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間引き 3

立派なトマトになれないモノは間引かれる。



今日は、待ちに待った土曜だ。外食をする。それが今日の一番の目的だ。きっとよく行く場所だけがトマト化しているのだろう。そうに違いない。

実は僕、日頃から食堂の飯をこっそりも誓っている。食堂のおばちゃんが余り物を詰めて、その日の晩飯と翌日の朝飯にしてくれるのだ。もうここまでくれば、本当に東京のお母さんっていう感じだな。そして土日用に、4食分ぐらいの弁当まで作ってくれる。なんというか申し訳なくなるぐらいだが、彼女が言うには臨時の野菜の寄付が多すぎて、消費が追いつかないらしいので、僕の働きはすごく感謝されている。

ちなみにあとの2食は、妻が作ってくれる。妻も楽で良いと喜んでくれる。僕は食べるだけで二人からも感謝される。僕は幸せものだ。


さて着いた。ここは、自分の家からだいぶ遠いお気に入りのお店だ。ラーメン屋だ!しかも結構こってりのやつだ。若い頃は今の職場とは違って、このラーメン屋の近くにあった。さらには体力も有り余っていたので、ここが大好きだった。好きなのは今も変わらないが、ちょっと体に来るものがある。


らあめんと書かれたのれんをくぐって店内に入って、昔からの定位置の店のカウンター席の一番奥へと座った。


「おおお〜!大島ちゃんじゃないけえ!」

無精髭で、白いゴワゴワのタオルを頭に巻いた恰幅の良いおっちゃん店主が早速気づいてくれた。


「おっちゃん、久しぶりにきちゃいました!元気にやれてましたか」

やはり、おっちゃんはどこか人を安心させる効能がある。


「おうおう、そっちこそどうだよ」

僕の知っている時より、少しガタイが良くなった体から大きな声を出した。


「もちろんですよ。んじゃあ、いつものやつで」

常連の特権を発動させた。


「おうよ!」おっちゃんは、歯並びの良い満面の笑顔で返してくれた。


未だに覚えてくれているというのは、ほかでは比べられない喜びがある。



「おまちどうさん! 歳なのにやるねえ、ちょっと多めに入れたからな....」

おっちゃんが元気な声で言った。歳だと知っているのなら少し減らすのが正しいサービスだと思ったが、おっちゃんらしい、ありがた迷惑はなんとなくうれしかった。


この香りを嗅ぐだけで意識が飛びそうになる、こってり豚骨ラーメン。すごく懐かしい。

「いただきます」

手を合わせ、食事をする準備をした。


カウンターに置かれている割り箸を取って、割った。割れ具合は良かった、今日はきっといい日になるだろう。


麺を持ち、勢い良くすすった。うまい!これは、紛れもなく「ラーメン」だ!一切あの赤い食べ物を感じさせない。うん!美味い!


この太め麺こそ、俺の知っている食感だ。

麺の目に見えない凹凸一つ一つが濃厚なこってりスープを上手にすくい上げている。スープが絡み合うことで、この麺をただの美味しい小麦が香る上品な麺からがっつりと男の本能を脳まで刺激するようなコクのある麺となる。

この白濁したどろどろのスープが喉につっかかってスッとは通ってくれない。だがこれがいいのだ!たまらなく癖になる。そしてそれをお冷やで流し込む。もうここまで、くれば戻れない。

そして、上に豪快にのせられたチャーシューを一噛みする。まだまだ食事は終わらないというのに、胸焼けしそうだ。だが、これも漢の試練!きつくても美味い!

変わる事がない嬉しい事実だ。

チャーシューは食感がなくまるで口にバターを入れたかのように溶けて、そしてぐっと重く来る。これがまたたまらない。少し胃を軽くするため山のように盛られているもやしを頬張る。程よい水気が僕に元気を与えてくれる。そして、また麺を口いっぱいにすすった。


「こちそうさま....でした....」

さすがに若かりし頃のようにスープも流し込むことは出来なかった。この歳でこの量とこのラーメンは少々きつい。だが久々にしっかり芯のある美味いもんが食べられた気がした。


「良い食いっぷりだねえ」隣に座っていたメガネの男が話しかけてきた。「いやはや、その歳でそれは見習いたいもんだ」確かに、年齢はほとんど同じだろう。


「当たり前よ、うちの大島ちゃんは一味違うんじゃけえぇ!」

おっちゃんは、手慣れた作業をしながら言った。


「ちょっと、買いかぶりすぎですよ」

僕はぽんぽんと優しく腹を叩いた。ここまで、気持ちよく褒められると本当に気分が良い。


「じゃあ、ごちそうさまでしたあ!」

代金を払って、のれんをくぐって息を吸った。この辺りは結構な田舎で空気には淀みがなく美味しい。


風鈴の音がチリンと聞こえた。ふと音の方向を見ると、ラーメン屋の店先にぶら下がっているのを発見した。だいぶ参ってたんだろう。来たときには、全く気づかなかった。

風鈴は良い、気持ちだけかもしれないがとても涼しい気持ちになる。冷たく心地の良い田んぼでカエルが鳴いているのが聞こえた。その中に混じって、虫も頑張って鳴いていた。

来た時より音がずっと鮮明に耳に届いていた。

やはり、トマト化はしていなかった。やっぱ原因はストレスとか、そんなものだろう。




そして、帰りに最近出たコンビニスイーツを買うことにした。病気はストレスだったことが分かったところだし、スッキリした気分だ。

コンビニに入ってスイーツの棚から、新作いちごロールケーキを取って、会計を済ませた。ちなみに、ロールケーキ全般は昨日までトマト化しなかった救世主だった。まあ今日からもお世話になるということだ。

ロールケーキのスポンジ部分から頬張った。ん〜〜美味し、スイーツは人を落ち着かせる。そしてお待ちかねのトマト色の真っ赤ないちごと生クリーム。見るからに美味しそうだ。これはこれは、いちごの繊細な酸味と甘さ、落ち着きのあるしっとり生クリーム、あとトマト。


トマト?

成分表を見たがそんなもの書いてなんかいない、はずだ。だがトマトだ。

やはり今日はもう疲れているんだ。重たいラーメンも食べたし、移動の時間も長かった。

そうだ、きっとそうだろう。




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