再戦
例の倉庫まで二人乗りでラングレーを走らせ、ゲートを通りトラックが地下に消えた倉庫まで到着する。道中で4課の追跡はなくドローンすら飛んでこなかった。
衛利はデフォルトブレードを抜き、シックスアイには拳銃を持たせて倉庫群まで足を踏み入れた。
ライトもなく暗く人影も作業用機械もないひっそりとした倉庫群。流石に自警団か警備員すらいない事に違和感を感じた衛利は、脳波感覚やアイギスのあらゆる探知機能で探る。
トラックが消えた倉庫まで辿り着き、内部の様子を伺うが全く罠すら張られていないようだった。
「動的反応がない。もう放棄されたかも」
「生者が地下にいる事は分かってんだ。墓荒らしにはならないだろ」
偽装された床まで足を踏み入れた衛利は、床の境にデフォルトブレードを差し込み目を閉じる。アイギスの探知した情報を視覚に直接投影させ光で構成された世界で床の動力を探し当てた。
「エレベーターのスイッチは?」
「あった」
右手を倉庫の壁に向けると、疑似筋力繊維を射出しそこにある装置を貫いた。疑似筋力繊維が回路を直接接触し装置を解読した。
【設定。重量10t以上の車両がエレベーターに完全に乗った際に下降】
「条件解除して下降」
床が下り始めてると衛利は疑似筋力繊維を収縮させてシックスアイの方に向いた。
「シックスアイはそこで待って……」
「よいしょっと」
エレベーターに飛び乗るシックスアイに衛利は慌てて寄って来る。
「下は何があるか分からない。危険だから」
「確かに俺は非戦闘員だが。追われてていつ襲われるか分からない。孤立している方がむしろ危険だと思う」
それらしい事を言うシックスアイに「でも」と食い下がる衛利は急に静かになった。
「エレベーター。下に何かいる」
「どうする?」
「とにかく叩く」
エレベーターと壁の隙間に衛利は入り込み下へ飛び降りた。
【音響探知。武器形成物反応有。セントリーガン3門と予測。5m下方で射程に入ります】
「繊維を消耗させるから。あんまり使いたくないけど」
左腕の疑似筋力繊維がゆっくりと延びるとそれが渦巻いて盾を形成する。
【射程範囲内です】
アイギスの警告と共に開けた場所で降りる衛利を予測し、セントリーガンから偏差射撃が浴びせられる。左手に展開した繊維で身を守りながら、その空間の天井へ両腰から疑似筋力繊維を伸ばす。
落下の勢いも手伝い、天井を支点に振り子効果と思いっきり左足で空を蹴り、重心を変えて右端のセントリーガンに取りつく。
【アイギス総消耗50%】
他のが振り向く前に衛利にハッキングされたセントリーガンは横に並んだそれらを破壊した。
ハッキングしたセントリーガンも銃座と装置を引き離して破壊し、脅威を取り除く。
「……ここは?」
衛利が見渡すとトラックが一台ポツンと止まっていた。
「ここが駐車場なの」
壊れたセントリーガンの残骸を踏みながらトラックに近づき、荷台を見ると空っぽ。運転席には誰も乗っておらず何の痕跡も分からなかった。
「トラックってそれだけか?」
エレベーターが降り切り現れたシックスアイが質問する。
「そのようね。あれだけの機材を運んだのに、たった一台で運べるわけがない」
「まぁアクシデントの起きた車両で、更にこんな歓迎をされたんじゃあ。ここは罠だな」
「調べるだけ調べてみましょう」
駐車場から更に奥には、また広い空間があった。照明に照らされたそこは、コンクリートの壁と床で殺風景な印象を受ける。あるのは壁に射撃の標的のみ。
だが、衛利が足を止めた。シックスアイの行く手に手を伸ばし制する。
「シックスアイ。どこかに隠れてて」
そして、そこには明確に敵意のある一つの脳波が立ちふさがっていた。
「ようこそ!私の家に!」
「お前は……」
白いボディアーマーに槍状の兵器を備えた少女。ユリアスホワイトだった。
「確かに殺したはずだけど?」
「ええ。その時は痛かった」
ユリアスは首に手を伸ばし、衛利に刺された部分をさする。
「じゃあもう一回殺す」
「今度はさっきのようにはいかない」
衛利が右足を思いっきり踏み出し、右足裏の疑似筋力繊維を地面に向かって射出させ加速すると、デフォルトブレードで切りかかる。
ユリアスは十分な距離を図り、それを余裕で空中ジャンプでかわす。空を切ったデフォルトブレード。
空中のユリアスはすれ違う衛利に槍を刺突するが、身を捻ってそれをかわされ地面に突き刺さってしまう。
「はっ!」
衛利はそれを引き抜きにかかるユリアスを見逃さず、左手の疑似筋力繊維を射出するとユリアスの顔面に向かわせる。体を転がし間一髪で避けるユリアス。疑似筋力繊維の先が裂け、四方八方に延びる。
「残念。口にくわえて顔の中身をぐちゃぐちゃにして。生き返るのも嫌にしてやろうかと思ったのに」
不敵な微笑を浮かべる衛利にユリアスは口を一文字にして槍を構える。
「やれるものなら……」
ユリアスの闘志を感じ取り衛利は鋭い目つきに変わる。
窮鼠猫を噛む。そして、相手はどのような原理かは衛利には分からないが、ユリアスはそれを何度か実行する事が出来る。
「そういえば、ここは貴方の家って言ったわね」
「それが?」
「ここにそれだけ重要な施設が眠っているわけね。説明ご苦労様」
「くっ……」
自分を勇気づける啖呵も、少しは考えた方が良かったと痛感するユリアスと、その瞬間を見逃さず再びデフォルトブレードを振りかざし踏み込む衛利。
その間にシックスアイが火花を散らす二人の脇を通り、奥の扉までたどり着く。
「ネズミめ!」
ユリアスがナイフを投擲しようとするが衛利の攻撃への対応で妨害され、何の抵抗もなくシックスアイは奥の部屋まで走り去った。衛利も奥の廊下には何の脳波もない事を確認し、安心して目の前のユリアスに集中する。
だが、ユリアスも粘る。衛利のフェイントにも騙されず攻撃を放棄したように防御に徹するからだ。
衛利は立ち止まり挑発する。
「また死ぬのが怖いの? だったら大人しく捕まるか、さっさと首でも落とさせてくれない?」
「さっきはアイギスの速度があったから対応出来なかっただけ。そんなのろまな攻撃なら私は何年でも耐えて見せるけど」
先ほどとは違いユリアスも挑発する。最初に殺害した時の激昂して冷静さを欠いたのと対照的だった。
経験が蓄積されている事に衛利は少し危機感を覚えた。
「まさにゲームね。貴方の命」
「なんとでも!」
今度はユリアスが仕掛ける。先ほどとは違いかなり積極的に衛利に仕掛ける。
(こいつ!?)
「何が?」
突然の奇襲に防戦を余儀なくされた衛利は、大振りで自分の目の前に飛び込んできたユリアスの胸にデフォルトブレードを突き刺した。
「あぐっ……」
ブレードは確かにユリアスの心臓を貫いたが、最後の抵抗を完了させるには十分だった。
カランッ
足元に転がる手榴弾。衛利はすぐさまユリアスの体を手榴弾の上に被せて、爆心地から離れる様にヘッドスライディングしながら床に伏せる。
爆音と破裂音。押し付けられるように吹く熱風が一帯に吹き抜ける。
「あいつめ……」
衛利が悪態をつきながら立ち上がる。
「っ!」
その時、衛利は悪寒を感じた。アイギスに問いかけるより先に通信を開いた。
「嘘だ」
シックスアイの行った扉の奥で、彼とは違う脳波が徐々に活発になっていくのを感じた。
―――
通路を進むシックスアイは慎重に通路を進んでいた。ビードローンも切れ単身で拳銃一つで進んでいく。
「まるで映画の主人公みたいだ」
そんな気軽な独り言で笑っている。
(そう映画の主人公みたいだったな。あの人は)
ある人物を思い出す。自分にこの力をくれた男。「イマジンソフト」を自分に渡し、この「6つ目」をくれた規格外の人物。
常にユーモアが大事だと語り掛け、荒れていた自分を変えてくれた。
だが、同時にそれは自分の運命をイヌモに縛る事にもなったが、それでも構わなかった。
それでも、未だにシックスアイは腑に落ちなかった。
(司徒さん。あんた何が不満だったんかねぇ)
考え事をしながら奥の部屋まで着き金属の扉に手をかけようとした時、後ろで爆音が響いた。
「おわっ!」
驚くシックスアイが後ろを振り向く。衛利が居る開けた場所で起こったに違いない。そう思い通信を開こうとする。
ドスッ
後ろから前に押された気がする。事実シックスアイは反射で転ばないように足を一歩前に出していた。
「あれ?」
自分の本当の状況を理解するのに一瞬だけだが、間抜けな声を出す。
段々と背中から胸にかけて激痛と、暖かな液が自分の「断面」から流れ落ちている事に気が付いた。
体が崩れ落ちる。扉から貫通する血塗られた「槍状の兵装」が、扉へと引きずり込まれた。
扉が開け放たれ、量産型雷神を纏ったユリアスホワイトが姿を現した。
シックスアイの端末からコールが鳴り、ユリアスはそれを拾う。
ピッ
通話拒否をタッチして、シックスアイの背中に放り出す。バウンドした端末は血濡れの床に落ちると。
ユリアスはそれを一瞥して扉を閉めた。




