闇夜の守護者
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ニュースをお伝えします。
先日大規模な難民蜂起が発生した「九州イヌモ企業統治領」において。鎮圧の要となった戦闘用自立兵器に対して「三日月と星」等の超国家組織を始めとした多人国家から非難声明が発せられました。
米中は難民に対する過度な鎮圧行為を懸念しましたが、ロシアはイヌモ政府のやむを得ない決定だと支持しました。
日本政府は蜂起鎮圧は虐殺であると企業政府の統治能力に疑問を呈し引き続き解体と行政権の返還を要求し、ロシアに対しても先日から行われていた北方での大規模な空軍演習の中止と企業政府の支持をやめるように求めました。
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イヌモ社長、二鏡啓二社長は邦人連盟からの弾劾を受け入れ社長職を辞任しました。難民蜂起を未然に防げず多くの犠牲者を出した社長は司法で裁かれる可能性もあります。
3年間、二鏡元社長による独裁体制への反発から【知恵の実】の実施した民意調査ではイヌモの統治は邦人の意見を尊重すべきだと言う意見が80%を超えました。これを受けて【知恵の実】は議会の設置を提案し、臨時に警察機構長兼企業統治を任された柿種余里臨時社長によって承認されました。
これにより、200名の議員の席を争う選挙戦の立候補が既に始まっており、邦人は新たな政権に期待を寄せています。(知恵の実アンケートより)
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議会における第一党を獲得したのは、邦人に課せられた規制緩和と難民に対して厳しい姿勢で臨むと公約を掲げた「邦人解放党」が議席を174獲得しました。
「邦人解放党」の党首「羽今網徒」(はいまあみと)氏を始めとした議会政府は邦人居住区の復興と難民居住区を執政員による管理に置くと表明し、執政員に元警察機構特殊部隊出身の「奈須玖尾矛」(なすくおむ)氏を任命しました。
野党からは尾矛氏が以前からSNSや執筆した本等で難民排斥の言論が目立っており苛烈な治安維持活動が予想されるとの懸念がされており。民主的な政権がスタートした新たな企業統治に暗い影を落としそうです。
反乱から2か月。ようやくイヌモは通常の行政へと移ったことになります。
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著しく電力を制限された難民居住区の夜間は闇の世界だった。大半の者は夜の闇と共に眠りにつくが、過酷な配給制となった今大人しく眠りにつかない者もまた存在した。
ゴミがあちこちに捨てられた路地に小さな懐中電灯の明かりがゆらゆらと揺れる。
「あっちに行ったぞ!」
女の子は後ろから聞こえる声に振り向く。赤いワンピースに明るい茶の短髪。脇に栄養スティックの束を抱えながら全力疾走で駆けていく。そして懐中電灯に照らされるとすぐ路地の角を曲がって避ける。
「角に曲がった!回り込め!」
男達の声が響き女の子はともかく入り乱れる角を曲がり追跡者たちをまこうとする。しかし、遠く頭上に飛んでいる監視ドローンの情報は常に追跡者達の端末に転送されており、どれだけ逃げようと自分の行先が手に取るように追跡者達に把握されているとは知らなかった。
路地を出て道路を突っ切ろうとした瞬間。サイドカーをつけたバイクが女の子を轢こうと突っ込んできた。ブレーキ音はもちろんない。
女の子はスライディングしながら足を折ると栄養スティックをまき散らしながら道路に倒れ込んだ。ギリギリ足を折った膝スレスレにサイドカーが通り過ぎていく。
「観念しろクソガキ!」
追跡者男達が女の子に懐中電灯を当てて包囲してくる。擦り傷を作りながら女の子は栄養スティックをかき集めて走り出そうするが、先回りした男にぶつかってしまう。
「どこかの大人に言われたか知らねえが。イヌモから配給業務を委託されてる俺たちから盗もうなんてな」
ヘラヘラと笑いながら男は女の子の顔に懐中電灯を突きつける。しかし、女の子は怯えるどころか睨み返した。
「朝とお昼に少ないからって、皆にスティックを半分に折りながら配ってたのに。倉庫にたくさんあったじゃん!この嘘つき!」
「俺たちは平等に配ってんだ。栄養が足りないなんて言うのはお前らの努力不足だ」
「この嘘つき!鬼!悪魔!お前らなんて天の神様に裁かれるんだ!」
天の神様と言う言葉に男達はキョトンとして顔を見合わせてから大笑いした。
「天の神様か。じゃあお前だって俺達から食料を盗んでるんだ。当然天の神様から罰は受けなきゃなぁ」
「うぅ……」
言い返せずに女の子は腕を掴まれる。
「だけどな。俺たちは天の神様なんて信じちゃいねえんだ。俺達をコケにした奴は、俺たちが裁くんだよ!」
男は握りこぶしを作って振り上げ、女の子は覚悟して目をつむった……。
ガチャン
男達が振り返り懐中電灯を向ける。そこには煙を吹く残骸が破片を飛び散らせて沈黙していた。
「ど、ドローンだ」
男の一人が呟いて全員自分の端末を確認するとドローンとリンクしている画面はオフラインと表示されていた。
「なんで落ちたんだ?」
「知らねえよ」
不安が彼らを包み込み全員が周囲を見渡す。また何かが落ちる音がして男達が握っている端末や懐中電灯が文字通り物理的に切断され零れ落ちた。
「な、なにが起こってんだ」
勇敢に拳銃を取り出す者やガタガタと及び腰でバイクに乗り込む者もいる。だが、男達の探索叶わずに拳銃はグリップから先が、バイクはサイドカーと後輪が切断され男達の持ち物が全て切断されていく。
「次は体を切断する」
女の声だった。どこから発したか分からないがしっかりと男達には伝わった。本能で危険を感じた男達は一人逃げていくともう一人。最後はみんな散り散りとなってその場から逃げ去った。
女の子は自分が助かったと分かるのに少しかかる程、不思議な奇跡のような体験だった。
「大丈夫?」
声をかけられ女の子は振り返ると左手にブレードを携え真っ黒い変なスーツを着た若い女が立っていた。
女の子はこくりと頷いてから我に返って周囲の栄養スティックを集め出す。
「ありがとう神様!」
「か、神様?」
女の子は黒い女に言うと女は困ったように返した。
「うん!今のどうやったの? 絶対人間じゃ出来ないよ!」
「え、えぇそうね」
「ねぇ。私アギって言うの!神様って名前あるの?」
「……神様は神様よ。名前なんてない」
「あ、そっかぁ」
アギは残念そうに言うと女は辺りを見渡してから言った。
「もう危ないから盗みなんてしちゃダメ」
「でも、あれだけじゃお腹すくもん!教会のみんなだって言ってるよ」
抗議したアギに女は穏やかに返した。
「分かってる。でも、明日そうじゃなくなる」
「ほんと?」
「ええ。約束するわ。だけど。その栄養スティックはみんなに持って行ってあげて」
「うん!」
女は優しく諭すとアギは自分がまるで神の使いになったかのような使命感で教会へとダッシュした。
……
教会は瓦と木で出来た和風の建築に屋根に十字架が添えられた質素な印象があるモノだった。
アギは修道院の明かりがついていない事を確認してから抜き足差し足で裏口に回って扉をゆっくり開ける。
「……」
「……」
一人のシスターが笑顔で仁王立ちしている。
バタン
アギはゆっくり扉を閉めるとすぐさま扉が内側から開けられる。
「おかえりアギ」
「あー、あのねシスターリリー。これはね」
修道服に身を包むリリーは黙ってアギ前に来ると体中の怪我を見て回る。
「怪我してる」
「へーきだよ!それにこれね」
誤魔化すようにアギは自分が持ってきた栄養スティックの束をシスターリリーに差し出した。
「それは……」
「悪い奴らがみんなにあげないから持ってきたの」
「駄目よアギ!自警団崩れの奴らだったでしょ?」
シスターは目をつむり何かに集中する。アギにはこのシスター特有の動作が何をしているのか分からなかった。
「追手はない」
「へーきだよ。神様が助けてくれんだよ」
首をかしげるリリーにアギは鼻高々に言った。
「神様?」
「私が悪者に追いつかれた時にね。黒くて変なモノきててね、こんぐらい剣を持った女の神様が助けてくれたんだよ」
アギは両手を伸ばして剣の長さをリリーに伝えようと見せつける一方で、シスターリリーはつぶやいた。
「黒い、剣……」
「ね? すごいでしょ。神様がスゴイ力を使って悪者をおいはらってくれたの」
「アギ」
「なぁに?」
「きっと、その人は神様じゃない」
「どうして? シスターは見たことないから……」
「ともかく。今は痛いのを治しましょう?」
アギはぶーと頬を膨らませてからシスターに背中を押されて教会の中へ入っていく。
一人で中へ進むアギは後ろで立ち止まったシスターの普段見たことない静かな感情の発露を目にすることはなかった。
リリーは両手を強く握り目は憎悪の目つきでガラスに写る自身へと向ける。
(せいぜい苦しみなさい。死ぬまで)
そして、リリーはかつて自分に言い放なわれた言葉を思い返すのだった。




