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愚行

 アイギスの疑似筋力繊維が複雑に体に絡みつくと、装甲が繊維に動かされ稼働する事を確認する。バッテリーは十分。アドルからもらった拳銃とナイフ。ラングレーの内部に収納されていたデフォルトブレードを疑似繊維に保持させる。

 第6集積場を前にした衛利は集積場のゲートを街中にある高い建物の上部階層に忍び込み窓から見張る。集積場付近は平地となっているが、全く近づけそうになかった。

 通信先のシックスアイがうなる。


(集積所の至る所で生体レーダー完備。おまけに天井に集積場を見下ろすようにセンサーカメラを作動させている。まるで軍事基地と衛星だな)


 衛利のうなじにある生体CPUと繋がっているアイギスが、レーダーの範囲とカメラ、兵士達の視界を衛利の視覚に投影する。

 集中すると衛利はどこまでも遠くまで見渡せた。画面なら1ドット程の兵士達の顔が鮮明に見える。アイギスがそれを解析し、データ化する。


「でも、突破出来ない事はなさそう。アイギスも合わされば一人でも」


 この予測は慢心ではなく。相手は銃を持っただけの普通の人間だと可能である見立てからだった。


(一人で突破するのはいいが、あまりバッテリーや疑似筋力を消耗するのは避けた方が良いだろう。補給の当てがあるわけじゃないからな)

「分かってる」


 再び警備の観察する衛利。するとイヤフォンから一瞬ノイズが鳴った。


「?」


 通信を確認すると、二人の通話に名義不明の3人目が介入していた。


「探知された!?」

(衛利。今すぐ通信を切れ!)

「いいえ。逆探知して」

(分かった)


 衛利はラングレーを近くまで呼び寄せいつでもここから脱出出来るように準備をする。それまで階層の隅に身を潜めた。


「誰なの?」


 衛利の問いかけにそれはあっさり口を開いた。それは機械加工された男の声に聞こえた。


(私は、イヌモ亡霊だよ。初めまして利府里衛利さん)

「そんなことを聞いてるんじゃないの」

(困ったな。私に名前はないんだ。……そうだなフレームマン。とでも呼んでくれ)

「フレームマン。分かったわ。目的はなに?」

(君が第6集積場と地下にある研究室を破壊しようとしているのは知っている)

「どうして……」

(私がその手伝いをしたいと言ったら。どうだろう?)


 衛利はしばらく沈黙すると。フレームマンは続けて言った。


(そうだな。十数門の迫撃砲が集積所に向けられていて。それが一気に発射されれば、別のところへ侵入した君の負担は軽くなると思うけど)

「撃っただけで注意が逸れるなら苦労なんてしない」

(そこに小機甲部隊が流れこむと言ったら?)

「からかわないで。そんな大規模に動けば、集結する前に自警団に察知されるわ」

(そうかな? もう準備万端だが。まぁ良い君がこの地点で合図をくれたら私はすぐにでも行動を開始出来る)


 生体CPUに送られた2つのマップ画像。一つは集積所の上から見た画像。ゲートとは別の方向からの突入地点がマークされ、迫撃砲の効果範囲の予測が表示。もう一枚は集積所内部の3Dデータ。欠陥な部分があるが、皆無と言って良い内部データには魅力を感じた。


「じゃあそれはそうとして。貴方の言う事が信用できる証拠はあるの?」


 どれだけ魅力的な計画を提示されても、実行すると言う確約がなければ信用するべきではない。それはかなり難しい。

 だが、フレームマンは迷わず答えた。


(利府里司徒が自決する時。体に巻いていた手榴弾の数は8つだ)

「!」

(これは君と君の記憶を覗いた人間しか知らないはずだ)

「貴方は何者なの?」

(さっき言ったろう。フレームマンだ)


 ―――


「対象Bの鹵獲を行った後に、通りを警戒していた隊員一人が帰還せず。敵対勢力の感知を恐れ捜索せず撤収か」


 研究所の搬入口で大型車両を出迎えたセルゲイは顔色を変えずに報告概要を読んでいた。


「申し訳ありません!中佐」


 少し泣きそうな顔で謝るユリアスは、雷神の量産品である装備を身に着けたままだ。

 全身を機械的な装甲で覆われた雷神とは対照的に、白い標準的なボディアーマーに腰部に大型、腕部に小型ジェネレータと全身に各所イオンスラスターを付けられ、槍型の兵装は背中にクロスさせるように分離、収縮して収まっている。


「二人一組で行動してたはずだが、相方も気づかないうちに突然消える。そのうえ兵士装備からの反応も消失した。なぜだ?」


 考えられることは色々あってもセルゲイは最悪の場合を想定し、ボックスに連絡を取る。


(どうしたんだい中佐?)

「ボックス。対象B鹵獲作戦中に、隊員が一人が行方不明になりました」

(なに!? それでどうしたのだね?)

「敵対勢力への感知を恐れ捜索せず撤退しました」

(むむむ、……まぁ保険はしてある。逃亡だろうと捕まろうとも作戦範囲外に出れば兵士装備につけてある自爆装置が起動する。作戦範囲付近で爆発が起きれば安心さ。それで爆発はあったかね?)


 セルゲイはすぐ端末を開き部下たちに確認させた。


「今のところ爆発はありません」


 ボックスの口調が素早くなる。


(いますぐ周囲の作戦エリアを解除しろ)


 セルゲイは命令の意味を理解し、慌てて反論した。


「しかし、作戦エリアは表の警備と共通です!もし解除すれば」

(君がやらないなら私がする)


 セルゲイが端末を見ると先ほどの作戦を行った周から作戦エリア指定が消失し、同時に自警団の反応が全て消失する。


「……」

(もしもの事がある。あちらが落ち着くまで居るつもりだったが、被害は出さないようにしなければな。おおそうだ。対象Bをすぐにカプセルまで運んでくれ。時間はないぞ)


 ボックスは通信を切ると、地下の施設に放送が流される。30分以内にこの施設を破棄する。

 放送を聞いた職員たちはすぐさま定められた手順を始める。


「中佐。私たちは」


 ユリアスが伺うとセルゲイは大型車両に向かう。


「ボックスに対象Bを渡しに行く。ついてこい」


 ドアを開き乱暴に少女を引きずりだすと、セルゲイはユホンを背負って搬入口から後にした。


 ―――


「今更爆発させたか。もう一歩遅かったな」


 首無しの細い人影が周囲を見下ろすと、付近の自警団の詰め所で煙が上がっている。

 あがる悲鳴やサイレン音がこだまし、そんな事を余所に稼働骨格がむき出しの汎用フレームは鼻歌を唄い出し暇をつぶしていた。


(こちら利府里。フレームマン。位置についたわ)

「分かった。始めよう」


 ―――


 迫撃砲の着弾音と共に各所の警備や装甲車が慌ててゲート方面に向かう。そして、土煙が収まった頃に異変は起きた。

 装甲車の機関銃砲塔が周囲の警備隊に向かって発砲する。それも全車両。急発進し、砲塔の死角にいる警備員達を轢き始める。


(ハッキングされてるな。それにしても大胆すぎるだろ)

「丁度いいわ。突入する」


 その様子を撮影していたビードローンからの映像を視覚から消した衛利は、ラングレーにまたがると拳銃を片手にジェネレータを最大出力で加速し、廃棄された車を踏み台に柵を飛び越えた。

 その下には3人の「敵」が警戒に当たっているのを見つけた。


「アイギス!」


 システムが起動し、知恵の実に接続された衛利の世界は全てがスローに見えた。思考が何倍にも加速し、広大な都市管理IOT・知恵の実の処理能力の一部が譲渡される。

 同時にESP能力、神経から筋肉、アイギスの疑似筋力繊維に至るまで統一的な制御下におかれ、あらゆる理想を執行する為の「機械」が降り立った。


【状況開始

 武装レベル1。数3。A.B.Cに割り当て。

 A.こちらを未発見。ゲート方面に意識が集中。

 B.こちらを発見。動揺。銃口はあと3.4秒で照準されます。

 C.こちらを発見。恐怖。銃口照準未定

 総脅威レベル2】


 衛利が拳銃をBのこめかみに向ける。


【Bへ攻撃 拳銃弾

 照準補正。神経、筋力稼働良。疑似筋力繊維補正。距離6.8m。周囲環境考慮せず。対象即死。脅威減少】


 衛利の最初の一発が兵士の一人を葬ると、気づいたもう一人がすぐ銃を向けて応戦する。


【A攻撃 小銃

 Aの恐慌状態を感知。乱射攻撃予測。左方に回避。予測射線上にC有り】


 向けられた銃口から左に飛び出し回避し、その射撃は衛利の後ろの兵士を貫いてしまう。


(しまった!) 


 味方への傷害が更に兵士を慌てさせ、投げられたナイフへの反応が遅れた。ナイフは喉に吸い込まれるように突き刺さり事切れた。


「うわぁ!助けてくれ!死にたくねえよぉ……」


 死んだ味方に撃たれた兵士が泣いて傷口を抑え、のたうちまわる。アイギスは衛利にささやいた。


【排除推奨:傷害レベル低。追撃脅威高】


 衛利はその負傷兵の前に行くと、負傷兵は後ずさりながら首を横に振って死を拒絶する。


「……そのまま倒れていなさい」


 アイギスの言葉を無視し、衛利は死体から小銃を奪うと、負傷した兵士に踵を返し集積場施設へと向かう。

 だが、しばらくして後ろから発する邪気を感知してしまう。

 衛利は振り向かず、ただ願うしかなかった。一歩一歩兵士から離れていく。

 脅威が去れば人はまた勢いづく。それを分かっていても衛利は振り返らない。


(死ね)


 明確な思考言語と共に、乾いた音が鳴り響く。


 カチン


 拳銃弾の薬きょうが落ちると、こめかみを撃ち抜かれた負傷兵は力なく小銃を手放し倒れ伏した。負傷兵へ向けた拳銃をしまう衛利をアイギスが咎めた。


【警告:愚かな行動です】

「そうね。でも、……いいえ。なんでもない」

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