↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/82

運命の分かれ目

行間を開けて見やすくなるか実験です

 快晴の空を飛行機が離陸していくのが到着ロビー手前の廊下の窓から見える。


【モスクワから九州新都市】


 ホログラム掲示板に示された到着ロビーのレーンに続々に人が集まって来る。その中にVIP待遇でまず最初に流れてきた荷物を受け取ったスーツ姿のセルゲイが空港警備の男に呼び止められた。


「すみません。今日はモスクワから?」


「愛を込めて」


 警備員が頷いてからこちらですとセルゲイを先導すると、他の客がゲートから通り抜けていくのを横目にロビーにある扉へと消えた。


 コンクリートで固められた通路に通されセルゲイは胸ポケットから端末を取り出す。


「もう通話は出来るか?」


「はい。構いませんが電波が悪いのでお勧めできませんよ」


「それはどうも」


 廊下の先には地下鉄が存在した。セルゲイは見慣れた景色を歩きながら作業員が忙しそうに大型エレベーターから貨物を列車に搭載作業しているのを見ていた。


 ホームまで降りると警備員はコンテナ車の間に取り付けられた客車へと案内する。


「やぁセルゲイ。わざわざご苦労だったね」


 客車の中から現れたボックスは警備員にチップの紙幣を渡しながらセルゲイを招き寄せた。客車の中は豪華なシャンデリアと赤カーペット、丸テーブルが3つ配置され上品に白いクロスがかかっていた。


「あんな大編隊を寄こしてくれたんだ。ずいぶん大統領はお喜びのようだね」


「北京も情報漏洩を恐れる建前でモスクワへのイヌモの開発成果の共有を渋っていましたからね」


「ロシアの試験型核融合発電と人工知能分野の遅れは深刻だった。米中の独占に漬け込むには丁度いいイベントだったわけだね」


 テーブルの一つに二人はつくと給仕服を着た汎用フレームが注文を取りに来る。


「食事は機内で済ませています。水で結構」


 セルゲイはそう言うとボックスに聞いた。


「そういえばユリアスは」


 ボックスは申し訳なさそうに言った。


「すまない。まだ見つかってないんだ」


「そうですか」


「オリジンから切り離された後にその場を離れたまま行方不明だ。意識を入れた肉体が殺された形跡がないからまだ逃げているはずだ」


 セルゲイは目をつむり両手に肘をついて顎を乗せた。ボックスも居心地悪そうに右手でカメラアイをいじる。


「本部が少し改築するからって外に間借りをしたらこれだ」


「捜索は、継続中ですか?」


「思ったようには捗っていないがね。ユリアスは生体CPUとクラウド情報による【意識超越】の適応者だ。魔人すら成功出来なかったことだ。絶対見つけると約束するよ。ただし……」


「ただし?」


「ここの長であるスフィアは私に良い感情を抱いていないし。後ろ盾だった二鏡ももう社長じゃない。こうやって港や空港から地下へ降りてくる物資や資材も融通が利かなくなってきた。私は孤立無援と言っても良い。実際、君とロシアのパイプがなければイレギュラーとして排除されていたかもしれない」


「なぜスフィアはあなたを邪険に?」


「さぁね。私は研究がしたいがスフィアは下層の勢力を拡大させたいのだろう。私も金食い虫のような気がして気が引けるよ」


 ボックスが自嘲気味に笑うとアナウンスが響く。


【全資材固定完了。5分後発進予定】


「ともかく。今被検体3番を使って探し回っている。もしユリアスがいなくなったとスフィアが知れば全力で回収してくるだろうからな。あいつも結局【ヒューマン2.0】に興味があるんだ」


「被検体3番はもう使えるんですか?」


「君が彼と出会ったのは半年も前だったか。魔人と同じようにこの3年で彼の体は16歳相当にまで成長した。生体CPUでオリジンによる四六時中の教育とシミュレーション。魔人の記憶も一部引き継いでいる比類なきESP戦力だよ。ただし。自在に細胞を変化させるような複雑な臓器はオミットしているがね。今は難民居住区で探りを入れさせている」


 列車は電磁の影響で少し浮くと直接下層へ向けてゆっくり加速し始める。空港や港の地下にある表の監視を一切受けないこの秘密ルートは、難民居住区の苦境に関係なく下層に豊かな物資を供給していた。


 ―――


 9月21日 政治面:独立AI記者「巻月あかり」


 イヌモ政府の議会選挙とほぼ同時期に行われた難民居住区での選挙。難民代表に選ばれたナムリ・ホンズィ議長が居住区各地を訪問しています。


 臨時に警察機構とイヌモ政府のトップであった柿種余里氏が選挙支援を決定し、邦人と難民双方の対立の解消を求めました。ナムル氏の前職は常任裁判員であり自警団や警察機構の腐敗や汚職を強く糾弾してきた実績が、難民の希望を託すにふさわしい人物であると支持を集めました。


 しかし、邦人議会選挙で勝利した羽今首相をはじめとする邦人議会第一党「邦人解放党」は難民統治に厳しい姿勢を崩しておらず、それらを支持する邦人も難民に対する恐怖を拭いきれていません。


 その上蜂起に参加した旧自警団が難民居住区に潜伏していると見られ、難民側選挙会場で融和に反対する勢力の銃乱射事件が8件発生。その死傷者は赤十字発表で140人以上となります。


 ナムリ議長は各地を訪問することで難民支持を一つにまとめ上げ邦人との和解が出来るかどうか今後の手腕が試されます。


 ……


 和風な教会とその前に広がる庭は普段ここに住む孤児達の遊び場だが、今日は子供たちや教会のシスター達が並んでいる。その周りには警察機構から提供された汎用フレームのボディガードがぎこちない動きで固めていた。


 その庭に3台のバンが入って来る。車体が磨かれているが物資の流通を任せられた業者達の乗る高級車と比べると、どこか貧しさを隠し切れない。


 真っ黒いフードコートに身を包み建物の陰から様子を見守る衛利は言った。


「どうしてあんな貧相な車に? あれじゃ狙撃も爆発物も防げませんよ」


 通信先の柿種は応えた。衛利に直接ナムル議長の護衛を依頼し、彼自身も今指令室で汎用フレームの制御や監視ドローンの警戒に当たっている。


≪ナムル議長のスタンスだよ。あの人は昔から警察機構の情報提供員だったがそれに似つかわしくない庶民の味方さ≫


「あの人も警察機構の傀儡なんですか?」


≪そういう面もなくはないが。あの人は正真正銘の紳士だよ。素性も知れているからな≫


 バンが子供達の前で止まると中から現れたのは真っ白い髭と髪が目立つ真っ黒な肌の男、ナムルが現れた。70に達するががっちりとした体格で若く見える。


 にっこり愛想よく子供達に笑いかけながら年配のシスターと握手をすると報道担当者がカメラで撮影を始める。


≪周りに異常はないか?≫


「こちらも今のところ何かが潜んでいる様子はありません」


 半径2kmを探索するドローンと監視衛星のリンクしている衛利は更に周囲の脳波を探知する。今のところ周囲に殺気を放つ脳波はない。


「引き続き警戒します」


≪了解≫


 ……


 3番は透明マントを身に纏い茂みから教会の周囲の様子を伺っていた。


「あのナムルって人。もう少し自分を守る人間の気持ちを考えて欲しいもんだよ」


 今日はボックスがセルゲイを迎えに行っているので通信相手がいない。だが今はナムル議長の刺客の排除がボックスから言い渡された頼み事だ。


 あいにく今日は相棒の対物ライフルはない。普通の人間には扱いきれない代物も、廉価版疑似筋肉繊維で作ったマッスルスーツを搭載したボディアーマーでどうという事もないのだが、ボックスは襲撃以外ダメだと言う。


「まったく。どいつこいつも自分の気持ちを押し付けやがって。実際任務にあたるのは俺なんだぞ」


 そう膨れていると茂みの近くに脳波が近づいた。こちら気づいたわけではないが殺気や警戒でもなく能天気な気分でやってくる。


 ちらりと見ると明るい髪をした赤いワンピースの女の子だった。教会の子供たちは相変わらずナムルと握手をしている。


(孤児院の子か?)


 そう思った瞬間。女の子は茂みに飛びついてきた。


「おわ!」


「今聞こえたよ!そうだよ!アタシ、あそこの孤児院に住んでるの!」


 元気に良い女の子に驚きながら3番はマントの透明化を解除してしまう。まだ茂みの中なので誰にも見られた様子がないようだと3番は安心する。


 それはともかく今目の前の女の子がこちらの事に気づき明確な思考言語も読んだのだ。3番はすぐに頭を働かせた。


「ど、どうしてこんなところに? みんなあっちにいるよ」


「でもあれ、つまらないよ。あの人誰なの?」


「つまらないか……」


 3歳でここまで育った3番には子供の価値判断を理解するのは難しい物があったがなんとか会話が途切れないようにする。


「じゃあ君は何が楽しいと思う?」


「君、じゃないよーアギだよー」


「う、うん。アギちゃんはどういう遊びが好きなの?」


「かくれんぼだよ!いまお兄さんがやってたから見つけてあげたの」


 3番は妙に納得する。そういえばかくれんぼだなこれ。


「じゃあさ。お兄さんと一緒に隠れない? 誰も気づかれないように隠れるって面白いんだ」


「ほんとぉ?」


 首をかしげるアギに3番は腰ポケットに手を入れた。


「ああ、アメちゃんもあるぞ」


「やる!」


 非常食のアメを差し出すとアギは目を輝かせて詰め寄る。その勢いに気おされながらも3番はボックスがなるべくESPを回収するように求めたのを実行に移す。今はナムルの護衛が最優先だが、ここで仲良くなれば以後容易に連れ去る事も出来るだろう。


「隣座る?」


「うん!」


 隣に座ったアギはアメ球を口に含めると身を屈めて息を潜む。誰かが来るわけじゃないのにと呆れて3番が鼻で笑う。するとアギは突然教会を指差した。ナムルと子供たちは既に教会の中へと消えたが、教会のドアから出てくるシスターが庭を見渡しながら出てくる。 


「おっちゃん。シスターリリーだよ。私もどんな人も見つけちゃうけどリリーはもっと人を探すのが得意なんだ」


「お、おっちゃん……」


 意外と老けて見えるのか。アギの呼び方に3番は少し動揺しながらそのシスターに目を向ける。


「なっ!」


「ん?」


 アギは驚いて声をあげた3番の顔を覗き込む。構わずに3番は生体CPUからオリジンを介してリリーと呼ばれたシスターの顔情報を解析する。


【99.9% ユリアス・ホワイトと一致しました】


「おっちゃん?」


「ちょっと待っててな」


 ボックスとの非常通信を開こうとした矢先。


【最大警告:爆撃接近。ここは危険地帯です】


「!?」


 3番の神経に生体CPUが警報を発して3番はすぐさま自身とアギをマントで包み込み、マントに流れる防御電流を最大出力にして地面に伏せると周囲を確認した。


 どこかにロケットランチャーが持った敵が居るわけでも、上空に爆撃機がいるわけでもない。


(だとすれば……)


 3番の予想通りに遠方の空からヒューっと空気を切り裂く音が聞こえ始める。


「伏せて!」


 女の大声を聞いて庭の方を見るとシスターリリーが高速で飛び出してきた黒い何かに抱き着かれ地面に伏させられた。


 直後、教会は迫撃砲弾によって爆散した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。