目のつかない建物の陰で黒い影が静かに疾走する。


「ラングレー。このあたりね」


 アイギスの上に漆黒のマントを羽織った衛利は小型バイクから飛び降りるとバイクはランディングギアもとい四つ足で速度を殺しながら胸と腹に電磁ホイールを引き込んだ。疑似筋力繊維とモビルマテリアルの応用した新ボディでもラングレーはすぐに適応している。


≪もうすぐ匿われている支持者の家だ≫


 衛利の様子をモニタリングしている柿種から通信が入る。


「あの襲撃。誰が犯人なのかまだ分からないんですよね?」


≪まだ捜査中だ。警察機構の人間の大半が寝耳に水で混乱している≫


「犯人の目星ぐらいはついたんです?」


≪マテリアルハザードでテロを起こしている連中と言うのは分かった≫


「なぜです?」


≪迫撃砲を発射した車両全てからマテリアルハザードが見つかった。機能はただ車両の天井を発射と同時に引っぺがし、人が乗ってきた形跡もないから車の運転にも使われたと思われる≫


「下層が絡んでいるならすぐにでも調査隊を派遣すべきなのに」


≪警察機構にはすでにその力はない。はっきり言うとお前の力がないと異常事態に何も対応できないんだ≫


 衛利は黙り込んでラングレーとともに建物の影を歩く。ちょうどある一軒家に脳波を捕捉し集中するとそれが数人の人間であることは分かる。皆、非常に緊張しているようだ。


「柿種さん。潜伏していると思われる一室に脳波反応がありますので確認願います」


≪分かった。連絡して確認する≫


 衛利の視覚情報を生体CPUから柿種へと送信する。並ぶ4階建ての集合住宅の一室。集合住宅にどの部屋からも明かりも人気もないがESP能力者の前にはすぐに見つかってしまう。


≪あたりだ。向かってくれ≫


 ほどなくして柿種が確認すると衛利は外壁を易々と駆け上がり扉をノックする。扉が開くと屈強な男が慎重に周りを伺いながら尋ねた。


「お前が柿種の使者か?」


「ええ。利府里衛利です」


「利府里?」


 男は怪訝な顔をするがそれから「入ってくれ」と奥で穏やかな声がした。


「……入れ」


 衛利は部屋に入るとキッチンと奥に1部屋の1Kに4人ほどの人間がおり、その一人にナムルが居た。カーテンは締め切られナムルも顔には出さないが緊張に皆ピリピリしていた。


「柿種余里独立捜査官から派遣されました。利府里衛利です」


 自己紹介をする衛利にナムルは笑いかけて握手を差し出した。


「その道に着く者に君の事を知らない人間は少ないよ。君たち兄妹は有名だからね」


 その手を握る衛利にナムルはつづけた。


「例え政権や政体が変わったところでイヌモの根本がすぐに変わるわけではない。分かっているさ」


「今、柿種が襲撃の真犯人を追っています。同時に執政員の作戦を中止するよう求めています」


「……そうだね。それが通ればいいのだけどね」


「気を落とされないでください。事態が好転するまでは私が御身をお守りします」


「ああ、よろしく頼むよ」


 ―――


 難民区と邦人区を接続する橋の中央には装甲車を改造した指揮車両が陣取っていた。奈須玖はその中でナムル逮捕作戦の指揮にあたっていた。


≪A班。目標は自宅に姿がありません≫


≪B班。事務所にもナムルは発見できず≫


≪C班。市街地に展開しているドローン集団に該当なし≫


「探せ。遠くに行ったとは考えにくいからな」


 奈須玖は腕組みをしてモニターを見回しながら苛立つ。


「こんなにも行動が早い。柿種め、リークしよったな」


 次の策を考えようと難民居住区マップを覗いた時、羽今から連絡が入り手持ちの端末で奈須玖はそれを受ける。


 映し出されるのは電動車いすに乗った老人。その眼光はよどみ、スキンヘッドの頭にサイボーグ化特有の黒い接続線が走っている。


≪作戦は順調かね? 執政員≫


「首相申し訳ございません。すでに奴は姿を消しておりました」


 その報告に羽今はただ「そうか」と喜びも落胆もしない様子だった。


≪間違っても難民共に公的な場での政治的意思を表明させるわけにはいかん。分かっておるな?≫


「分かっております。それに柿種余里もこれ以上難民共との融和等と幻想を抱く連中もどうにかせねばなりますまい」


≪それについてはもう手を打っている。今はナムルを消すことが最優先だ。くれぐれもしくじるなよ≫


「了解」


 通信が切られると奈須玖は指揮車両内に流れる通知とともにレーダー見た。


「来たか」


 車両から出て空を見上げる。薄暮の空を飛ぶ無人のガンシップ。多数の防人が直接機体に取りつき眼下の様子を監視している。ガンシップは元々プライベートフォースが運用していた余り物から拝借したものだ。


「余り物とは気に入らんが」


 それでも今は力になるなら何でも良い。滅亡寸前の国家や敵に媚びる弱い政府もいらない。旧体制のような先進的で腐敗せず敵は断固として叩き潰すことが真の人々の保証に繋がるのだから。


 奈須玖はそれを良しとした。


 ―――


「聞いたよ。ナムルが大変な事になっているそうだね」


 落ちる夕暮れの水平線。それに照らし出される九州新都市の光景。山の中腹にある別荘の書斎の窓から眺めながら二鏡啓二は鋼埼と連絡を取っていた。


≪衛利を行かせています。うまく接触できたようですが事態はまだ見通しが≫


「社長の座に居ればまだどうにかできたはずなんだがね」


 双方沈黙する。今までしてきたことは無駄だったかのように争いは再び始まってしまった。


「プライベートフォースはやりすぎた。だから私の融和政策は支持された。そして私もやりすぎた。だから羽今が支持されている」


≪そんなことはありません。羽今は恐らくプライベートフォースと同じ末路をたどるでしょう。旧体制のような弾圧を望むなら余りに力が足りません≫


「そうだね。故障と見せかけて地下工場を破壊しておいてよかった」


≪はい。しかし、復旧は時間の問題です。完全に力を固める前に羽今達、強硬派をどうにかしなければ≫


「残念ながら私にできる事はない。それに羽今達はあくまで民主的に選ばれた人間だ。民衆が望まない限り羽今を退けただけで終わりではない」


≪はい。……そうだ≫


「何かね?」


≪近々ですけど。そちらに伺おうと思うんです≫


「ほぉ」


 ……


 書斎から出てきた啓二は台所へ向かうと汎用フレームが器用に包丁で食材を切っていた。


【旦那様。戻られましたか】


「仁美の様子を見てくる。外に居るのか?」


【ええ。庭でボール遊びをしておられます】


「ありがとう」


 靴を履いて玄関を出ると木造の家の前に広がる駐車場兼庭の芝生。そこで立ち尽くしてボールを投げる。柴犬を模したロボットが本物同然の動きで仁美の投げたボールをくわえて持っていくとまた投げる。


「仁美」


 啓二が声をかけても反応はない。ただボールを投げて柴犬からもらうだけの動作をずっと繰り返している。


「もうすぐごはん出来るぞ」


 肩に手を乗せると仁美はビクリとして恐る恐る啓二へと振り向いた。


「……おじさん」


「すまない。ごはんがもうすぐ出来るから。おうちに戻ろう」


「……うん」


 朝から日が暮れるまでこの調子で、何もしないときには何もしない。それでも生活を送れるのだから汎用フレームたちには頭が下がる。だが、啓二もこのままでは良いとは思わない。どうにかしなければとならないと望んでいる。


(私もいつまでも生きているわけではないからな)


 日が暮れていく。さてあと何回見られるかとそれを目に焼き付けた。


最近所用があって疲れてしまいます。ペースが維持できるかな。

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