第2話
昼休み。
アレクは友人グループと一緒に昼食を食べていた。
冷たく、無愛想で、正直一緒にいてもあまり楽しいタイプではない彼が友人たちと食事をしているのは少し意外だった。
根っからの内向的な人間である彼は、自分から会話を始めることなどほとんどない。
だからこそ、彼の友人たちの大半は外向的で明るく、自分から話しかけてくるような人間ばかりだった。
すると突然、親友であり幼馴染でもある御手洗健が質問を投げかける。
「アレク、俺たちとカラオケ行かないか?」
滅多に誘いを受けないアレクだからこそ、健は子犬のような目でそう尋ねた。
健はアレクと同じくらいの身長で、バスケ部のキャプテンを務めている。
社交的で親しみやすい性格もあり、女子からもかなり人気があった。
「いや、パス」
アレクは少し苛立ったように答える。
そして友人たちを見ると、まるで捨てられた子猫のような視線を向けていた。
(そんな安っぽい手に引っかかるわけないだろ……)
「お願いぃぃぃ?」
全員が声を揃えて頼み込む。
「嫌だ」
「お願いだからぁぁぁぁ?」
「嫌だって言ってるだろ!」
その時だった。
突然、肩に顎が乗せられる。
左を見ると、葵とその友人たちがいた。
しかも葵はやたらと距離が近い。
「今度は何だよ、葵」
「本当に友達を見捨てるつもり?」
「お前が気にするわけないだろ!」
葵はため息をつくと、アレクの友人たちへ視線を向けた。
「私たちも一緒でいいかしら?」
当然ながら、スケベな男どもである彼らは全員即座に頷いた。
年上の美人集団に誘われて断る男などいるはずがない。
そのため健は一切迷うことなく答える。
「もちろん! アレクもいいよな?」
「なんで俺に聞くんだよ。そもそも行かないって言ってるだろ」
すると全員が二つ頭でも生えているかのような目で彼を見る。
「なんで全員そんな目で見るんだよ」
すると背後から葵が頬を膨らませる。
「お願いぃ?」
「嫌だ」
「お願いぃぃぃ?」
「嫌だって言ってるだろ! くそっ!」
まるでホームレスの食事を叩き落した極悪人でも見るような目で見られる。
「ひどいなぁ。片川先輩を面倒な子供みたいに扱うなんて」
友人の一人が、人類史上最悪の男でも見るような目で言った。
「見てよ、葵先輩こんなに可愛いのに全然動じてない……。ブラックウェルさんって心あるの? 人間の魂あるの?」
皆からの圧力に耐え続けていたアレクの我慢も、ついに限界を迎える。
「分かったよ! 分かったから行く!」
皆が歓声を上げる。
もちろん、敗北したアレク以外は。
◇
授業が終わると、全員でカラオケへ向かった。
アレクと葵は本隊から四メートルほど後ろを歩いている。
無理やり連れてこられたことに多少は苛立っていたが、昼ほどではなかった。
「まだ怒ってるの? 小麦頭くん」
どこか得意げで、少し自慢するような口調だった。
「怒ってない」
「すごく怒ってそうに見えるけど」
「まあ、少しだけな」
彼は視線を逸らしながら渋々認めた。
「じゃあカラオケの後に何か奢ってあげようか?」
「それなら受け入れてもいいが……待て。その金どこから出すんだ?」
「生徒会の予算」
「第三世界の独裁者みたいなこと言うなよ……」
「少しくらいの汚職は問題ないわ。それに会計の弱みを握ってるから、お金を出すしかないの」
「脅迫までしてるのか。なんて優しい先輩なんだ」
アレクは皮肉たっぷりに返した。
「つまり何もいらないってこと?」
「そんなこと言ってない」
「そうだと思った」
◇
やがて全員がカラオケへ到着した。
店員は常連であるアレクたちを見るなり笑顔になる。
「いらっしゃいませ! 大人数ですね。何名様で何時間でしょうか?」
健は女子たちに格好いいところを見せようと、一歩前へ出る。
クレジットカードを取り出し、必死に余裕のある男を演じていた。
「六人で二時間。それとドリンク六つ」
「三万二千四百円になります」
健の脳内で警報が鳴り響く。
なにしろ彼の所持金は一万六千円しかない。
案の定、カードを通すと決済は拒否された。
慌てて言い訳を始める。
「え? おかしいな……たぶん機械の故障じゃないですか?」
その時だった。
アレクがカードを取り出す。
「大丈夫。俺が払う」
カードを通すと、あっさり決済が完了した。
◇
二時間後。
すっかり日も落ち、皆は帰路につく。
「それで、どこで食べるの? 小麦頭くん」
「そこ」
アレクは指を差した。
そこには大きなアメリカ国旗とテキサス州旗が掲げられた、いかにもアメリカンなファミリーレストランがあった。
「本気? ものすごく愛国的な見た目なんだけど……」
「だから行くんだよ」
席に着くと、店員がすぐに注文を取りに来た。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「ダブルパティのハンバーガー、フライドチキン、マカロニチーズ、フライドポテト、それと氷なしのラージコーラ」
店員はアレクを正気とは思えない目で見た後、葵へ向き直る。
「それでは、こちらの彼女さんは?」
「ステーキとお水でお願いします」
店員が去ると、二人は全く同じことを呟いた。
「なんでみんな勝手にそう決めつけるんだ……」
互いの言葉を聞いた瞬間、少し気まずくなる。
アレクは慌てて話題を変えた。
「お前本当に地味だな。レストランで水頼むやつなんて初めて見たぞ。何か問題でもあるのか? サイコパスか?」
「家族四人分くらい注文した人に言われたくないわ」
「色の名前のやつがよく言うよ」
「うるさいわね。少なくとも私の名前はちゃんと発音できるもの」
「俺の名前は一文字じゃないけどな」
「まあ、それでも御手洗くんよりはマシよね。名字がトイレって書かれるのはちょっと……」
二人は同時に吹き出した。
笑っているうちに料理が運ばれてくる。
アレクは即座に食べ始める。
葵はそんな彼を見つめていた。
「ねえ。食べてる時の方が少し可愛いわね」
(こいつ急に何言ってるんだ……?)
「そういうこと急に言うなよ! ラブコメじゃないんだぞ!」
「冗談よ。落ち着きなさい」
葵が食事を始める。
すると今度はアレクが言いたくなった。
「お前、別に不細工じゃないよな」
「あらまあ。なんて創造的で全然適当じゃない褒め言葉なのかしら」
彼女は皮肉っぽく言う。
「褒めてない。ただの事実だ」
「ブラックウェルくんって本当に意地悪ね!」
胸を押さえながら大げさに嘆く。
「別に名前で呼んでいいんだぞ」
その瞬間だった。
葵の顔が赤くなる。
「べ、別に……それは失礼というか……。そもそも名前で呼んでいいなんて言われてないし……」
「俺の名前の方が短いし。呼びやすいだろ」
「た、確かに……アレクの方が呼びやすいけど……」
そう言って彼女が顔を上げる。
アレクは必死に笑いを堪えていた。
「ちょっと! 笑わないでよ! 私はまだ先輩なんだから!」
◇
食事を終えると、二人は一緒に帰路につく。
アパートが向かい同士だからだ。
すると葵がアレクのコートを引っ張った。
「ねえ、アレクくん……どうして私のこと名前で呼ぶの?」
「苗字忘れたから」
「……」
次の瞬間。
葵は彼の後頭部を叩いた。
「何するんだよ!?」
「信じられない! 人の苗字を忘れるなんて! 本当に救いようのない豚ね! 片川よ! 片川!」
「分かった分かった。もう忘れないから落ち着け」
アレクは後頭部を掻きながら気まずそうに答えた。




