発芽 2
それからというもの、会社の食堂にはよくトマトが出るようになった。トマト本体が出るというよりは、トマト風味の食事がよく出るようになった。
うちの会社の社長は実家が農家で、農家友達がよく会社の食堂に食材を寄付してくれたりすることがある。トマト農家ってここまでトマトを栽培できるのだろうか。それとも、何人もの農家がトマトを育ててるのか。そのどちらかだろうと思い、少し引っかかった。だが、社長と知り合いでもないので、2つの可能性を放置したまま脳内からは段々とその考察が消えていった。
そして、水曜日だ。今日の献立は、ポテトサラとキーマカレーだ。
ポテトサラとキーマカレーというのは思った以上に相性が良く、キーマカレーのスパイスをポテトサラが和らげて、じゃがいもというキャラをキーマカレーに登場させてくれるのだ。よく考えられたコンビだと思いつつ、今回はどこにトマトを紛れさせてくれるのかを考えるのが最近のささやかな楽しみになっていた。
やはり無難にポテトサラだろうか、それともキーマカレーにうまく組み合わせられるのか。そう考察しながら列に並び、順番が来た。
おばちゃんと目配せを交わし、お互いに頷いた。これは最近おばちゃんがミッション・インポッシブルに影響されたからである。彼女もなかなかおちゃめなところがある。
席につき、スプーンを持った。キーマカレーをすくって口に運び入れた。
あれ、あら?キーマカレーの味が全くしない??その代わりトマトの芳醇なコクとさっぱりとした酸味、甘みを感じる。普通に美味しい。だが、これは流石に食材の味で勝負しすぎじゃないかと少しばかりニヤけてしまった。だがポテトサラダも品種は違えどキーマカレーと同様にトマトの味がした。ポテトサラは甘みが強く、ジューシーさのあるトマトだった。今日は随分と思い切ったなあ。だが美味しいのは変わりない。一応満足はして、タバコ休憩に行ってデスクに戻った。
「今日は、随分と斬新でうまかったな」
そこそこ大きな失敗をした後輩の肩をぽんぽんと叩き、冷たい缶コーヒーを渡した。
「ポテサラの組み合わせとか斬新でしたし、美味しかったですけど...」
缶コーヒーを力が抜けた手で受け取った。右の席の有田くんは誠実で良い子だが、ちょっとばかり真面目すぎる。
「じゃあ、ちょっと僕の行きつけの、良い店に連れてってあげようかなあ」僕は軽い微笑みを右に浮かばせた。
「....はい!連れてってください」少し下を向きつつも、素直にえくぼを見せてくれた。愛嬌があるとこがまたなんというか厄介な可愛いやつだ。
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店の、のれんをくぐって外に出て大きく息を吸った。うん、涼し気でいい空気だ。
「ごちそうさまでした!」有田くんはまたも真面目にしっかり深々と頭を下げてきた。
「どうだったよお、店長も美人やし料理も気に入ってくれかな」少しばかり誇張した先輩面をした。
「はいっ!すごく美味しくて、話も聞いてもらいましたし、今日は本当にお世話になりました!」またも深くお辞儀をしてくれた。彼のパッチリとした澄んだ目が僕をきれい映していた。この歳にもなってここまで透明な目をしているのは、やはり彼の性格なのだろう。
「変な女とかには騙されるなよおー」彼のピンと背筋の伸びた後ろ姿を見送った。
帰るかと家路に足を向けた。久々に来たからか、味に少し酸味が入っているような気がした。なんというか、リコピンの入ったトマトのような。店長に良いトマトを仕入れたなと褒めたが、彼女はもう歳で、舌がサヨナラし始めたんじゃない?って笑った。からかっているのかと思った。彼女の性格上、ありえないことではないからだ。
偶然だろうか。
なんというか最近トマトに囲まれすぎている気がするし、日に日にトマトの味が鮮明になっていっている。
店長が言うように舌がもう歳でやられたのだろうか。だが、まだ僕は41歳でヨガとか運動も少し噛じったりしている。
病気かと思い会社や家でも調べた。だがあるのは、味覚が薄れて行く病ばかりでトマト関連のは一つも見つからなかった。
少し怖いな




