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疑似再開


(すまねぇ)

「分かった。早く終わらせてアドルを探しましょう」


 コンクリートで固められた地下を通る衛利。マップの最奥はここで途切れその先にある巨大な隔壁はビードローンではどうしても通れない。スズメバチ達は隔壁近くのコンクリートの壁にしがみついていた。

 隔壁のど真ん中にある1から9、0の数字がついた制御装置が赤い光を放つ。衛利はアイギスの疑似筋力繊維を一本這わせると、その一本を更に細かく解き電子回路に直接接続させる。


(開くのか?)

「1秒ごとにパスコードが変わってる」

(パスコードを固定する装置がいるな)

「必要ない」


 赤から緑に変わり隔壁がスライドする。ビードローンはすぐさま中へと入っていく。


(どうやったんだ?)

「1秒の間に全ての桁に全ての数字を入力した。知恵の実の力を借りれば余裕」

(なんだ。ゴリ押しかよ)

「それより、中の方は何か……」


 衛利が言いかけてすぐさま走り出す。隔壁の中にある開けた部屋には足場の鉄網(グレーチング)が通っている。それだけで何もない。そして、足場には均等に四角い穴が開いていた。中を覗くと更に下がある。


「まさか」

(衛利!ここの下には道路がある。おそらく脱出口だろう)


 すぐさま下へと飛び降りる衛利。高さ10m近くを軽々と着地すると、一本道のトンネルが存在した。その先は徐々に上へと昇っている為全体を見通すことは出来ない。


「まだ逃げたばかりか」


 そう言って走り出そうとするが、やめる。


「爆弾がある。感知式ね。恐らく引っかかったら崩落する」

(どうする?)

「でも、閉鎖空間ならこういうやり方もある」


 両手を合わせると乾いた音が鳴り響き衛利は目をつむる。


【上り直線3kmで反響】

「音響探知終了。マップに投影する」


 第6集積場周辺の地図にそれを基にした出口の予想地点が表示される。


(もしその反響が出口じゃなくて隔壁やエレベーターの入り口だったら?)

「その時はその時。今の出来る事はこれぐらい」


 右手を挙げて疑似筋力繊維を射出し、先ほどの場所まで昇ると小走りで施設を後戻りする。


(それにしてもアイギスの性能は凄まじいな。これを着ればどんな敵も相手じゃない)

「そうね。命を懸けた戦いって感じたのも、これの未完成版を身に着けた時だけだったから」

(へぇ、どんな相手だったんだ?)

「利府里司徒」

(あっ……)

「気にしなくていい。むしろそんな態度が逆に私が気になる。司徒については私はもう吹っ切れてるから」

(分かった)


 しばらく後戻りして搬入場に差し掛かる。先ほど戦闘を行った場所だった。死屍累々の死体達はもう脳波を発していない。

 ユリアスの死体もそのまま倒れたままだ。


「シックスアイ」

(どうした?)

「強化検体ってあんな風に使うのかな。私にはあいつらに命令した人間が、時間稼ぎか捨て駒に使ったとしか思えないけど」

(つまり?)

「相手は普通の人間をESPにする技術と、強化検体を量産する技術があるのかもしれない」

(それは物騒にもほどがあるだろ。でもお前にはアイギスがあるから……)

「分からない。強化外骨格を着た司徒レベルが複数体襲い掛かってきたら流石に負けるかも」


 シックスアイには衛利の言葉が冗談か本気か分からなかった。ただ衛利の推理を否定する材料は今のところ手元にはなかった。


 ―――


「ユリアスの生命反応が消えました」


 移送車に乗っているがセルゲイは淡々と報告すると、腕を組んだボックスはうなづいた。


「ふむ。やはり魔女相手にはこれだけじゃ無理だね。雷神をフルスペックでどうにか。単体じゃあ鹵獲どころか撃破すら難しい」


 娘のようにかわいがっていた人間が死んだのに全く動揺していない二人。その訳はセルゲイが持つ端末のスピーカーから聞こえた声だった。


(申し訳ありません中佐。負けてしまいました)


 紛れもなくユリアスの声だった。ボックスは端末を覗き込むと、画面に表示された「ORIGIN」の文字。


「無事自我がオリジンのプールに入れたようだね。記憶の混濁とか起きていないかな?」


 ボックスが確認すると、ユリアスは申し訳なさそうにはいと答える。


「ふう、知恵の実のようなでかすぎるネットワークだと、自我を没入させた瞬間終わりだ。様々な情報に塗りつぶされて、自我なんてたちまち消えてなくなる。我々の開発したオリジンのように小規模でも最適化され纏まっている方が使いやすい。道具は人が扱えて初めて成功なのだよ。そうと思わんかね中佐」

「ええ。そうですね」

「ふむ、まぁいい。それにしても」


 端末からバックミラーに目を移すと、後続のトラックが列をなして続いているのが見えた。周りは既に第6集積場から遠い場所にあった。


「能力開発カプセルを輸送しやすく設計してよかったよ。我ながら恐ろしい先見性だな。そろそろ魔女も空っぽになった施設で地団太を踏んでいる頃だろう」


 ご満悦なボックスにセルゲイは端末の画面を監視カメラに切り替えた。第6集積場へと歩くユホンの後ろ姿があった。


「しかし、よろしかったのですか? 対象Bを置いてきぼりにして」

「結果さえ分かればどうでもいいさ。この際だ。あらゆるシチュエーションで色々試してみようじゃないか」


 ―――


 装甲車は全て炎をあげて停止している。その周りには自警団の死体が積みあがっていた。

 その中でもまだ暴れている2輪車、ラングレーは前より小型となっても大型バイク程の巨大は安々と人間を轢き潰して爆走する。

 血濡れのラングレーが敵意を示す人間を周囲から一掃したのを確認して車体を止めた。そして、ある反応を感知し、サスペンションをあげて見上げる様にフロントを上にあげた。

 そこには一体の、全身の骨格フレームがむき出た汎用フレームが、集積されたゴミ山の上からラングレーを見下ろしていた。


「……」

「……」


 首無しの汎用フレームはゴミ山から一歩一歩、ラングレーへと近づき相対する。

 そして、地面にしゃがみ込んだ。


「……」

「……」


 二回足元の地面を叩き両手を広げる。ラングレーはゆっくり近づくとワイヤーアームを伸ばす。フレームも手のひらを上にして右手を伸ばすと、ワイヤーアームがちょこんとその上に乗る。


「お前だったか。見分けはすぐついたぞラングレー」


 ムゥンとジェネレータで唸り声をあげるラングレー。


 しばらくの時。戦場には似合わない機械の接触。しばらくしてフレームは手を引いてラングレーの車体を撫でた。


「言いつけを守ってるようで嬉しいよ。いや厳密に言えば言いつけたのは俺自身ではないけど」


(ラングレー!施設まで来て)


 衛利への通信がくると、ラングレーはアームワイヤーでフレームの手を掴み、もう一方のアームワイヤーで施設を指差す。だがフレームは首部分を横に振った。


「俺はそれを望まない。ただ影であればいい。行け」


 ラングレーが旋回し施設へと向かっていく。


 ―――


 街灯が照らす通り。第6集積場へ向かい歩くユホン。その足取りは踏みしめる様に強く、目は常に何かを見逃さないように見開き、落ち着かないように周りを眺めていた。

 右手にはしっかりと拳銃を握る。


「敵……私を追い詰める敵」


 時たまそうつぶやき、まるで忘れないように何度かそれを繰り返す。


 それはただの偶然か。それとも付近の住人が逃げ出し無人となった通り故の必然だったかもしれない。


「ユホン? ユホンじゃないか!」


 後ろから声をかけられるユホン。その男の声がユホンの脳内を揺さぶっていく。


「アドル?」


 ゆっくり振り返るユホンは足を引きずるアドルを認めた瞬間だった。


 ―――


(君は何に追われていた? まだ恐怖が残っているようだね)


(君の名前以外に思い出せる名前は? そうかアドルか)


(いいかい。君を追う者の名前はアドル)


(この銃を持て。アドルは今無防備だ。君の恐怖は拭われる事だろう)


 ―――


「探したよ。大丈夫か?」


 膝に手を着いて荒い息をするアドル。


「もう大丈夫だ。奴らはここから……」


 穏やかな顔で上体を起こしたアドルが見たのは、アドルに向けて拳銃を構えるユホンの姿だった。


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