表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正妃様の憂鬱  作者: roon
11/11

11. 正妃

 これで、とりあえず終了です。

 翌日、ナディアはエルディックから正式に正妃として公表された。あまり人と付き合うことのないエルディックが突然正妃を持つということで、慌しくお披露目の準備が進められ、更には視察も兼ねた新婚旅行が組まれることになり、ナディアは慌しく日々を過ごしていた。


 お披露目が終わり、少し落ち着いた頃、ナディアはテミスリートの3度目の訪れを受けた。


「お久しぶりです、正妃様。ご機嫌麗しく」

「テミス様!」


 今日もお菓子持参な義弟にナディアの表情が一瞬引きつった。


「テミス様」

「はい?」

「・・・何も、入っていませんわよね?」


 あの後、エルディックからテミスリートが紅茶に薬を仕込んでいたことを聞かされ、ナディアは顔を真っ赤にした。言われてみれば、普段の自分なら恥ずかしくて口に出来ない言葉をすらすらと言えていた。おかしいとは思っていたのだが、それが薬のせいであるとは思っていなかった。そのおかげでエルディックと懇意になれたのだが、知ってしまえばもう懲り懲りである。顔を桃色に染めるナディアに目をぱちくりさせたテミスリートは軽く吹き出した。


「わ、笑わなくても・・・」

「大丈夫ですよ。あれは、特別ですから。もうあのようなことをする必要はないでしょうし」


 正式に正妃に迎えられたのなら、もう小細工は必要ないだろう。今後は二人が正面から確かめ合っていくことである。

 テミスリートの言葉にナディアはほっと胸を撫で下ろした。


「ですが、もし何か問題がありましたら、また処方しますから、仰ってくださいね」

「・・・・・・遠慮しておきますわ」


 再び顔を引きつらせるナディアに微笑むと、テミスリートはお茶の準備を始めた。丁度侍女の交代の時間であったため、部屋の中にはナディアとテミスリートの二人だけだ。今日の菓子はコロコロのマカロンである。色とりどりのマカロンが詰められたバスケットに、ナディアは目を輝かせた。


「(可愛い・・・!)」


 どれから手をつけようか迷っているナディアの横で、テミスリートはのんびりと自ら淹れた紅茶を堪能している。ふと顔を上げ、テミスリートの様子を伺ったナディアはあることに気付き、首をかしげた。


「先日、テミス様も紅茶を飲まれていましたわよね?」

「そうですね。お邪魔した日はいつも頂いておりますが」


 それが何かおかしいのだろうか? テミスリートは首をかしげた。


「何故、テミス様には薬が効かなかったのでしょう?」


 ケーキならともかく、紅茶に仕込まれていたのだから、テミスリートも薬を飲んでいたはずである。しかし、あの時のテミスリートには薬が効いている様子はなかった。不思議そうにするナディアに、テミスリートは苦笑をもらす。


「私の口からは言いにくいので、後で兄上に聞いてみてください」


 どうやら、教えてくれる気はないらしい。腑に落ちないが、エルディックに聞けばいいことなのだからとナディアはとりあえず頷いた。


「分かりましたわ」

「お願いします。・・・いよいよ、明後日ですね」

「ええ」


 明後日から、ナディアはエルディックと共に視察という名の新婚旅行に出かける。側室とは違い、正妃は王の補佐を行うこともあるため、後宮を出ることが可能である。しかし、長く後宮を離れることができるのはこの新婚旅行の時だけだ。ナディアにはそれが楽しみだった。


「楽しんできてください」

「ありがとうございます」

「お土産話を、期待しています」

「もちろんですわ。・・・王を、お借りしますわね」


 側室であるテミスリートは後宮を出ることが出来ないため、お留守番だ。旅行中はエルディックの訪れもない。一人残していくことと、エルディックを独り占めする申し訳なさにナディアは少し表情を曇らせた。


「お気になさらず。私もたまには一人を経験したほうが良いでしょうし、兄上も、少し私と離れた方が良いでしょうから」


 エルディックが自分の元を訪れる限り、エルディックの口下手は治らないだろうとテミスリートは薄々感じていた。最初は約束を守るために訪れていたのかもしれないが、王になってからはとにかく話をしたくて来ているようにしか思えないのである。その筆頭が、ナディアについての話だった。本人に言えば良いのに、自分の所に来てこれが嬉しかった、これが悲しかったと毎日のように話されれば、さすがのテミスリートも呆れるしかない。ここ数日は特に上機嫌でやってきて、散々惚気て帰るのである。いい加減、一時的に距離を置きたかったため、旅行に行ってくれるのはテミスリートにとってとてもありがたかった。


「(この旅で、少しは社交性を身につけてくれると良いのですが・・・)」


 自分以外にも、話が出来る相手を増やして欲しいとテミスリートは心底思った。


「兄上のこと・・・よろしくお願い申し上げます」


 万感の思いを込めて頭を下げるテミスリートに、ナディアは少し驚いたが、やがて幸せそうに微笑んだ。


「・・・・・・・はい」

 今まで読んでくださり、ありがとうございました。

 続編として『弟君の受難』(完結済み)、『側室殿の苦悩』(連載中)があります。

 また、登場人物の小話・小ネタを『アトランド国シリーズ設定集』に載せています。

 良ろしければ、こちらもどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ