傷ついた者達の中で
面会室のドアが文字通り縦に一刀両断され、その隙間が蹴り破られる。
踏み込んだ衛利は部屋の隅に広がる血だまりを見つけ、倒れ込んだ仁美を見つける。
後ろ手で拘束されていたのをブレードで切断してから衛利が上体を抱き起こすも仁美は硬く目を閉じ。蒼白になった肌の顔を汗が濡らし、苦しい呼吸は異常に早く繰り返される。
その間にアイギスが仁美の体調を測定すると衛利に処置を指示する。
【右肺部分を負傷。貫通なし。衣服加工による止血を推奨】
(採用)
【提案認可。網膜投影開始】
衛利の視神経が仁美の衣服の効率的な切断部分を青い点線で表示する。 右わきの裾を素手で脇まで破りブレードで背中部分を左肩下まで切断するとそれをはぎ取ってから折ってガーゼに。もう一度右わきから今度は腹を横にブレードを滑らせて左肩辺りまで切ると一本を包帯を作る。
ガーゼを傷口に押しあて包帯を左肩にかけてガーゼを固定する。
【負傷用薬物投与:検体用の半分が適量】
アイギスの腰ポケットから衛利が一粒の錠剤を取り出すと、器用に指先で潰して半分にしてから仁美の口の中に押し込んだ。
【検索:付近の医療室】
アイギスはすぐに庁舎内の医療室の場所を衛利に提供すると仁美を背負って歩き出す。
その時衛利は何かしら声をかけようとするが。
「……」
言葉が見つからない。いや二鏡さんと言うだけでいいはずだが、衛利の心の奥で小さな抵抗が存在した。
そのままどっちつかずのまま医療室へとやってきた衛利が足を止めると、仁美を廊下に降ろしてコインガンを構えながら医療室のドアを開ける。
「新しい負傷者かね?」
医療室には一人の白衣の老人。彼は衛利を見ずに包帯が巻かれたまま床に寝かされていた負傷者の腕に指を当てていた。
床には多くの人間が転がっていた。それも、十人以上の人間が部屋一杯寝かされている。
老人は衛利を一瞥すると特に驚いた様子もなかった。
「銃を下げなさい。ここは戦場じゃないぞ」
老人の言葉に衛利はつい銃を下ろした。
「ここの医薬品が欲しいだけ」
「なぜだ?負傷者がいるのか?」
「ええ」
この白衣の老人が誰で敵か味方かもわからない。それでも衛利は銃を降ろして普通に受け答えしてしまっている。それ以前に白衣の老人は衛利の異常な格好にも特段驚いた様子もない。
「見せてみなさい」
老人は衛利の脇を通り抜けて仁美を見つけると、閉じている目を開き脈と呼吸を指先で確認する。
「失血が激しい。脱水症状にもなっている。君、棚の中に飲料水があったはずだ。取ってくれ」
「え、はい……」
言われるがまま衛利は水の入ったペットボトルを老人に差し出すと、老人は仁美の口に慎重に水を入れていく。
しばらく様子を見てから老人は口を開いた。
「医療室じゃ危険だ。隣の部屋に移そう」
「危険?」
「ああ。あんた警察機構の人間だろ?」
「ええ」
厳密には違うがそんな差異を訂正する価値は今のところない。
「どうやって来たかは知らんが。巡回する奴らに見つかればタダではすまんからな」
隣室は用具室だった。ほとんどの机やら椅子やらは略奪にあったのか運び出されておりほとんど部屋は空となっていた。
仁美を寝かせてから傷の様子を見る老人に衛利は問いかけた。
「貴方は難民側の人間なのに警察機構の人間を処置するんですか?」
老人は衛利の顔を不思議そうに見てからまた顔を仁美に向けた。
「この世には、怪我をした人間とそうではない人間しかいない。私の信条さ」
「この反乱に賛同したのではないんですか?」
老人は鼻で笑った。
「賛同ね。私はただ怪我人がいたからここにいるだけさ」
「じゃあ。警察機構の捕虜がどこにいるかなんて……」
衛利がそれを言いかけると老人は「知っている」と食い気味に言った。
「その人たちを解放すれば解決が捗るだろうけど。どこに捕らえられてるの?」
「中庭だよ。ただ期待するな」
老人の言葉に突っかかりを覚えながらも衛利は近くにある中庭の方に意識を向けるが、そこに脳波は一つもない。
(まさか)
そのまま用具室から出て中庭に接している窓へと近づくと。そこには積み上げられた「塊」があった。それが人間の息絶えた姿が構成されていると気付いた時、衛利は窓から離れた。
「誰がこんなことを……」
用具室へと戻った衛利は震えた声で老人に問いかけた。
「決まっているだろう? 私が負傷した彼らを治療しようと譲らなかった時。巡回した兵は死者は治療はいらないと言って医療室にいる捕虜を皆殺しにしたよ」
「……」
衛利はコインガンを取り出しながら負傷者が転がる医療室に足を踏み入れ、そして意識のない兵士に銃口を向けた。
「やるのか?」
後ろから老人に問われる衛利は振り返らずに言った。
「どのような理由があれ、もう戦えない人間すら手にかける輩達に容赦する理由があるとでも!?」
激昂した衛利の言葉を老人はしばらく黙ってから返した。
「……では、こやつらは、彼らを殺した上官の決定の犠牲となるわけだな。考えなくとも、本当は誰が罰を受けるべきか分かるはずと思うが」
老人は冷ややかに言うと衛利は振り返る。
「それは……」
「まぁ彼らを殺すなら私を先に殺してからにしてくれないか? 怪我をしたお嬢さんは適切に処置すればまだ助かるだろう。だから彼らを殺せば、もう私がこの世で出来る仕事は残されておらん。お前さんの決定と遂行を止められる力はこの老体にはない」
老人はただ立ち尽くして諦めと哀れみが混ざった視線を送り、衛利はその瞳の中に自分を見つける。
「……仁美の状態が安定していない限り何が起こるか分からない。助けがいるわ。私にはまだやる事があってずっとここにはいられない」
コインガンを収めた衛利は老人の脇を通る。老人はまた問いかけた。
「まだ味方とも名前すら分からない人間に仲間を託すのか。そんな安々と信用して良いのかな?」
「貴方は自分の目的に純粋な人です」
「なぜ分かるんだ?」
「超能力者ですから」
衛利は当然のように言い放った言葉に老人は目を丸くした。
「超能力者か……」
脇を通る衛利を見送りながら老人は呟く。
かつて出会った不思議な青年とその姿を重ねる。その青年もまた超能力者を自称していた。
暑いですね。集中力が続きません。




