嵐の前の静けさ
誠に勝手ながら通信の時のかっこは()から≪≫にします。
静かな朝焼けだった。
柿種余里は一部始終を見ることなく指令室から出ていき指揮の一切を【知恵の実】に任せる事にした。
柿種が比較的快適な機構宿舎で休むように言ったが、部下達は彼と共に指令室近くの休憩室で眠り込んでいた。
休憩室の薄い壁で仕切られた個室の一つが給仕型汎用フレームによって開かれる。その片手にはコーヒーが注がれたカップが握られていた。
【おはようございます。柿種様。知恵の実です】
【知恵の実】は給仕型の汎用フレームに意識を乗せて柿種の覚醒した状態を読み取り声をかけた。
柿種はゆっくり目を開けた。
【処方したお薬はどうでしたか?】
枕元に置かれたミネラルウォーターのペットボトルと錠剤を見ると柿種は答えた。
「悪くないよ。状況は?」
汎用フレームが頭部にあるホログラム画面を空中に浮かべると上から見た九州新都市のマップが表示され、赤の危険ゾーンと青の安全ゾーン黄色の汚染ゾーンと色分けされていた。
【青は市民をシェルターから出しても良い地域です。赤は敵が残っていると思われる地域です。黄色は死体や血痕が残留しており清掃している地域です】
戦闘が行われたマップのほとんどは黄色く。中央区から遠く離れた場所にはまだ赤い色分けがされていた。
「警察機構員の死体回収は?」
【最優先で回収しています。生き残った職員へのケアも勝手ながら進行させております】
「気が利くじゃないか。じゃあ俺たちがここで眠り込んだのも骨折り損って事か?」
【結果論ですが。しかし、想定される危険に備えているこそ警察機構の意義であるとも声があります】
「君がそう考えているのか?」
【私が収集した市民の声です】
「そいつは光栄だな。それと……二鏡仁美の容態はどうだ?」
【深刻な状態です。意識を持つ事も避けなければなりません。催眠誘導によるストレス緩和も並行して行われています】
仁美達が装備していた機器から抽出した情報で反乱時の仁美たちの状況がレポート化されていた。柿種は寝る前に読んでしまい、気が滅入った所で睡眠薬を処方してもらったのだ。
最初に人質にされたのは二鏡仁美。それ以外の価値がなさそうな人間は全て即刻処断された。反乱者との間に条約などない。捕まえたところで革命が成功しようがしまいが敵になる可能性が高いなら生かしておく意味は薄いのだから。
そして、その死体の山を意識が朦朧とした仁美は見てしまった。その場に居た利府里衛利が落ち着かせたがその場で半狂乱となって気絶してしまった。
仁美は不意打ちを受け全滅を避けるために、一人でも部下たちの命を救うために、無抵抗で降伏する決断をした。それなのに捕まった後で皆殺しにされたのだから仁美の心境は苦痛に溢れた物に違いない。
「俺のせいだ」
もし反乱が起きたならそうなる可能性は限りなく高いと分かっていながら。不意打ちされれば部下は自分達すら守る事が難しい事も。信用できない武装勢力の助けを借りると言うリスクも全て。
「承知していたんだよ。俺も色々さ、どうにか出来たはずなのにな……」
【ストレス反応が増加しています。これを御飲みください】
差し出したコーヒーカップを受け取り口に含む柿種。深いため息をついてから重い腰を起こした。
香ばしい香りに甘ったるい口当たり。気分が少しだけ安らいだような気がした。
ふと思いついて柿種は質問した。
「そうだ。投降した敵はどうしている? 流石にこれだけの数でいないのはおかしいだろう」
【知恵の実】は当然のように答えた。
【投降は受け付けておりません。設定された排除エリアにある市民非登録者を全て抹殺するのが今回出動した汎用フレームのミッションですから】
「っ!?」
―――
「いつまでいるつもりだ? もう朝焼けだぞ」
緊急医療室の前に訪れた鋼埼はベンチに座る衛利を見つけた。アイギスを着たまま足を抱えて俯いていたが、鋼埼の声に顔をあげた。
「……」
目つきに力はなく。目線は鋼埼に向いているが見ている様子はない。
「衛利。そろそろ休んだらどうだ?」
「いいえ。ここにいます」
言葉だけはっきりと答える。
「私が守らないと仁美は、……姉さんはまた誰かに」
「反乱は終わったんだ。もうお前や二鏡を脅かすものはないんだぞ」
「邪魔をしないで。私はここにいる」
鋼埼はかける言葉が見つからなかった。そんな彼に八つ当たりするように衛利は喋り続ける。
「イヌモが変わったところで今までしてきたことはなくならない。それでも、良い未来の為に乗り越えなくちゃいけないとは分かっていました。けど当事者がいる限り終わらないんですよ。じゃあ、私たちが苦しむ必要があるんですか?」
「……」
「私だって。今までイヌモの活動は嫌だったけど。新たなイヌモを理解はしていたんです。それが人殺しであろうと。私だけじゃない鋼埼さんや柿種さんも社長も、……姉さんだって」
「……」
「散々泣いて苦労して作り上げてきた希望が。結局小さな疑念で全てが壊れました。流民救世共和国が立ち上がった理由の国防軍も結局来なかった。そんな不確かなもので私たちの積みあげた物が一瞬で崩れたんですよ!みんなが大切にしてきたことを!」
「……」
鋼埼は黙って聞いた。
「いったい誰のせいなの? 犯人がいたら今すぐ八つ裂きにしてやりたいぐらい。もうめちゃくちゃになっちゃった。もう戻らないんでしょう? 邦人達だってここまでされて黙ってはいないでしょ?」
「……」
「私は仮にも平和の為に戦ってきたと思ってきた。でも、やっぱり戦えば誰かを傷つけてしまう。これからの戦ってもそう。ここから平和になるなんて……」
「……」
衛利は顔を下げてワナワナと体を震わして再び顔をあげる。目は見開かれ鋼埼は自棄で狂気に近い感情が衛利を支配している事に気づいた。
「ねえ鋼埼さん。本当の敵が居るなら今すぐ教えて? この平和を乱している奴らを全部私が壊してやる!破壊でしか解決出来ないなら私はもうためらわない。これからも姉さんが傷つき続けるなら!」
「やめろ!」
突然の鋼埼の強い口調に衛利は怯んだ。鋼埼はすまないと言って続けた。
「苦心しているのはお前だけじゃないんだ……。それに俺はお前の口から破壊なんて言葉を聞きたくない」
振り絞るように鋼埼は言った。
「昔のイヌモはひどかったのは事実だ。虐殺も残虐な実験もたくさんしたさ。それが難民達にどれだけの恐怖を与えたのかもな。そして、その体制や行いが動機は未だに分からないが司徒の破壊によって止められた。司徒のもたらした破壊で世界をいい方向に変えたのも事実だ」
「だったら……」
「それだけで終わりじゃないんだ。破壊とは問答無用に他者を抹殺する事だ。それを正しい対処法にしたならどんな社会が出来上がる? 分かるか?」
「……」
「果てしない抹殺の先にあるのは破壊した物と同じ旧体制そのものだ。だから苦しくても裏切られようとも俺は同じ過ちを繰り返さない為にこれまで戦ってきた。これからもそうだ」
鋼埼は衛利に近づくと衛利は顔を背けるが、顎を掴まれ無理やり目線を合わせられる。鋼埼が問いかけた。
「それで、お前はどうするんだ?」
―――
「はぁはぁ」
ミングの副官が複数の人間を伴い廃車が大量に置かれた空き地の中にポツンと佇むガレージの前で足を止めた。
副官がガレージのシャッターを叩く。
「私はハン・ミング将軍の副官だ。反乱は失敗に終わった!亡命を希望する!」
監視カメラに気づきそれに必死に手を振る。するとスピーカーから若い男の声が聞こえた。
≪分かった。ただし検査をするからガレージの前で3列の縦隊になって並べ≫
「そんな冷たい事を言うな。頼む!」
≪だったら開けないぞ。特別経路で受け入れる以上は検査が必要だ。20分以内に終わる。落ち着けよ周りには誰もいない≫
副官は歯ぎしりをしながら周りの10人足らずの部下達を3列に並べ、自分も中央の列の一番前に並んだ。
「これでいいか?」
≪あぁ、結構だ……≫
ドドドンッ!
3列に並んだ人間全ての胸に風穴が開いた。
「これで終わりだな」
ガレージの向かい。並んだ死体の真後ろの廃車の背景が動く。それは煙を吹く銃口が動いたように見え、そこからスルスルと透明な布が隠した銃身が現れ一人の青年が顔を出した。
「ボックス。これでよかったのか? 協力者だったんだろう?」
≪馬鹿な。しょせんスフィアの玩具さ≫
「薄情なもんだなスフィアも。国防軍が介入しないって聞いた瞬間マテリアルハザードの制御権を渡してくるなんてな」
透明からモスグリーン色となった透明マントをなびかせ対物ライフルを担ぐ3番は死体を避けてガレージのシャッターを遠隔操作で開ける。
「わりぃな。俺は顔パスなんだ」
副官の死体にいじわるそうに言うとガレージの闇に消える。ガレージの閉じる瞬間に隙間から焼夷手榴弾が4つほど転がって爆ぜた。
炎は激しく死体を燃やし続け、骨も涼し気な風となって静かな朝焼けの中へ消えていった。
推敲してないので投稿してから10分ぐらいはいじり続けます。すいません。




